3.橘 梨花3
有紀は、母親に相談することにした。
機械に疎い父とは違い、母は昔からこういうデジタル機器に強い。
「なに、ウイルスかしら。ちょっと貸してみて」
母はスマホを受け取ると、手慣れた様子で画面を操作し始めた。
「……うーん、おかしいわね。しばらく貸して。今晩、徹底的に調べてみるわ」
有紀はスマホを手放すのを少し躊躇ったが、「連絡の通知が入ったら返して」と約束して任せることにした。
翌日。
スマホを返してきた母の表情は、どこか腑に落ちないものだった。
「悪さをしているような痕跡は見当たらないんだけど……私ではもうお手上げ。全部消して初期化するのが一番よ」
「でも、写真とか消えちゃうのは……」
「バックアップを取ればいいでしょ」
「そっか。わかった。やるときは手伝ってくれる?」
「ええ、いいわよ」
母の言葉に、有紀は少しだけ安堵した。
ふと、気になっていたことを口にする。
「お父さんは、まだ帰らないの?」
「あら、お父さんが気になるの? 珍しいわね」
「別に、そういうわけじゃないけど……」
「休暇までは……まだ三ヶ月は帰らないわよ」
「そう……だよね」
父は海外赴任で、一年の大半を東南アジアで過ごしている。
こんな気味の悪いことが起きている時くらい、家にいてほしかった。
数日が経った、日曜日。
やはり梨花には連絡が付かない。
明日も学校に来なければ、嫌がられても家に様子を見に行こう。
母がスマホをすべて消去し、バックアップからきちんと元通りにしてくれた。
これでやっと、あの不気味な写真ともおさらばできる。
梨花のスマホも、お母さんにやってもらえばいい。
そう思って、写真フォルダを開いた。
――しかし。
写真は、残ったままだった。
あどけない笑顔の男の子が、やはりそこからこちらを見つめている。
「……さすがに、ちょっと気味が悪いわね」
画面を覗き込んだ母も、眉をひそめて腕をさすった。
「ショップに持って行って相談しましょうか」
「……うん。考えとく」
完全に初期化したはずなのに、消えない。
それはもう、ただのウイルスやバグという言葉では説明がつかない異常事態だった。
その日の夜。
部屋に、電話の着信音が鳴り響いた。
ビクッと肩を揺らし、恐る恐る画面に目を落とす。
表示された名前に、有紀は息を呑んだ。
『橘 梨花』
ずっと音信不通だった梨花からの、電話だった。




