42.田中 悠聖7
駅前のロータリーで、ホームレスの中から二人の男を見つけ出した。
過去に家族に迷惑をかけたから、最後くらいまとまったお金を送りたい。そうこぼしていた男たちだ。
私は彼らに、今度頼みたい仕事があると話を持ちかけた。
大金と引き換えに、命の危険があることだということも包み隠さず説明してある。
これで、準備は整った。
あとは、いつ実行するかだ。
有紀の呪いの写真は、今のところ五枚。
もしこれからさらに増えてしまえば、また新たに人間を探さなければならない。
私が死ねばまとまった生命保険金も下りるだろうが、死ぬまでは金銭管理も必要だ。
二人の男への報酬は問題なく支払える。だが、これ以上人数が増えたら、家の貯金の底が尽きるかもしれない。
そして、妻の美奈には、なんと言って説得するか。
有紀のためにこの世に残ること自体は承諾するだろうが、両親や私を差し置いて、自分だけが生き残ることに強く抵抗するかもしれないな。
そんな計算を頭の中で繰り返しながら帰宅すると、玄関の物音を聞きつけた有紀が、二階から駆け下りてきた。
私の、愛しい娘。
その怯えた顔を見た瞬間、私の中で自然と熱い涙が溢れてきた。
仕事などにかまけず、もっと一緒に過ごすべきだったな。
「……お父さん。写真が、減っていた」
有紀が、血の気を失った顔で呟いた。
「良かったじゃないか」
私は努めて優しく、微笑みかけた。
「誰に……誰に呪いを移したの……!」
「そうか。……知ってしまったか」
私は小さく息を吐き出した。
「お前は何も気にしなくていい。父さんが、勝手にやったことだ」
「そんなこと……そんなふうに思えるわけ、ないよ……!」
「有紀。お前の人生はまだ長いんだ」
私は、泣き崩れそうな娘の両肩を力強く掴んだ。
「これからもっと楽しいこと、素晴らしいことがたくさんあるんだ。お前には、生きて欲しいんだよ」
「お父さん……私は、誰かを犠牲にして幸せになれるとは思わない……!」
有紀の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「それに、お父さんもお母さんもいなくなるなんて、絶対に嫌だ……!」
ふと視線を感じて顔を上げると、リビングの入り口の暗がりで、美奈も涙を浮かべて立ち尽くしていた。
「大丈夫だ。母さんには、残ってもらう」
「……え?」
美奈が、驚愕に目を見開いた。
「お前が、一人じゃ淋しいだろう。だから、母さんは死なせない」
これで、美奈を説得する手間も省けるかもしれない。私は頭の片隅で、ひどく冷ややかにそう計算していた。
「じゃあ……それじゃ、足りない一人は……どうするつもりなの……?」
「大丈夫だ。すべて、父さんに任せておきなさい」
有紀は震える唇を噛み締め、それ以上、何も言葉を続けることができなかった。
娘の瞳に映る私が、一体どんな風に見えているのか。
今の私には、もはやどうでもいいことだった。




