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写真を八枚にしてはいけない  作者:
第一部

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25/50

25.田中 悠聖5

 私はゆっくりとスマホをテーブルに置き、重い足取りでリビングのドアを開けた。


「母さん。ちょっと来てくれ」


「はいはい、なーに。どうしたの、そんな怖い顔をして」


 キッチンから顔を出した妻に、私は手短に尋ねた。


「有紀の友達の……橘さんに香典返しと一緒に、お礼状かなんかあったのを見た気がするんだが。もう捨てたか?」


「えーと、待ってね。たしか、まだこの引き出しに……はい、これね」


 妻が差し出した薄い封筒を受け取り、私は中に入っていた挨拶状に目を落とした。


 喪主の家族の名前が、活字で印字されている。


『橘 風花』


 それを見て、私は低く呻いた。やはり、そうだったか。


「有紀」


 ソファで膝を抱えて震えている娘を、私は真っ直ぐに見つめた。


「今、駒田さんから聞いた。お前たちが聞いたというあの気味の悪い『音』を作ったのは、橘風花……橘梨花ちゃんのお母さんだ」


 有紀は弾かれたように顔を上げ、目を限界まで見開いた。


「そんなことが……」


 有紀の唇が微かに震える。しかし、どこか納得したような、絶望の色がその顔に広がっていく。


「そう、おばさんも何か知ってるみたいだった……。お葬式の日に、私にあの音のことを聞いてきたの。なのに、何も教えてくれなかった……」


「じゃ、その風花さんに直接聞けば手っ取り早そうだな」


 重苦しい空気をぶち壊すように、後ろで腕を組んでいた保科勇気が、ひどく軽い口調で言い放った。


「あなたが、あそこに梨花の携帯を送ったのよ!?手がかりだったのに」


「そうなのかよ。そっちがそう言って……まあ、とにかく、さっさとその家に行こうぜ。ここにいても始まらないだろ」


 保科は上着を手に取り、玄関へ向かおうとする。しかし、有紀はソファから一歩も動こうとしなかった。


「私は……外には出たくない」


「でも、それじゃ話が進まないだろ」


「あなたはまだ、写真が二枚なんでしょ! 私はもう六枚なの! 一歩でも外に出て、誰かのカメラに映り込んだら……」

「いや、なんか気がついたら三枚になってた」


 勇気はポケットから自分のスマホを取り出し、画面をこちらに向けた。


 そこには、西本祐希の三枚目の写真が静かに鎮座していた。


 いつの間に増えたのか、この男は全く気づいていなかったのだ。


 呪いは、確実に、そして無音で進行している。


「なんで、そんなに呑気なのよ!」


 有紀が半狂乱になって叫んだ。


 当然だ。


 死が目前に迫っているというのに、この男の反応はあまりにも異常だった。


「怒るなよ。わかったよ、俺が行ってくるから。お前はここで留守番しとけ」


「え……?」


「任せとけって。俺がちゃんと、その風花って人から話を聞き出してきてやるから」


 保科は屈託のない笑みを浮かべた。その極限状態からズレた感覚が、今の私にはひどく頼もしくもあり、同時に底知れない薄気味悪さをも感じさせた。


「有紀。私たちも一緒に行くから、大丈夫だ」


 私と美子さんも、保科の背中に続くように立ち上がった。


 大人三人で向かえば、あの風花という女性から、何かしらの真実を引き出せるはずだ。


「……わかった。お願い……」


 有紀は青ざめた顔で小さく頷き、自分の体をきつく抱きしめた。


 私たちは、妻と娘を残し、呪いの発信源かもしれない橘の家へと向かうことになった。




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