43.保科 勇気18
自宅に帰り着き、自分の部屋に入ると、少し埃っぽいような気がして窓を開けた。
こんなむさ苦しい部屋じゃ、女の子も呼べないな。
いや、そもそも一度も女の子と付き合ったこともないのに、「呼べないな」もクソもないか。
あーあ。
「今すぐ会いに来て」とか言ってくれるような、可愛い女の子と付き合いたいもんだ。
自分が死にかけているというのに、そんな馬鹿な妄想をしていた、その時だった。
――プルルルルッ!
お、電話が鳴った。
スマホの画面に表示された名前は、『田中 有紀』。
お、有紀ちゃんからだ。
「もしもし」
『……勇気君! お願い、今すぐ来て!』
「え、マジで正夢?」
『何言ってるのよ! もう、お父さんが……お父さんが……!』
電話越しに聞こえる悲痛な叫びに、俺の思考は一気に現実に引き戻された。
「……非常事態だな。わかった、すぐ行くよ」
俺は家を飛び出し、駅へと向かって全力で走り出した。
電車での移動中も、有紀ちゃんとSNSで連絡を取り合いながら、状況の確認と、パニックになっている彼女をなだめる言葉を送り続ける。
そうか……。
田中のおじさんは、ついにそこまで狂った覚悟を決めて、本当に動き出してしまったのか。
初めて会った時の、あの娘思いの穏やかで優しそうだったおじさんの顔が脳裏に浮かぶ。
強く噛み締めた奥歯が、ミシと嫌な音を立てて軋んだ。
最寄りの駅を飛び降りて、田中家へと続く住宅街を走る。
途中、けたたましいサイレンの音と共に、一台の救急車とすれ違った。
道の端に寄って、その通過を待つほんの数秒の時間さえも、今の俺には勿体なくてたまらなかった。
息を切らして田中家に着くと、玄関の前で、青ざめた顔をした有紀ちゃんが待っていた。
「勇気君……!」
「有紀ちゃん。おじさんは?」
「……お願い、お父さんを説得して……!」
すがりつくように懇願する有紀ちゃんに、俺は静かに、だけどはっきりと首を振った。
「……それは、無理だよ」
「え……」
「あのおじさんは、もう誰の言葉も届かないところに行っちゃってる。俺が何を言ったって、絶対に止まらない」
「そんな……じゃあ、どうしたら……」
「だから、大元の呪いの真相を突き止めよう。呪いそのものをぶっ壊すしかないんだ」
俺は、真っ直ぐに有紀ちゃんの目を見つめた。
「もう、手がかりはあの橘風花さんしか残っていない」
「……わかった。行こう」
有紀ちゃんは、震える手で涙を拭い、強く頷いた。




