14.田中 有紀1
電話を切り、私は深く、震えるようなため息をついた。
あの日、梨花の部屋からスマホが見つからなかったと聞いた時から、嫌な予感はしていたのだ。
誰かが拾って、あの呪いに巻き込まれるんじゃないかって。
さっき電話で話したあの男の人。
声の感じからして年上の社会人だろうけど、どこか緊張感がなくて、ひどく呑気な人だった。
私が必死に警告したのに、多分、半分も信じていない。
……だめかもしれない。あの人に期待するのは。
一応、言った通りに梨花の家の住所はメッセージで送っておいたけれど、本当に携帯を送ってくれるだろうか。
あの携帯の中に、この理不尽な呪いを解くヒントが残されているかもしれないのに。
あの人は電話口で、写真が『二枚』に増えたと言っていた。
まだ、間に合うかもしれない。
でも、私は。
私はゆっくりと自分のスマホの画面を立ち上げ、写真フォルダを開いた。
削除できないフォルダの中に、不気味な写真が『六枚』並んでいる。
今、私は学校に一切行っていない。
家の中の鏡をすべてタオルで覆い隠し、カーテンを閉め切り、部屋の隅で膝を抱えている。
写真を撮られるな。
梨花は最後にそう言った。
でも、普通の生活をしていて、カメラのレンズから完全に逃げ切ることなんて不可能だ。
友達は息をするようにスマホを向けてくる。
だから梨花は、家から一歩も出なくなったんだ。今の私と同じように。
梨花は、自分から電話やメッセージをしてきた。
『通話もたぶん大丈夫そう』と、震える声で言っていた。
……きっと、自分で試したんだよね。
何が引き金になるのか、極限の恐怖の中で必死に探っていたんだ。
そして、最後まで抗って、死んでしまった。
画面に並ぶ六枚の写真。
最初は見知らぬ男の子だった。それが少しずつ姿を変え、近づいてきて、今では。
六枚目の写真は、暗い部屋の隅にうずくまる『私自身』の姿だった。
しかも、一糸纏わぬ全裸の姿で。
こちらをじっと見つめるその顔は、間違いなく私だ。
背筋が凍るのは、顔だけじゃない。腕にある小さな傷跡も、胸元のほくろの位置まで、寸分違わず私と同じなのだ。
誰かに撮られたわけじゃない。自分で撮ったわけでも絶対にない。
なのに、私自身の身体の細部までを完全にコピーした『何か』が、スマホの画面の向こうから私を観察している。
おかしいよ。狂ってる。
いくらなんでも、気味が悪すぎる。
削除ボタンを何度押しても、この写真は絶対に消えない。
もし私が死んだら、このスマホは警察や親に見られることになる。
こんな異常な写真を残したまま、絶対に死ぬわけにはいかない。
ねえ、梨花。私、どうしたらいいのかな。
お葬式の日に会った、あのおばさんの顔が脳裏にフラッシュバックする。
『変な音を聞かなかった?』と、狂気じみた目で囁いたあの声。
あのおばさんも、絶対に何かを知っているはずだ。
なのに、何も教えてくれなかった。私たちを見殺しにするつもりなんだ。
男の子が四枚、私の写真が二枚。
多分、あと二枚写真が増えたら……
八枚目になった時、私は梨花と同じように、あちら側に連れて行かれて死ぬ。




