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写真を八枚にしてはいけない  作者:


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19/20

19.田中 有紀5

 玄関のドアが開く音がした。


 お父さんが帰ってきたのだ。私は階段を駆け下り、すがりつくようにしてお父さんの元へ飛び込んだ。


 何か、あの呪いの写真から逃れる手がかりは見つかったのか。少しでも西本祐希の行方がわかったのか。


 祈るような気持ちで見上げた私に、お父さんはひどく渋い顔を向けて首を振った。


「……すまない。昔の連絡網は、さすがに残っていなかったよ」


 目の前が真っ暗になった。


 唯一の希望が絶たれ、膝から崩れ落ちそうになる私を、お父さんが慌てて支える。


「ただ、手ぶらで帰ってきたわけじゃない。ばあちゃんに当時の話を聞いたら、下田さんという女の子の家と付き合いがあったらしくてね」


「下田さん……?」


「ああ。まあ、父さんの初恋の人だったのもあるんだが……本を貸し借りしたりもしてね」


 こんな時に、昔の初恋を思い出して少し頬を緩めているお父さんに、正直言って薄気味悪さすら覚えた。


 私が今にも死にそうになっているというのに、過去の甘酸っぱい思い出に浸っている場合じゃない。


「そんなことよりも、連絡先は!? 何か分かったの!?」


 私が声を荒らげると、お父さんはハッとして表情を引き締めた。


 だが、その顔には深い戸惑いが浮かんでいる。


「それがな。下田さんのお母さんの連絡先はわかったんだが……」


「なら、早く連絡して!」


「……下田さんはね、下田京子さんというんだが。自殺していたらしいんだ」


 空気が凍りついた。


 自殺。また人が死んでいる。あの西本祐希という男の子に関わっていた人間が、自ら命を絶っているのだ。


 偶然とは思えなかった。あの気味の悪い呪いに巻き込まれたとしか思えない。


「だから、そのお母さんにいきなり連絡していいものか、少し悩んでいてね。娘の死を蒸し返すようなことになりかねないし……」


「わかった。だったら私が連絡するから、番号を教えて!」


「いや、待て待て。お前が一人で抱え込むことじゃない。父さんがするから、慌てるな」


 私がスマホを奪い取ろうとするのを制し、お父さんは観念したように自分のスマホを取り出した。


 重苦しい沈黙の中、お父さんの指がゆっくりと番号を打ち込んでいく。


 スピーカーにして、と私が無言で促すと、お父さんは頷いて画面をタップした。


 プルルル、プルルル。


 無機質なコール音が、静まり返ったリビングに響き渡る。


 どうか、出てほしい。手がかりを教えてほしい。祈るように手を組んだ私の耳に、ガチャリ、という受話器の上がる音が聞こえた。


『……もしもし、保科ですが』


 くぐもった、少し年配の女性の声だった。


 保科?


 お父さんは一瞬、きょとんとした顔をした。おばあちゃんから聞いたのは『下田』の家のはずだ。番号を間違えたのだろうか。


「あの、失礼ですが……そちら、下田さんではないですか?」


 電話の向こうで、かすかに息を呑む音がした。


 少しの間の後、警戒するような、低く硬い声が返ってくる。


『……離婚しましたので。どちら様ですか?』


 お父さんの顔が強張った。


 お父さんは一度私と目を合わせ、唾を飲み込んでから口を開いた。


「申し遅れました。私、〇〇中学で同級生でした、田中悠聖と申します」


 ピタリ、と。


 電話越しの気配が、完全に消えた。


 まるで、電話口で心臓が止まってしまったかのような、不自然で異様な沈黙。


 やがて、絞り出すような震える声が聞こえてきた。


『……田中……悠聖……悠聖君?』



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