表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/53

30.、田中 有紀8

 玄関のドアが開く音がして、私は慌てて一階へと駆け下りた。


 お父さんが帰ってきたのだ。


「どうだった!?」


 すがりつくように尋ねる私に、お父さんはひどく疲れた顔で靴を脱いだ。


「……ん、ああ。あの不気味な音を作ったのは、たしかに橘さんだったよ。だが……それ以上のことは、何も知らなかった」


「そう……。じゃあ、あの梨花の携帯は?」


「ちょっと、精神的に不安定な人でな。話の途中で急に叫び始めてしまって、携帯を見せてもらうどころではなくなってしまったんだ」


「じゃあ、結局……何もわからなかったんだね」


 最後の希望が絶たれたような思いで、私はへたり込みそうになった。


 そんな私の肩を、お父さんの両手が力強く、痛いほどに掴んだ。


「大丈夫だ。お前は何も心配しなくていい。父さんが、必ずなんとかするから」


 その声はひどく低く、妙な凄みを帯びていた。


「うん……。あ、そういえば、さっきネットでちょっと怪しい記事を見つけたんだけど」


 私は震える手で自分のスマホを開き、さっき見つけたオカルトサイトの画面をお父さんに見せた。


 過去の焼身自殺と、『指名』といういじめのルール。それが呪いとなって続いているという噂。


 画面を見つめるお父さんの目が、一瞬だけ鋭く細められたように見えた。


「……うーん。いかにもアクセス稼ぎの、チープな記事だね。でも、発端となった事件そのものは、事実に近いのかもしれないな」


 お父さんはすぐにいつもの穏やかな表情に戻り、私の頭をポンと撫でた。


「保科勇気君が、明日その〇〇町に向かうそうだ。当時の同級生に会って話を聞くらしいから、そしたらもっとちゃんとした情報がわかるはずだよ」


「そうなんだ……わかった」


 保科勇気が、あの街へ。


 少しだけ安堵した私は、その日は泥のように眠りについた。



 ふと、目が覚めた。


 枕元の時計を見ると、夜中の一時を回ったところだった。


 喉がカラカラに乾いている。水でも飲もうとベッドから起き上がり、暗い廊下を出て階段を下りた。


 一階に降りると、真っ暗なはずのリビングのドアの隙間から、薄く明かりが漏れていた。


 こんな時間まで、お父さんたちが起きているなんて。


『……そんなことって……!』


 不意に、お母さんのひどく甲高い、悲鳴のような声が聞こえた。


『大丈夫だ。……大丈夫だから。俺がちゃんと……』


 お父さんの、低く宥めるような声が続く。


 何か、深刻なケンカをしているみたいだった。


 私は階段の途中で足を止め、息を潜めた。


 こんな時に、夫婦喧嘩なんて。


 私の呪いのせいで、お父さんとお母さんが揉めているのは明らかだった。


 これ以上、あの切羽詰まった声を聞きたくなかった。


 私は足音を忍ばせて、逃げるように二階の自室へと引き返した。


 布団を頭から被り、ぎゅっと目を閉じる。


 私のせいで、お父さんたちが離婚とかしちゃったら嫌だな。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ