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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第一部

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35/59

35.保科 勇気14

 振り返ると、二十代後半くらいだろうか、落ち着いた色合いの服を着た女性が立っていた。


 この村、可愛い人が多くないか?


 こんな不謹慎な状況だというのに、俺は能天気にもそんなことを思いながら軽く頭を下げた。


「保科勇気っていいます。あなたは?」


「私は……西本奏です」


 やっぱり、そうか。


 昨日田中のおっさんが電話をかけて、ガチャ切りされたという西本君の妹。


 何か聞き出したいところだが、この大人しそうな見た目に反して、いきなり電話を切るような警戒心の強い女だ。どう切り出したものか。


 うーん。よし。


「すみません、この写真、ちょっと見てもらえますか」


 俺は単刀直入にスマホを取り出し、あの『にこやかに笑う西本君』の呪いの写真を突きつけた。


「……これ、お兄ちゃん?」


 画面を覗き込んだ奏さんの目が、微かに見開かれた。


「でも、こんな笑顔……。あなた、誰ですか?」


「保科勇気って名前のことじゃないよね。……ちょっと変なことを言うけど、聞くだけ聞いてくれる?」


 奏さんは一歩後ずさり、体を硬くして身構えた。


「俺、なんかお兄さんに呪われてるんだよね」


「……は?」


「写真を誰かに撮られるたびに写真が増えていって、八枚貯まると死ぬっていう、最悪の呪い」


 拒絶される前に、早口に伝える。


「……何を言っているんですか?」


 奏さんの顔に、明らかな嫌悪と軽蔑の色が浮かんだ。


「もしかして、この前実家に電話をかけてきた人の仲間ですか?」


「仲間っていうか、まあ、呪われ仲間? ちなみに、すでに一人は死んでるんだ」


「……もういいですか。不謹慎です。帰ります」


 奏さんは冷たく言い放ち、俺に背を向けて足早に歩き出した。


 やっぱりダメか。


「いやー、待って! 一つだけ教えて!」


 遠ざかる背中に向けて、俺は声を張り上げた。


「どうしたら、お兄さん成仏するかな!」


 ピタリ、と。


 枯れ葉を踏む奏さんの足音が止まった。


 彼女は振り返ることはなかった。


 だが、その華奢な背中越しに、震えるような、呪詛のような低い声が確かに聞こえた。


「……真実を」


「え?」


「……」


 奏さんはそれ以上何も言わず、逃げるように墓地の奥へと姿を消してしまった。


 真実、ねー。


 残された俺は、頭を掻きむしった。


 やっぱり、あの現場にいたという『吉田ヤクザさん』を探し出すしかないのか。


 どこにいるのか、もう一度駒田さんのところに行って聞いてみるか。


 俺は墓地を出て、再びあの要塞のような駒田家へと足を運んだ。


 だが、何度巨大な門のインターホンを押しても、機械的なコール音が虚しく響くばかりで、誰も出る気配はなかった。


 出かけているのか、それとも居留守を使われているのか。


 気がつけば、山の端に夕日が沈みかけていた。


 周囲の景色が、血のような赤から、不気味な赤黒い闇へと急速に飲み込まれていく。


 カラスの鳴き声が、やけに大きく響き渡る。


 ……あれ?


 俺は、急速に闇に沈みゆく寂れた村を見渡した。


 ここ、ホテルとかあるの?


 街灯すらまばらなこの村で、俺は完全に帰る足を失い、途方に暮れていた。



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