40.保科 勇気16
うーん、頭痛い……。
ズキズキと痛むこめかみを押さえながら、俺は布団の上で身をよじった。
あの後、どういうわけかスナックのおばさんとすっかり意気投合して盛り上がってしまい、深酒をしてしまったらしい。
さて、何だったか。
そうだ、川路さんだ。あの川路さんがこぼした、『あの時』っていう言葉。
あれ、何だろう。ひどく引っかかる。
それにしても、西本君。
いじめに屈せず、周りからもからかいにくいと思われるほど、鋼のようなメンタルを持っていた中学生。
それなのに、最後は橋田を道連れに焼身自殺? そして、こんな理不尽な呪いを残した?
謎が謎を呼ぶってか。わかんねーな。
よし、ここはテレフォンだ。
……とはいえ、田中のおじさんは今、別の意味で『アレ』だからな。連絡するのは危険すぎる。
有紀ちゃんにかけてみるか。
俺はスマホを取り出し、有紀ちゃんに電話をかけた。
『……もしもし』
電話に出た有紀ちゃんの声は、ひどく沈み込んでいた。
「もしもし有紀ちゃん。ちょっと話そう」
『うん……』
「なんかあった?」
『お父さんのこと……』
「……聞いたの?」
『帰って、来なかった……』
震える声が、事態の最悪な進行を物語っていた。
「そっかー。まあ、こっちで大元の呪いを解決してしまえば、全部チャラになるんじゃない?」
俺は努めて明るく、軽い口調で言った。
『そう……そうだね。何か分かった?』
「んー、分かったというか。昨日こっちで、駒田さんって人と、西本君の妹の奏ちゃんって人と話したんだ。あと、川路さんっていう当時のクラスメイトともスナックで飲んだんだけどさ」
『うん』
「西本君のことなんだけど。……なんか、こっちで聞いた話だと、かなり芯の強い人だったっぽいんだよね」
『……でも、私、風花さんに聞いたよ』
有紀ちゃんの声が、少しだけ強張った。
『多分、すごくひどいいじめを受けて、すごく可哀想な人だったんだよね』
「そうなのか?」
『うん。風花さんは……あの着信音のこと、教えてくれたの』
『西本君が、「指名させてください」って、涙ながらに懇願する声を、電子音に変えたものなんだって』
背筋に、ゾワリと冷たいものが走った。
「うげー。悪趣味がすぎない?」
『うん、そうだけど……でも、なんか違うね』
「だろ? 芯の強かったやつが、泣きながら他人に呪いを押し付けるような命乞いをするか?」
当時の証言と、残された呪いのシステムに、決定的な矛盾がある。
「やっぱり、当時の現場にいたっていう、吉田さんに会わないとだめかな」
『会えそうなの?』
「わかんないけど、ちょっと足を使って調べてみるよ」
『……わかった。私もまた、頑張るよ』
「お、明るい声。そのほうがかわいいよ」
『……もう、ばか』
有紀ちゃんが少しだけ笑ってくれたのを確認して、俺は電話を切った。
さて、吉田ヤクザさんはどこにいるのかな。
身支度を整えて旅館を出ると、ちょうど玄関先で腕を組んで立っている川路さんがいた。
ラッキー。俺は小走りで駆け寄った。
「川路さーん」
「ん? ああ、昨日の……」
「昨日はありがとうございました。奢るって言いながら、結局いろいろ聞きすぎちゃってすいません」
「別にいい。俺も少し、喋りすぎた」
川路さんは気まずそうに視線を逸らした。
「ついでにもう一つだけいいですか? 当時クラスメイトだった、吉田さんって人の今の連絡先、知りません?」
「……吉田?」
川路さんは、ピタリと動きを止めた。
「ああ、あいつなら……死んだよ」
「え……」
俺は、自分の耳を疑った。
「死んだ……?」




