24.田中 悠聖4
駒田さん。中学時代、学級委員長をやっていた真面目な女子生徒だ。
当時の記憶が、不意に鮮明に蘇ってくる。
「……委員長。久しぶり」
『その呼ばれ方、本当に久しぶり。……本当に田中君なんだね。あの時は……ごめんね。私、何もできなくて』
駒田さんの声には、当時のいじめを傍観していたことへの深い後悔と罪悪感が滲んでいた。
「いいんだ。委員長が悪いわけじゃない。……それよりも、単刀直入に聞きたいんだ。私が転校した後、あの街でひどい事があったと聞いたよ。少し、詳しく教えて欲しいんだ」
『え……なんで、今更そんなことを?』
駒田さんの声が、戸惑いに揺れた。
私は、隣で泣き崩れている有紀を一瞥し、重い口を開いた。
娘のスマホに現れた西本祐希の写真のこと、そしてその呪いが原因で人が死んでいるかもしれないという異常な事態を、可能な限り冷静に説明した。
電話の向こうには、長く、息苦しい沈黙が落ちた。
『まさか、そんなことが……。信じられないけど、でも……』
駒田さんの声は、微かに震えていた。
『でも、ごめんなさい。私は遠くから見ていただけだから、詳しい関係まではわからないの。深く関わっていたのは、多分、吉田君か、三井さん……あ、でも三井さんは、前に事故で亡くなったから』
事故死。まただ。
西本に関わった人間が、橋田、下田京子さんに続いて、また一人不自然に命を落としている。
『あ、そうだ。三井さんのお姉さんなら、何か知っているかもしれない。だって……あの『音』を作ったのは、お姉さんだったから』
「……音? なんの音だい?」
私が問い返すと、駒田さんはひどく言い淀んだ。
口に出すことすら忌まわしいとでも言うような、重苦しい空気がスピーカー越しに伝わってくる。
『……吉田君のことは、お家にかけても無駄だと思うよ』
「ああ。さっきご実家に連絡したら、連絡先は知らないと冷たく切られてしまった」
『やっぱり。あの子、ヤクザになったって噂だし、多分親から絶縁されてるんだよ。……三井さんのお姉さんも、ご実家ごと引っ越してしまったから、さすがに今の連絡先は知らないな』
手がかりが、指の間からすり抜けていく。
有紀に残された時間は長くない。
なんとしても、その三井の姉という人物に辿り着かなければならないのに。
『うーん……あ、そうだ。三井さんのお姉さん、結婚して〇〇市に住んでたと思うんだけど……名字、なんだったかな。前に人づてに聞いた気がするんだけど……』
電話の向こうで、駒田さんが少し電話口から顔を離す気配がした。
『おかあさーん! 三井さんのお姉さん、たしかこの辺の人と結婚したんじゃなかったっけ!?』
ひどく日常的で、呑気な問いかけの声。
今の私たちの極限状態とはまるで切り離された、平穏な生活音にすら聞こえる。
だが、その直後に聞こえてきた駒田さんの母親の返答は、私の心臓を鷲掴みにした。
『橘さんだよー!』
『そうそう、橘さん!』
駒田さんが、弾んだ声で受話器に戻ってきた。
『橘、風花さん。連絡先までは今はわからないかもだけど、知り合いに聞いて、調べてみようか?』
点と点が、最悪の形で線に繋がっていく。
「……いや。大丈夫だよ」
私の声は、自分でも驚くほど冷たく、強張っていた。
「教えてくれて、ありがとう。もう、探さなくていい」
私はゆっくりと通話を切った。




