12.保科 勇気5
今度は電話か。
俺のスマホではなく、棚の上に置いたままの拾った携帯が震えていた。
画面を見ると、着信の表示には『田中 有紀』とある。
ん? 田中有紀?
さっきの迷惑メールの送り主と同じ名前だ。え、詐欺師からの直接電話?
いや、待てよ。
もしかしてこの持ち主も、俺と同じように詐欺師に狙われていたんじゃないか? しつこく連絡が来るから、嫌になって携帯ごと捨てたとか。
なるほど、辻褄が合う。それなら、俺も関わらない方がいいな。
そう思って無視しようと手を伸ばしたとき、指が滑って、あろうことか通話ボタンに触れてしまった。
『もしもし。もしもし!』
通話口から、切羽詰まった女の子の声が微かに聞こえてくる。
あー、やっちまった。出ちゃったのに無言で切るのも、なんだか盗んだみたいで気が引ける。
「……あー、もしもし」
『あなたは?』
「えーとですね、誤解しないでほしいんですが、盗んだわけでもないし、違法にどうこうしようってわけじゃ……」
『そんなことはどうでもいいです!』
俺の言い訳を遮るように、電話越しの声が鋭く響いた。
『あなた、中学生の写真が増えたりしていませんか?』
「あ、やっぱり。詐欺の人」
『え、なんですか?』
「いや、なんでもないです……」
やっぱり詐欺グループの仲間か? と身構えたが、向こうのトーンはひどく真剣で、どこか怯えているようにも聞こえた。
『写真は、増えてないんですか?』
「……増えてますけど」
『何枚ですか!?』
「え、二枚ですけど……」
『わかりました。二枚ですね』
電話の向こうで、小さく息を呑む音がした。
そして、ひどく冷たく、念を押すような声で彼女は言った。
『絶対に、写真に撮られないでください』
「は?」
『自撮りも、他の人の写真に写り込むのもダメです。絶対にです』
自撮り。
その言葉に、さっき路地裏で猫と一緒にインカメラで撮ってしまった自分の間抜けな顔が脳裏をよぎったが、俺は適当に生返事をした。
「えーと、はい」
『必ず守ってください。……それから、この携帯は私の親友のものです。返してもらえませんか?』
「ええ、構いませんけど。こういうのって、持ち主本人じゃないと後々問題になるのでは……」
俺が渋ると、少しの沈黙の後、ひどく暗い声が鼓膜を打った。
『本人は、死んでいます』
「……は?」
『死んだんです』
部屋の空気が、一気に冷え込んだ気がした。
背中をぞわりと悪寒が駆け下りる。
『その携帯には、ヒントがあるかもしれないんです。持ち主の自宅の住所を送るので、そこに郵送するか、持ってきてください』
「え、と、いや。ちょっ……」
『お願いします』
ガチャリ。
一方的に通話が切られ、ツー、ツーという無機質な電子音だけが響いた。
俺は耳から携帯を離し、画面を見つめた。
冗談じゃない。詐欺師なんかより、よっぽどヤバめの人間に関わってしまった。
本人が死んでいる?
じゃあ、俺がさっき見た、この携帯に入っていた首を不自然に曲げて倒れている女の子の写真は。
あれは合成なんかじゃなく、本物の死体の写真だったのか。
手の中の携帯が、急に冷たく感じられた。




