16.田中 有紀4
「お父さん、知ってるの!?」
私は思わずお父さんの腕を掴み、強く問い詰めた。
だが、お父さんは視線を泳がせ、口ごもるばかりで煮え切らない。
「ねえ、教えてよ! この人が誰なの!」
「いや、それは……その……」
「どうしたの有紀、そんなに大声を出して」
緊迫した空気を割るように、部屋のドアが開いた。
エプロン姿のお母さんが、不思議そうな顔をして立っている。
「ご飯ができたわよ。二人とも、早く下に降りてきなさい」
「……ああ。まず、ご飯にしよう」
お父さんは逃げるように立ち上がった。
私にはもう残された時間なんてないのに。
今すぐすべてを聞き出したいのに。
逃げる父を追うように部屋を出た。
リビングの食卓には、いつものように手料理が並んでいた。
だが、口に運ぶご飯の味なんてまったくしない。
「……それで?」
沈黙に耐えかねたのか、お母さんが心配そうにお父さんに話を振った。
お父さんは箸を置き、深く重いため息をついた。
「……あまり、話したくないんだが。仕方ないな」
観念したように、お父さんはポツリポツリと語り始めた。
「父さんは〇〇町というところの出身なんだけどな。そこの中学の頃に……ひどいいじめを受けていてね」
予想もしていなかった告白に、私は息を呑んだ。
今の頼もしいお父さんからは想像もつかない過去。けれど、それが私の呪いとどう関係しているというのか。
まったく意味がわからず、頭が混乱する。
「じいちゃんとばあちゃんが、それに気づいてくれてね。そういう陰湿な問題は、学校側に言っても解決するのが難しいからって……いっそのこと引っ越そうと言ってくれたんだ。それで、逃げるように転校したんだよ」
「じゃあ、さっきの写真は……」
「ああ。あの写真の男の子は、その時のクラスメイトだ。西本……たしか、西本祐希だったと思う」
ユウキ。
その響きに、心臓がどくンと跳ね上がった。
「それ……私と、同じ名前……?」
お父さんは、苦い顔をして頷いた。
有紀と、祐希。偶然の一致なのか、それとも私が呪いに巻き込まれた明確な理由なのか。背筋にぞわりと悪寒が走る。
「西本祐希……なんで、その人が私のスマホに」
「わからない。転校してから一切連絡は取っていないし、あいつが今どうしているのかも全く知らないんだ」
お父さんは困った顔をだった。
「でも、当時の連絡網みたいなものがじいちゃんたちの家に残っていれば、実家か何かの連絡先がわかるかもしれない」
「お父さん、お願い……!」
私は食卓に身を乗り出し、懇願した。
「お願い、調べて! 私、死ぬかもしれないの! あの写真が増えたら、梨花みたいに本当に殺されちゃう!」
ボロボロと涙がこぼれ落ち、テーブルクロスに濃いシミを作った。
なりふり構わず泣き叫ぶ私を見て、お母さんは言葉を失って口元を覆っていた。
お父さんは静かに私の顔を見つめ、やがて、私が写った異常な写真を思い出したのか、強く唇を噛み締めた。
「……大げさ、というわけでもないんだよな。あの気味の悪い写真を見れば不安だよな」
お父さんは力強く頷き、私の震える手を握り返してくれた。
「わかった。明日、実家に行ってみるよ」
一筋の希望の糸が、暗闇の中に垂らされた瞬間だった。
けれど、その糸の先に待ち受けているのが『救い』なのか、それとも更なる『絶望』なのか、この時の私には知る由もなかった。




