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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第一部

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38/65

38.田中 悠聖6

 今、私は美奈の実家の前に立っている。


 インターホンに手を伸ばすものの、さすがに足がすくんで踏み出せない。


 こんな弱さは、とうに捨て去ったはずなのに。


 しかし、彼らに告げるべき言葉はすでに決まっている。


 親父と母さんは、呪いの話など全く信じてはいなかった。


 それでも、「もしそれが本当なら、老い先短い人生、孫のためなら惜しくない」と笑って了承してくれたのだ。


 行くしかないんだ。


 有紀を救うためなら、俺はこれからもっと、人として許されないひどいことをしなくてはならないのだから。


 意を決してインターホンを押す。


 あらかじめ訪問を伝えていたため、義理の両親にはとても温かく迎え入れられた。


 だが、その思いやりに満ちた笑顔が、今の私にはひどく辛かった。


 出されたお茶をすすりながら、有紀の近況などをぽつりぽつりと話す。


 今は恐ろしさのあまり学校にも行けていないのだと伝えた後、私は静かに本題を切り出した。


 呪いのシステム。身代わりにならなければ、有紀が死ぬという理不尽な真実。


 突然の常軌を逸した話に、二人はあまりピンときていないようだった。


「……悠聖君。君がひどく思い詰めているのはわかった」


 義父は、探るような目で私を見つめた。


「だが、もしその常識外れな話が本当ならば、私たちは君の提案を尊重してもいい。……しかし君は結婚の時、美奈を絶対に幸せにすると私に約束したはずだろう!」


 義父の怒気を含んだ声が、応接室に響いた。


 身代わりになるということは、娘である美奈も死ぬということ。


 娘を守りたいという義父の激しい怒りは、私が有紀を想うのと同じ、痛切な親の愛なのだ。


「お義父さん。もちろん、わかっています」


 私は、一切の感情を排した声で答えた。


「美奈は死なせません。有紀を、一人ぼっちにしてしまうわけにはいかない」


「……しかし、それでは数が合わない。有紀ちゃんの写真を消すには、身代わりが一人足りないのではないか?」


「世の中には、金に困っている人はいくらでもいます」


 私のその言葉に、義父が息を呑んだ。


「まさか、君……」


「人様に迷惑をかけないようにと、私はこれまで娘に教えてきました」


 自分でも驚くほど、私の心は冷たく、凪いでいた。


「ですが、もし地獄があるなら、そこで永遠に苦しんでもいい。私は、私の大切なものを守るためなら何でもします。どんな罰でも受ける覚悟です」


 重く、息苦しい沈黙が落ちた。


「……そうか。君の覚悟は、よくわかった」


 やがて、義父は深くため息をつき、静かに頷いた。


「私も、娘と孫のためなら迷いはないよ」


 義父が隣を見ると、義母は真っ青な顔をして、オロオロとどうしていいのか分からない様子で震えていた。


「……無理ならば、はっきりと教えてください、お義母さん」


 私は立ち上がり、静かに告げた。


「断るのが当たり前のことです。その時は……私がなんとかしますので」


 深く頭を下げ、私は逃げるように美奈の実家を後にした。


 夕闇が迫る住宅街を歩きながら、私は冷たく計算を始めていた。


 義母が逃げた時のこと、そして不測の事態を考えれば。


 あと二人くらい、身代わりを『確保』しておくほうがいいかもしれない。




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