37.田中 美奈1
こんな意味のわからない事が起こるなんて。
本当に、私の有紀が死んでしまうの?
まさか、と思う気持ちは今でも捨てきれない。
でも、実際に有紀の親友だった梨花ちゃんは亡くなった。
もう、あの人……悠聖は止まらない。
すでに、悠聖のご両親……お義父さんとお義母さんは、身代わりになることを了承したと言っていた。
あの不気味な着信音を鳴らし、呪いを誰かに引き継がせる行為。
それは、呪われている有紀本人でなくても、他人が携帯を操作して移すことができたのだという。
『親父にだけ聞かせて、実験は成功した』
昨夜、有紀の携帯を自室に持ち込んだあの人は、血走った目でそう言った。
実の父親を呪いの実験台にしたというのに、あの人の声には狂気じみた安堵しか滲んでいなかった。
そして今、あの人は私の実家へと向かっている。
私の両親にも、身代わりになって死んでくれと頼み込むために。
私も一緒に行くと言ったのに、あの人は「お前は有紀のそばにいてくれ。俺が必ず説得する」と、有無を言わさぬ声で私を家に残した。
もう、こんなこと現実とは思えない。
有紀を助けるために、祖父母四人と、私たち両親の六人が死ぬ。
私は……死ぬの?
恐ろしさと何故か諦めのようなものが胸を満たした。
その時、ふと、胸の奥から有紀へのどうしようもない愛しさが込み上げてきた。
私のお腹を痛めて産んだ、たった一人の大切な娘。
私はゆっくりと立ち上がり、重い足取りで階段を上がった。
有紀の部屋の前で立ち止まり、コンコンとノックをする。
……返事がない。
そっとドアノブを回して部屋を開けると、暗闇の中で、ベッドの傍らにうずくまって声を殺して泣いている有紀がいた。
その小さな背中を見た瞬間、私の目からもボロボロと涙が溢れ出した。
私は駆け寄り、震える有紀の体をきつく、きつく抱きしめた。
「お母さん……?」
「有紀……愛しているわ。ずっと、愛しているからね」




