2.橘 梨花2
翌日。
梨花からのメッセージを見て、私は絶句した。
『3枚目、アザができた写真が増えてる』
ただ転んだようなアザではないらしい。
画面越しの文字の羅列から、ひんやりとした恐怖が伝わってくる。
『親に相談してみたら?』
『……できると思う?』
梨花の返信に、私は言葉に詰まった。
確かに、無理だ。
『だよねー……。ごめん、ネットで対処法とか調べてみるよ』
『調べた。でも、解決できそうなのはなかった。色々試したけど、全部ダメだった』
どうやっても消えないのだ。
画面にへばりつく、その異物のような写真は。
さらに翌日の夜。
梨花から直接電話がかかってきた。
「有紀……っ」
通話に出た途端、耳に飛び込んできたのは異様な息遣いだった。
ヒュー、ヒューと喉が鳴る音に混じって、梨花が泣きじゃくっている。
「写真の男の子……肌が真っ赤に爛れてて……顔の半分が、炭みたいに黒くめくれ上がってて……」
ひっ、と自分の喉の奥が鳴るのがわかった。
想像しただけで、胃の奥から不快感が込み上げてくる。
「……それなのに、ずっとこっちを見て笑ってるの。もう、いやだ……どうしよう、有紀……っ」
すがるような声。
嫌な汗が背中を伝う。
「もうすぐ……もうすぐ学校行けるから。それまで待ってて」
震える声でそう返すのが精一杯だった。
だが、その電話を最後に、梨花からの連絡は途絶えた。
メッセージを送っても、既読すらつかない。
ようやく一週間の出席停止が明けた。
久しぶりに登校した教室。
梨花の席は、ぽっかりと空いていた。
担任の話では、ここ数日ずっと休んでいるらしい。
どうしようか。
放課後、様子を見に行こうかと悩んだ。
昔はよく、梨花の家に遊びに行っていた。
けれど、梨花の家のおばさんが『変わって』しまってから。
「家には来ないで」と、梨花はどこか怯えたような顔で言うようになったのだ。
あんな得体の知れないものに怯える梨花が、あの家に一人でいるとしたら。
「有紀ー、なんかやつれたんじゃない?」
帰り際、クラスの別の友達に声をかけられた。
インフルエンザ明けだからね、と笑って誤魔化す。
「記念に写真撮ってあげる! ほら、ピース!」
「ちょっと、やめてよー」
じゃれ合いながら、無理やりスマホのカメラを向けられる。
カシャッ。
明るい教室に響いた無機質なシャッター音が、なぜかひどく耳障りだった。
帰宅してからも、ベッドに寝転がりながら悩んでいた。
やっぱり、梨花の家に行ってみるべきか。
手の中のスマホを無意識に弄りながら、ため息をつく。
ふと、さっき友達に撮られた写真を送ってもらったことを思い出した。
なんとなく、写真のフォルダを開く。
――え?
スクロールする指が、凍りついたように止まった。
写真が、一枚増えている。
今日撮ったばかりの、私の写真のすぐ隣。
そこに。
学生服を着た、中学生くらいの男の子。
あどけなさの残る、ごく普通の笑顔。
それが、画面の奥からこちらをじっと見つめている。
まさかこれ……




