(15) セドリアンの二王
ラドヴァンとエドゥアルドは、両者の中間点あたりに位置するゾラーク伯爵の邸宅で、会談を行うこととなった。
ゾラーク伯爵は南東部諸侯の中では、保有する領地が四番目に広い有力諸侯だ。
ラドヴァンに対して好意的な態度を見せつつ、最終的な帰趨は明らかにしていなかった。
彼は三十五歳であり、温和な容貌、穏健な性格で知られていた。
ラドヴァンとエドゥアルドの会談を世話することで、両者からの得点を稼ぎつつ、会談結果によって、自分の態度を決めるつもりであった。
ラドヴァンもエドゥアルドも伯爵の考えは理解していたが、両者とも相手の本拠地には出向きづらいので、伯爵の利用価値があった。
ラドヴァンはハギリ、ジャネッタ、カリーヌを同行させている。
留守をベネシュに任せていた。
ただし、会談を行う部屋では、ラドヴァン、エドゥアルド、ゾラーク伯爵の三人しか入室しない。
応接間は伯爵の上品な趣味を反映して、華美にすぎず、緑色を中心にした淡い色立ちでまとめられている。
ラドヴァン、エドゥアルド、ゾラーク伯爵の三者は応接間で対面を果たしていた。
「お目にかかれて光栄です、ラドヴァン殿下、ゾラーク殿」
「こちらこそ、ベドナジーク殿、ゾラーク殿」
「私もお二方の仲を取り持つことができて、誠にうれしい限り」
三者ともごく薄い笑みを張りつかせて、挨拶をかわした。
「まずは謝罪をさせていただかねば、なりません。殿下のお母君に僕の愚昧な祖父や父が不興をかっていたようで。心からお詫びいたします」
エドゥアルドは頭を下げた。
彼にしてみれば、頭を下げて一言の謝罪ですむなら、安いものだった。
ラドヴァンは、ベドナジーク家との因縁をどう解消するか悩んでいただけに、エドゥアルドの言葉に乗った。
「いや、頭をあげられよ。ベドナジーク殿に咎があったわけではない。俺はベドナジーク家全体に何も含むところはないのだ」
「おお、それではお許しいただけますか」
エドゥアルドは頭を上げて、表情を輝かせた。
「ああ、過去は全て水に流して、これからは共に手を携えていこう」
ラドヴァンもまた、眼を細めて笑う。
「ありがたき幸せです。ラドヴァン殿下」
エドゥアルドも陽気に笑った。
「いや、めでたいですな。お二方の私情を殺してのご決断に感服いたしました」
ゾラーク伯爵は感心した風な表情をしていた。
十七歳と二十一歳の青年が、さわやかに手を組む演技をこれほど上手に行えるのは大したものだと、伯爵は本当に感心していたのだ。
二人とも老獪さでは、もうすでに一人前の政治家だ、と伯爵は思った。
「伯爵のおかげだ。それでは、今後のことについて話をしていこう」
ラドヴァンは伯爵に礼を言った。
「これからですが、ラドヴァン殿下。いや、ラドヴァン陛下となられませぬか。あの僭王に対抗するには、即位せねばなりますまい。ラドヴァン二世というわけです」
エドゥアルドの言葉にゾラーク伯爵は目を見開いた。
だが、ラドヴァンは落ち着いた様子で、
「いや、俺は国王ラドヴァン=ルミールを名乗ろうと思う。どうだ」
と、かえした。
「……ラドヴァン=ルミール」
エドゥアルドはラドヴァンの評価を一段階上げた。
彼はそれを思いつかなかったが、言われてみれば、ラドヴァンのミドルネームはルミールであり、おかしくはない。
ルミールの名前をミドルネームで持つ国王は何人もいたが、建国王に配慮して呼称に用いてこなかった。
だが、ラドヴァンは『究極の戦士』を召喚するのに成功している。
ルミールの名前を用いる理由としてうってつけだ。
なおかつ、そう名乗ることによって、正統性が高まるだろう。
「ラドヴァン=ルミール王とは良き御名ですな。私は賛同いたします」
ゾラーク伯爵も内心、舌を巻いていた。
今度の彼の感服した表情は本物だった。
「僕も賛成いたします。ならば、即位式は我らの本拠地で行いませぬか。盛大に執り行ってご覧に入れます」
エドゥアルドは探りを入れてみた。
会談をここで行っているように、ラドヴァンはベドナジーク家の下風にたつことを潔しとはせぬだろう。
しかし、どうこたえるかでラドヴァンの器量がわかる。
「本来であれば、ベドナジーク殿のおっしゃる通りにすべきだと俺は思う。だが、そうもいかぬようだ」
「……どういうことでしょう?」
エドゥアルドはラドヴァンの物言いに不穏な気配を感じた。
「ついに、ベドラーク街道に帝国軍の分遣隊があらわれた。兵力はおよそ二万だ」
ラドヴァンの言葉にエドゥアルドの眼つきは鋭くなり、伯爵は少しのけぞった。
この情報はラドヴァンの切り札だった。話の方向によって切り出すつもりだったが、彼は今が最善と考え、二人に情報を与えた。
「……こちらに来るまで、まだ時間がありますか?」
神妙な表情でエドゥアルドは問う。
「ああ、かなり遠くまで走らせていた斥候からの知らせだ。まだ猶予はある。だが、ベドナジーク殿の本拠地にまでいく余裕はない。お二方がよければ、ドイェターンに諸侯軍を糾合し、即位式を行って即出陣。帝国軍を迎撃する。いかがかな」
「……それは」
ゾラーク伯爵としては思案のしどころであった。
ラドヴァンは思っていた以上に器が大きそうだ。
だが、問題は帝国軍に勝てるかどうか。
帝国が諸侯に対して厳しいのはわかっているが、敗死するよりはましだろう。
沈思黙考する伯爵を横目に、エドゥアルドが先にこたえた。
「殿下、一門をそろえて出陣させるとなると、僕も彼らを説得するのに必要なだんどりがあります」
「もっともな話だな」
「そこで、僕が同行しているある者を殿下にお引き合わせしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ふむ。わかった、いいだろう」
「ありがとうございます、殿下」
エドゥアルドは退室した。
ラドヴァンは一門の有力者を連れてくるのかと思っていたが、違っていた。
エドゥアルドは妹のネステルと共に入室する。
「殿下、お待たせしました。腹違いですが、妹のネステルです」
「初めて御意を得ます。ネステルと申します」
ネステルは淑やかに一礼した。
「あ、ああ、ラドヴァンだ。よろしく」
ラドヴァンは目を瞠らざるを得なかった。
エドゥアルドがなぜ妹を連れてきたのか、彼にはすぐにわかったから。
ゾラーク伯爵もまた、驚かされた。
妹とは伯爵も聞かされていなかったのだ。
「ご覧の通り、兄の僕が言うのも何ですが、ネステルは器量よしです。殿下に正妻として迎えていただければ、我ら一門は総力をあげて殿下を支えましょう。即位式の際にお披露目していただければ、と思います」
「……ここで返事せねばならぬか」
「帝国軍の分遣隊がそこまで近づいているのであれば、時間はありますまい」
余裕あるエドゥアルドに対して、ラドヴァンはやや表情が重くなった。
ラドヴァンはいずれ、政略結婚をする必要があるとは思っていた。
だが、今すぐ結婚を求められるのは想定外だった。
これまで会談をスムーズにすすめてきたという感触をラドヴァンは持っていたが、最後の最後でエドゥアルドにもっていかれたように思える。
実をいうと、現時点ではラドヴァンのが立場的に弱い。
エドゥアルドにしてもゾラーク伯爵にしても、帝国につくという選択肢があるが、ラドヴァンはそれを選べない。
ラドヴァンが帝国に降っても、禍根を断つということで、処刑されるのが目に見えている。
帝国軍とシルヴェストル三世を撃破した後なら、立場は飛躍的に強まるのだが。
だからこそ、エドゥアルドは今、ラドヴァンに決断を迫るのだろう。
エドゥアルドの眼差しがそう語っていた。
「ネステル殿は俺なんかの妻になって構わないのか?」
ラドヴァンは一応、あがいてみた。
「殿下の正妻になれるなんて夢のようです。殿下ほど凛々しい方と結ばれるなんて、私は果報者だと思っています。私でよければ、尽くさせて下さい」
ネステルは頬を上気させていた。
「……わかった。ネステル殿を娶ろう。ベドナジーク一門を頼りにさせてもらうぞ」
ラドヴァンには他の選択はなかった。
ベドナジーク一門が去れば、諸侯の参加はごく限られたものとなる。
ハギリがいれば、勝てるかもしれない。
だが、それで終わりではないのだ。
今後のことを考えれば、仕方ない決断だった、と彼は思う。
しかし、彼の脳裏にハギリの顔がちらついていた。
「ありがたき幸せ。我ら一門、ラドヴァン=ルミール王に終生の忠誠と奉仕を誓います」
エドゥアルドは立ち上がり、正式な拝礼をラドヴァンに行った。
「うむ。俺もベドナジーク一門の忠誠と奉仕を受けるにふさわしい王となるべく、つとめよう。ネステル殿もよろしく頼む」
「……うれしく思います。ラドヴァン様」
ネステルは顔に両手をあてて、涙を流す。
「これでふくといい」
ラドヴァンはネステルにハンカチを渡した。
「あ、ありがとうございます」
ネステルは慌てて受け取り、目にあてた。
「殿下も女性にはお優しいですね」
「いや、特にそれほどでも……」
困ったようなラドヴァンに対して、エドゥアルドは少し笑った。
「これで殿下と義兄弟となります。よければ、僕のことはエドゥアルドと呼んでいただけませんか」
「わかった。エドゥアルド」
「ありがとうございます、ラドヴァン様」
ラドヴァンは苦笑した。
エドゥアルドは苦手な部類に入る人間だ。
だが、どうにも憎めないところはあるように思える。
それに、味方となれば、頼りになるだろう。
「ラドヴァン様、よろしいですか」
ゾラーク伯爵が声をかけた。
「すまなかった、伯爵。話し込んでしまって」
「いえ、お話がすすんだこと、何よりと存じます。即位式並びに結婚式、そして参陣の件ですが、ゾラーク家も総力をあげて取り組ませていただきます」
「決心してくれたか。早くから心を固めてくれたこと、うれしく思う。悪いようにはしないぞ」
「ありがたき幸せです。それと、私の手の者が即位式や結婚式の段取りを手伝いましょう。ドイェターンの者だけでは不慣れでしょうから。ベドナジーク殿から、人を派遣するのは時間がかかるでしょうしな」
「そこまで甘えてよいのか、ゾラーク殿」
「無論ですとも」
「では、お言葉に甘えるとしよう」
「ははっ」
ゾラークは、ベドナジーク家の決心をみて、追随すると決めた。
婚姻を結ぶくらいであれば、後にはひけず、全力でラドヴァンを支えるだろう。
ラドヴァンもエドゥアルドも、伯爵には傑物のように思える。
そうと決めれば、大きく食い込んでおく必要があった。
きたるべき戦いでは伯爵もできる限りの兵力を出すつもりだ。
こうして、今日の会談は終わった。
エドゥアルドとネステルは一端帰還してから、部隊と共にドイェターンに来ることとなった。
ラドヴァンはゾラーク伯爵の手厚い見送りを受けて、帰還の途につく。
ラドヴァンは、ハギリ達同行者に今日の会談について話をした。
ハギリ達からは一応、祝福の言葉をもらったが、どうにも雰囲気が重苦しい。
一番わかりやすいのがジャネッタで、表情が明らかにすぐれない。
カリーヌは飄々としていた。
そして、ハギリには、
「やはり、殿下の御身分でしたら、ご結婚は恋愛では難しいんですね」
と、淡々と言われた。
「ああ、まず無理だな。俺の母みたいに、好きになった女性を側室にすることはあるが」
「殿下は側室をお持ちにならないんですか?」
「……俺の母は側室であるがゆえに、死んだようなものだからな。世継ぎの問題が出てこない限りは、側室を持つつもりはない」
「……それは知りませんでした。申し訳ありません」
「いや、気にしないでくれ」
この会話があってから、ハギリも少し表情が暗いように思える。
これから、諸侯との会合、即位式、出陣準備と様々なやるべきことがある。
ラドヴァンは女性にばかり構ってられない、と彼女らを無理やり頭の中から追いやった。
◇ ◇
ドイェターンに帰還後、ラドヴァンはハギリからどうしても話したいことがあると言われ、夜に私室で会うことにした。
ラドヴァンの私室は一国の王子にしては簡素なものだ。執務机、テーブル、ソファー、鏡など、必要最低限のものしかない。彼は華美なものにあまり興味はなかった。
ラドヴァンとハギリはソファーに座って話をするが、ラドヴァンはなぜか落ち着かなかった。
「どうしたんだ、ハギリ」
「私はどうやら、殿下が好きなことに気づきました」
ラドヴァンはその一言で心拍数が上がったのを自覚した。
彼は何といっていいかわからなくなる。
「私は剣一筋で生きてきたんです。他にはほとんど何も知りません。だから、恋愛などもしたことありません。告白されたことはありましたが、全く興味はもてませんでした」
ハギリはラドヴァンを見つめて、話し続ける。
「最初に殿下を拝見した時は、綺麗な男の人だと思いました。私がこちらの世界で珍しいように、殿下のような男性も私の国ではいません。だから、最初は初めて見る綺麗な男性という認識でした。それ以上の感情もあったかもしれませんが、あるかないかあやふやなものだったんです」
ラドヴァンは、ただハギリの魅惑的な瞳に惹きこまれるだけだった。
「ですが、エドルバラで一緒に戦ってからは殿下の存在がより強いものに変わりました。私の中では殿下の声が、戦う姿がありありと残っています」
それはラドヴァンにもよく理解できた。彼も同じだから。
「殿下は命を賭けて、共に戦った男性。そう意識すると何ともいえない気持ちになるんです。もちろん、味方部隊に他の人はいましたが、私の中には殿下しかいません。それでも、愚かな私はこの気持ちが恋愛感情かどうか確証が持てませんでした。しかし、殿下が結婚されると聞いて、初めてこの気持ちが恋愛感情だとわかったんです」
ハギリは少し俯いた。
「すごく嫌な気分になりましたから……」
「……そうには見えなかったが」
ようやく、ラドヴァンは一言話すことが出来た。
「当たり前じゃないですか。嫉妬心なんて恥ずかしくて見せられません」
ハギリは少し頬が赤くなる。
「そうか……」
と、だけラドヴァンは言った。彼は自分の感情を整理するのがやっとだった。
「私の世界では一夫一妻です。なので抵抗はありましたが、私は殿下と結ばれたいと思って、側室でもと思って聞いてみたら、それすらダメという返事だったので今ここにいるんです」
「……というと?」
「私を抱いていただけませんか、殿下。……ラドヴァン様」
ハギリは熱情を瞳に込めて、ラドヴァンをただただ見つめた。
ラドヴァンはハギリに手を伸ばしそうになるが、母の事を思い出し、そういえば、結婚することを今、思い出した。
自分でもどうかしていると思った。そんな重要なことを今になって思い出すなんて。
それだけ、ラドヴァンはハギリに捕らえられていた。
「……ハギリ、俺はもうすぐ結婚する」
「もちろん、知っています」
「母親のことも話したな」
「はい」
「妻になるネステルにも申し訳ないし、ハギリを不幸にするのは目に見えている」
ラドヴァンはあと一言を言うのに少し躊躇した。
彼の本心ではなかったから。
だが、彼は苦渋の決断で口に出せた。
「だから、ハギリを抱くわけにはいかない」
ラドヴァンにしては重みを込めて吐き出した言葉だった。
しかし、ハギリはそれを突きぬける。
「ラドヴァン様、私には女の魅力はありませんか? 剣しか知らない女ですけど」
「……いや、そんなことはない」
「だったら、抱いて下さい。私は別に側室にしてくれ、とは言いません。初めて好きになったラドヴァン様に抱かれたいだけなんです。私は側室ではなく、『究極の戦士』です。ラドヴァン様のお母さんみたいになりませんよ」
ラドヴァンにはハギリが言っていることがほとんど詭弁なのはわかっていた。
抱いてしまえば、もし、ハギリが妊娠してしまえば、結局は同じ事になる。
逡巡するラドヴァンにハギリは追打ちをかけた。
「お立場とかの話はわかりましたけど、まだ、返事をいただいてません」
「……何の返事だ?」
「ラドヴァン様は私を好きでしょうか? それとも、お嫌いですか?」
ラドヴァンにはそんなこと、言うまでもなかった。
嫌いなら、こんなに悩む必要はない。
「せめて、お気持ちだけでも教えてください」
「……俺も好きだ。はじめて見たときから」
ついに言ってしまった、とラドヴァンは思った。
ハギリはその言葉を聞くと、立ち上がってテーブルを回り、ラドヴァンの隣に座った。
「……ハギリ」
「……うれしいです。初恋が相思相愛だったなんて」
ハギリは顔をラドヴァンの胸に預けて、腕を彼の腰に回してきた。
ラドヴァンは、引き離すべきだ、と強く思った。
もうじき、正妻を迎える身なんだぞ、俺は! と、心の中で叫んでいた。
だが、心の中だけであった。
彼はハギリの体温を感じ、甘い香りを嗅いで、柔らかな身体の感触に浸っていた。
ハギリが顔を起こし、潤んだ瞳でラドヴァンを見つめ、顔を近づけてくる。
ラドヴァンにはわかっていた。
この一歩を飛び越えたら、もう戻れない、と。
だが、彼は彼女の唇を貪る方を選んだ。
とても甘美な感触だった。
その夜、ラドヴァンとハギリは結ばれた。
◇ ◇
明朝、ラドヴァンは自己嫌悪に陥った。
自分の愚かさに絶望したくなる。
だが、隣にいるハギリの寝姿を見ると、昨夜を思い出し、愛しい気持ちがあふれ出す。
ハギリの顔を見ていると、幸せな自分がそこにいた。
一度貪ってしまえば、若い二人は止まらなかった。いや、止まれなかった。
夜ごとに、ラドヴァンとハギリは抱き合うようになっていた。
◇ ◇
やがて、エドゥアルドを始めとする諸侯達がドイェターンに集まる。
セドリアン王国では豊穣の女神アポラナが信仰されていた。
盛大なラドヴァンとネステルの結婚式が、アポラナを祭るドイェターン大聖堂でまず行われた。
ラドヴァンとネステルは口付けをかわした。
「ラドヴァン様、ネステルは幸せです」
ネステルは涙を浮かべて、うっとりとした眼差しでラドヴァンを見上げていた。
「ああ、できる限りのことはする」
ラドヴァンは無理に笑顔を浮かべた。自己嫌悪が彼を突き刺し、良心が彼を殴りつける。
ハギリは特別席から、淡い笑みを浮かべて見つめていた。
(ラドヴァンの心はここにあるのに、あの女は何を手に入れるのでしょう)
そして休憩後、ラドヴァンの即位式が行われた。
アポラナに仕える神官が仮に作られた王冠を聖別した。
ラドヴァンが玉座に置かれた王冠をとり、自らの手で戴冠する。
そして、宣言した。
「余こそが、正統なるセドリアン国王ラドヴァン=ルミールである。侵略者であるムラーディス帝国も、忌まわしき僭称者シルヴェストルも、余の手で滅ぼすであろう」
ラドヴァンは少し息を吸い、高らかに声を放つ。
「セドリアン王国に栄光あれ!」
「セドリアン王国に栄光あれ!!」
即位式に参加した全ての者が声を張り上げて唱和する。
かくして、セドリアン王国に二人の王が誕生した。
王が一人になるまで、戦いが続くことになる。




