35.保科 勇気14
振り返ると、二十代後半くらいだろうか、落ち着いた色合いの服を着た女性が立っていた。
この村、可愛い人が多くないか?
こんな不謹慎な状況だというのに、俺は能天気にもそんなことを思いながら軽く頭を下げた。
「保科勇気っていいます。あなたは?」
「私は……西本奏です」
やっぱり、そうか。
昨日田中のおっさんが電話をかけて、ガチャ切りされたという西本君の妹。
何か聞き出したいところだが、この大人しそうな見た目に反して、いきなり電話を切るような警戒心の強い女だ。どう切り出したものか。
うーん。よし。
「すみません、この写真、ちょっと見てもらえますか」
俺は単刀直入にスマホを取り出し、あの『にこやかに笑う西本君』の呪いの写真を突きつけた。
「……これ、お兄ちゃん?」
画面を覗き込んだ奏さんの目が、微かに見開かれた。
「でも、こんな笑顔……。あなた、誰ですか?」
「保科勇気って名前のことじゃないよね。……ちょっと変なことを言うけど、聞くだけ聞いてくれる?」
奏さんは一歩後ずさり、体を硬くして身構えた。
「俺、なんかお兄さんに呪われてるんだよね」
「……は?」
「写真を誰かに撮られるたびに写真が増えていって、八枚貯まると死ぬっていう、最悪の呪い」
拒絶される前に、早口に伝える。
「……何を言っているんですか?」
奏さんの顔に、明らかな嫌悪と軽蔑の色が浮かんだ。
「もしかして、この前実家に電話をかけてきた人の仲間ですか?」
「仲間っていうか、まあ、呪われ仲間? ちなみに、すでに一人は死んでるんだ」
「……もういいですか。不謹慎です。帰ります」
奏さんは冷たく言い放ち、俺に背を向けて足早に歩き出した。
やっぱりダメか。
「いやー、待って! 一つだけ教えて!」
遠ざかる背中に向けて、俺は声を張り上げた。
「どうしたら、お兄さん成仏するかな!」
ピタリ、と。
枯れ葉を踏む奏さんの足音が止まった。
彼女は振り返ることはなかった。
だが、その華奢な背中越しに、震えるような、呪詛のような低い声が確かに聞こえた。
「……真実を」
「え?」
「……」
奏さんはそれ以上何も言わず、逃げるように墓地の奥へと姿を消してしまった。
真実、ねー。
残された俺は、頭を掻きむしった。
やっぱり、あの現場にいたという『吉田ヤクザさん』を探し出すしかないのか。
どこにいるのか、もう一度駒田さんのところに行って聞いてみるか。
俺は墓地を出て、再びあの要塞のような駒田家へと足を運んだ。
だが、何度巨大な門のインターホンを押しても、機械的なコール音が虚しく響くばかりで、誰も出る気配はなかった。
出かけているのか、それとも居留守を使われているのか。
気がつけば、山の端に夕日が沈みかけていた。
周囲の景色が、血のような赤から、不気味な赤黒い闇へと急速に飲み込まれていく。
カラスの鳴き声が、やけに大きく響き渡る。
……あれ?
俺は、急速に闇に沈みゆく寂れた村を見渡した。
ここ、ホテルとかあるの?
街灯すらまばらなこの村で、俺は完全に帰る足を失い、途方に暮れていた。




