41.保科 勇気17
「なんで死んだの? どこで?」
俺が食い下がると、川路さんは面倒くさそうに顔をしかめた。
「そんな細かく知らねえよ。ただ、死んだってそう聞いただけだ」
「誰かの噂ですか?」
「いや、吉田の弟から直接聞いたんだよ」
「その弟さん、当時のこと何か知らないかな」
「無理だろ。弟は再婚相手の連れ子だからな。吉田もすぐ家を出ていったから弟ともほとんど面識ないだろ」
川路さんは、忌々しそうに吐き捨てた。
「俺はずっとここで旅館を継いで生きてるから、連れ子のあいつと顔を合わせて、少し仲良くなったってだけだ」
「……そうですかー」
俺は頭を掻いた。
これで、完全に手がかりは消えちゃったな。
うーん。仕方ない、奏ちゃんの顔でも見に行こうかなー。
あの大人しそうな顔で、笑ったらどんな風になるのか見てみたい。
駒田さんから聞いていた住所へとテクテク歩いていった。
やがて見えてきた古い一軒家。表札には『西本』とある。
よし。
インターホンではなく、古びた押しボタン式の呼び鈴を鳴らす。
ジリリリリ、と昭和のような音が鳴り響いた。
ガチャリとドアが開き、ひょっこりと奏ちゃんが顔を出した。
「……また、あなたですか。なんですか?」
予想通りの、冷たい塩対応。
「いや、ちょっと聞きたいんだけどさ」
俺は笑顔を崩さずに、単刀直入に尋ねた。
「西本君って……本当に、自殺なのかな?」
奏さんの肩が、ビクッと跳ねた。
「……どう、思いますか?」
「うん。俺がいろいろ聞き込みをした結果だと……とても、自殺するようなメンタルが弱い人には思えなくてさ」
その瞬間、奏さんの瞳に、強い光が宿った。
「そう……そうなんです」
彼女は、まるでずっと誰かにそう言ってほしかったかのように、震える声で言った。
「お兄ちゃんが、自殺なんかするはずがないんです。人を巻き込んで、自分から死ぬなんて……」
すでに、二十五年。
それでも彼女の中では、この事件は今も全く終わっていない出来事なのだろう。
優しい兄は、そんないじめに屈して自殺するような人ではなかった。
だからこそ、昨日彼女は俺に言ったのだ。『真実を』と。
「誰か、その辺の裏事情を詳しく知ってそうな人、他にいないかな?」
「……この町に残っている当時の同級生は、家業を継いだ駒田さんと川路さんだけだったと思います。他の人は、みんな出ていってしまって」
「そうかー。じゃあ、ここで調べられるのはこれ以上ないかもな」
俺は小さくため息をついた。
「ごめんなさい。何もお役に立てなくて」
「いや、いいんだよ。俺が勝手にやってることだし。さて、お邪魔しました」
俺が背を向けて歩き出そうとした、その時だった。
「あの……その、写真。もらえませんか?」
奏さんが、消え入るような声で俺を引き止めた。
「え、あの学生服のやつ?」
「はい。……あんな笑顔のお兄ちゃん、めったになかったので」
呪いの写真だというのに、彼女にとっては、唯一残された兄の笑顔の記録なのだ。
「いいけど……これ、移動も転送も、削除すらできないシステムになってるんだよね」
「スクリーンショットとかも、無理ですか?」
「あ、それは考えてなかった」
俺はスマホを取り出し、画面のスクショを試みた。
しかし、保存された画像を開くと、そこにはただ真っ黒な画面が写っているだけだった。
「……ん、無理みたい。マジでどういうシステムなんだよ、これ」
「じゃあ……私のスマホで、直接その画面を撮ってもいいですか?」
「それだ! 撮ってみて」
俺はスマホの画面に西本君の笑顔を表示させ、奏さんの方へ向けた。
奏さんは自分のスマホを取り出し、俺のスマホの画面にレンズを向ける。
――カシャッ。
静かな住宅街に、電子のシャッター音が響いた。
奏さんは、撮ったばかりの自分のスマホの画面を確認し、悲しそうに眉を下げた。
「……だめみたいです」
彼女のスマホの画面には、俺のスマホの本体は写っているものの、肝心の液晶画面の部分だけが、まるでブラックホールのようなどす黒い闇に塗り潰されていた。
呪いは、決して外には漏れないようにできているらしい。
「だね。残念だけど。……あ、連絡先って聞いても大丈夫?」
「……はい」
あっさりと頷いてくれた奏さんと番号を交換し、俺はご機嫌な足取りで駅へと向かった。
田舎町での調査は空振りに終わったが、可愛い子の電話番号をゲットできたのだ。悪くない収穫だ。
……そう、俺は完全に浮かれていた。
奏さんが俺のスマホの画面を『撮影』した、あの瞬間わずかに映り込んだ指。
自分のポケットの中で、音もなく『五枚目』に増殖していたことなど、全く気がついていなかったのだ。




