不正の構えとハゲ
ずるいと罵ればいい。
私がしている行為は、ずるそのものだし、卑怯と言われても反論の余地さえ与えられないだろう。
ディーラー役になった私は、机の下で袖をめくり、望遠時計を見続けた。一番高い人が16で残りはバーストしているから慌てる必要は無い。
ゆっくりとカードを開きながら、
「17」
と私が言うと、周囲がざわついた。
ここはギャンブル会場の練習場だ。練習場といっても、実際にチップをかけて戦うことになる。
資本金が少なかった私は、少しでも増やそうとここへと足を運んだ。
「マジかよ…」
「えぇ、くそぉ取られたか」
「ねーちゃん、上手いときだけ取るよな」
これで緑8枚。
ここ3日間、練習を込めて入り浸った結果が緑1枚ぐらいだった。やはり、大会に参加しないと大量のチップは動かない。
チップを回収し、強い視線を感じた私は視線を上にあげた。周囲を見渡すと、奥の方で、フールがこっちを見つめている。
私はおもむろに立ち上がると、騒ぐ人混みを掻き分け、フールの元へと近付いた。
「ずっと見てたのね」
私が話しかけると、フールは口元を緩め、
「僕は不思議ですよ」
と言った。
「何がよ?」
「初心者であるあなたが、ここまで深い読みが出来ることについてです」
フールは、私を疑っているらしかった。
でも、どうせばれることもないだろう。彼は3つの鍵については詳しいが、オーパーツのことについては無頓着らしく見えたからだ。
「洞察力がないと、旅人をやっていられないわよ」
と私は言い捨てて、その場を離れた。
席の後ろに隠してあった記録の書物を何気なく回収しつつ、練習会場から外へと出る。
記録の書物の画面を確認すると、充電が残り10%を切っていた。
3日間の実験で分かったことは、充電の消費量が、かなり激しくなるということだ。いつもは、1週間に1回で良い充電を、ほぼ毎日行っている。
バイクの置いてある場所まで、えっちらおっちらと歩く。最初は気になって仕方が無かった露店も、買えないと分かればどうという事は無かった。
と思いつつも、新しく店舗を目にすると身体の向きを変える。スマホのカメラの部分だけをポケットから覗かせ、シャッターをさり気なくきる。そのあと、その場を足早に離れる。
Pという文字がある、バイクの所まで戻ってきた。
私はポケットから記録の書物を取り出し、
「…なんか、ここ3日でこういう技術が付き過ぎたわね…」
と呟いた。
バイクの端子とスマホの端子をくっつけて、記録の書物の充電を始めた。
…。
……。
暇だな…散歩でもしようかな、と思った矢先で、向こう側から誰かが近づいてきた。
「おぉ、旅人さんじゃーないか」
頭を太陽の光によってキラキラと輝かせている。その人物は、フールの仲間であるハゲと呼ばれていたハゲだった。食堂で話して以降、一度も話をしていなかった。
「ハゲさん。お久しぶりです」
「わっはははっハゲでいいぞ。そうだな、2日ぶりだな。聞いた話だと、練習会場でかなり勝っているじゃないか」
私はニコニコした表情で、
「それほどでもないですよ」
と手を横に振った。
「どれ、今は暇か?大会が始まってからだとのんびりもしてられまい。わしが周辺を案内したろか?」
私は腕を組むと、視線を記録の書物へと向けた。
散歩しようかと思っていたし、丁度良いのかもしれない。しかし、バイクは大きいから盗まれないにしても、記録の書物を置いていくのはいささか気が引ける気はする。
「ぜひお願いしたいのですが、これを置いていくのは…」
ハゲはバイクに差さっているコードをつたり、記録の書物まで視線を持っていった。そのあと、少しだけ考える動作を見せた。
「うん…そうだな、大丈夫だと思うぞ。この国は、相当警備が厳しいからな。そんなレア物のオーパーツなら、盗まれてもすぐに見つかるはずだ」
「そう言うなら…」
ハゲの誘いに、私は乗ることにした。
「付いてきな、城の方へを案内しよう」
手招くハゲに連れられて、私はバイクから離れていった。
「この国はな、石油が取れるからまだ機能してるんだ。そうでもなけりゃ、とうの昔に滅んどるわい。だから、統治をする貴族がいるし、貨幣経済がまだ生きてる」
ハゲは、歩きながらこの国の事について、話を始めた。
「でも、何でギャンブルが?」
「そりゃ、暇だからだ。わしは3つの鍵に興味があるから、そうでもない。旅人さんみたいに、新しい刺激があればそれも平気だ」
ハゲは少しだけ間を開けて、続ける。
「だがな、それ以外の連中は何をしていいか分からねぇはずだ。食べ物と水は安定して手に入る。一歩も動かずに、生きていける」
ハゲの言う通りだ。今の人類は、暇をもて余している。やることがない、辛いことも楽しいことも少ない。
私も教会から出たばかりの頃はそう思い、何度か自殺しようとも思った。けど、まだ生きている。
「…ということは、ギャンブルは最近始まった文化なのね?」
「そういうこった。今のギャンブル会場は、10年ぐらい前までは闘技場だったんだがな…今の王女が極悪非道だといいだして…」
そういうハゲは、何処か懐かしそうに空を見上げていた。彼もまた、昔は死に場所を探していたのかもしれない。
歩く道は、段々と舗装がしっかりとしていった。道のり脇を、井戸から自動で組み上げられているのか、水が川のように石畳の上流れている。
遠くから水の落ちる音がしだした辺りで、
「もう少しで、城に付くぞ」
とハゲは私に言った。
周囲を見渡すが、城といった建物は何処にも見当たらない。
大きな建物を写真に納めようと期待していたのだが、かなり残念なことになりそうだ。




