23.田中 悠聖3
私はメモ帳を片手に、震えそうになる指を抑えながら、まずは駒田さんの実家へと電話をかけた。
数回のコールの後、「はい、駒田です」と年配の女性が普通に出た。
私がかつてのクラスメイトだと名乗り、少し話を聞きたいと告げると、「今は仕事で不在なので、帰ったら本人からかけ直させます」と事務的に伝えられ、通話はあっけなく終わった。
次に、吉田の家にかける。
正直、少し気が進まなかった。当時の記憶がうっすらと蘇るが、あまり良い思い出はない。しかし、背に腹は代えられない。
意を決してダイヤルしたが、電話に出た親は「息子はもう何年も前に家を出ていて、連絡先も知らない」と冷たく言い放った。
親子の縁が完全に切れているような口ぶりだった。何も掴めないまま、受話器を置く。
残るは、西本の実家だ。
スマホを持つ手が、じっとりと汗ばんでいた。息を止めるようにして番号を押し、耳に当てる。
プルルル、という無機質な音がやけに重々しく響いた。
『……はい。西本ですが』
出たのは、若い女性の声だった。
「あ、突然申し訳ありません。私、田中悠聖と申します。ご家族の方でしょうか」
「妹ですが」
声が上ずってしまった。どう切り出せばいいのか、頭が真っ白になる。
「あの、何と言うか……お兄さんのことで、少し聞きたいことがありまして」
『……何の嫌がらせですか?』
声の温度が、一瞬にして氷点下まで下がった。
「い、いや、私は昔のクラスメイトだった男です。その……ひどいことがあったと、ごく最近になって耳にしましてね」
『興味本位ですか?』
鋭い拒絶の言葉に、私は完全に言葉に詰まってしまった。しどろもどろになる私を見かねて、隣で震えていた有紀が、強引にスマホを奪い取った。
「すみません! 私、田中悠聖の娘で、有紀といいます!」
『は?』
「あなたのお兄さんの写真が、私の携帯に勝手に現れているんです!私の友達は、多分それが原因で昨日死にました!お願いです、呪いを解く方法を、何でもいいから教えてください!」
悲鳴のような有紀の訴えに、電話の向こうの妹は、底冷えするような声で吐き捨てた。
『何の冗談ですか? 人の死をからかうような、ふざけたことはやめてください』
「ふざけてなんかいない!」
有紀の目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「ふざけてない! 私、死にたくないの! こんな変な、わけのわからない呪いみたいなもので殺されたくない!」
『……大丈夫ですか? 一度、精神科に行かれたほうがいいかと思います。私から話すことは何もありませんので』
ガチャリ。
無慈悲な切断音が、リビングに響き渡った。
有紀はスマホを両手で握りしめたままその場に崩れ落ち、絶望感から声を上げて泣き始めた。
重苦しい空気が部屋を支配する。誰もかける言葉が見つからない中、
後ろで立っていた保科勇気が、ひどく場違いな、軽い口調で言った。
「まあ、なんとかなるって。そんな、くよくよするなよ」
その能天気な慰めが、極限状態にまで張り詰めていた有紀の何かをプツリと切った。
「うるさい!ばか、死ね!!」
有紀は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、保科に向かって絶叫した。
呪いで死の淵に立たされている娘の、痛切すぎる怒りの爆発だった。
「有紀、言い過ぎだぞ」
私は慌てて娘をたしなめた。彼だって、悪気があって言ったわけではないのだから。
「でも……! でも……ッ!」
有紀が子供のように泣きじゃくった、その時だった。
――プルルルルルッ!
不意に、私の手の中のスマホが甲高い着信音を鳴らした。
ビクッと肩を揺らし、画面を見る。見知らぬ番号だ。
私は唾を飲み込み、通話ボタンを押して耳に当てた。
「……もしもし」
『……田中、悠聖君?』
電話の主は、ハキハキとした女の声だった。
『駒田です』




