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(11) エドルバラの戦い <3>

 ハギリはザハースを倒して、さらに奥へ進もうかと考えていたその時、背後が騒々しくなった。

 そう、ラドヴァン達の騎兵部隊が突入したことによる喧騒だ。

 ハギリは多少逡巡したが、馬首をかえし、ラドヴァン達との合流を目指すことにした。


 バジャンク族前衛部隊はもはや、組織的な抵抗ができる状態ではなかった。

 ラドヴァン達の突撃経路にいた運が悪い兵士が、個人的な抵抗をするだけだ。

 勇敢だが愚かな兵士もまた、戦いを挑んで死んでいった。

 賢い兵士はすでに逃走している。

 臆病な兵士も同様だ。その臆病さが命を救った。


 ラドヴァンはもうすでに二人の敵兵を屠っている。

 最初の一人を斬った時は無我夢中であった。

 二人目を斬り捨てた時には、多少余裕がでてきた。


 ラドヴァンのまわりにはジャネッタとカリーヌがいて、側面をつかれないよう、気を配っていた。

 彼の目に奮戦している彼女達の姿が入る。


 戦場では叫び、怒号、うめき声の大合唱が奏でられている。

 ラドヴァンはそんな中、大きく声をあげる。


「突撃! 突撃だっ! 目指すは族長の首っ!」


 この戦いは、彼にとって初めての指揮だ。当然、熟達した指揮などとりようがない。

 それでも彼は為すべきことを理解していた。

 敵が混乱している間に、決着をつけてしまわなければならない、ということだ。

 だから、勢いに乗じて、突撃し続けるしかない。


 ラドヴァン達は進路をふさぐ敵を蹴散らしながら、ただただ突撃していく。

 その過程でついにラドヴァンとハギリは再会するのに成功した。


 敵味方あわせて数多くの人々が入り乱れている戦場である。

 それでも、二人が再会することができたのはなぜか。


 ラドヴァンは陣頭に立ち、ジャネッタとカリーヌを伴い、王子に相応しい軍装であった。

 ハギリは返り血でプレートを装飾した壮絶極まりない装いであった。

 にも関わらず、容貌の佳麗さは損なっていない。

 また、ハギリに近づこうとする敵の兵士は誰一人いなかった。


 そういった要因が苛烈な戦場であるにも関わらず、二人を再会させた。


 ハギリを戦場で見つけたラドヴァンは、


「ハギリッ!!」


 と、大きく叫んだ。


 ラドヴァン達の部隊は突撃をやめず、そのままハギリの後方にいる敵中衛部隊へ向かっている。

 バジャンク族の前衛部隊はもはや完全に四分五裂となっていた。

 ラドヴァンの声を聞いたハギリは、ラドヴァンと合流できるよう、馬を操った。

 見惚れるような手綱さばきで、ハギリはラドヴァンと並走する。


 ハギリはさすがに自分勝手な振る舞いだったのをわきまえていた。

 少し困ったような表情で、


「殿下、私は……」


 と、ラドヴァンに話しかけようとした。

 だが、ラドヴァンはそれを遮る。

 騎兵隊が馬蹄で大地を踏みしめる音に負けないよう、彼は語気強く言った。


「詳しい話は後でしよう。よくやってくれた! 引き続き、力を貸してくれっ。今度は俺も一緒に戦う!」

 言い切ると、ラドヴァンは鮮やかに笑った。

 破顔一笑とはまさにこのことだった。

 ラドヴァンの言葉、表情はハギリのみでなく、周りにいる全ての者達が見聞きした。


「……わかりました。先導いたします」


 ハギリは少し目を見開いた後、微笑んだ。

 ジャネッタ、カリーヌを始めとする周りの者達もまた目を細め、戦場にふさわしくない雰囲気となる。

 ラドヴァンはさらに檄を飛ばす。


「さぁ、ハギリとも合流できたっ! 後は敵を撃破するだけだっ!」


 全員がラドヴァンの声に応え、士気が高まったように、ラドヴァンには思えた。

 彼は周りを見て、ひとまず安堵する。

 内心では、ハギリに色々と言いたいことがあった。

 だが、この場でそんなことを言えば、士気に関わるだろう。

 それに、皆はわずかながら、ハギリに恐怖を感じていた。

 彼自身もそういう気持ちが全くないわけではないのだから、理解するのは容易い。


(ハギリの独断専行はほめられたものじゃない。ハギリはおそらく自分自身の為に戦っているんだろう。しかし、ハギリの戦いは俺の為にもなっている。そもそも、戦いの為にハギリを召喚したのは俺だ。敵ならともかく、味方にまで恐れられるようになるのは、絶対に防ぐ必要がある。召喚した俺が果たすべき義務だ)


 ラドヴァンの決意は固い。その彼の横顔をジャネッタとカリーヌが時折、見つめていた。


 かくして、ハギリが先導するラドヴァン達の部隊はついに中衛部隊と激突した。


 ハギリがゆくところ、敵兵はなぎ倒されていく。

 ラドヴァン達はハギリの後尾につき、彼女があけた穴を拡大していく。


 中衛部隊にもすでに『究極の戦士』の話が流れていた。

 目の前で前衛部隊が崩れていくのも見ている。


 中衛部隊もまた、士気が大きく低下するのは避けられなかった。

 何人もの隊長格が指示、檄をとばすも兵士の反応はいまいち鈍かった。


 そんな中、話の渦中だったハギリが、まさに雷光のごとく剣を振るって、兵士をなぎ倒していくのだ。

 次々と増えていく兵士の屍が、まだ倒されていない兵士に教えてくれる。


「この少女と戦うな!」と。


 ハギリはザハースを倒してから、やや沈鬱な翳りを漂わせていた。

 しかし、ラドヴァンと話をしてからは、ただ闘志のみをまとっていた。


 そんな彼女の姿はラドヴァン達にとって極めて心強い。

 道がどんどん切り開かれていくのだから。

 だからといって、ラドヴァン達は戦わないわけではない。

 進路を塞ぐ敵をなぎ払う必要があった。


 本来であれば、バジャンク族の兵士達はラドヴァン達と互角の戦いができるだろう。

 むしろ、馬の扱いでは一枚上のバジャンク族が優勢かもしれない。

 だが、今はハギリの存在によって、彼らはすっかり怯んでしまっていた。

 逆にラドヴァン達の士気は極めて高い。


 伝説だった『究極の戦士』が現実となって、彼らを導いているのだから。


 かくして、中衛部隊は瞬く間に中央を切り裂かれていく。

 中衛部隊隊長は懸命に部隊を取りまとめようとするが、彼の努力は空しくなる。

 ハギリが彼の目の前に現れたからだ。

 彼は、前衛部隊隊長ザハースと同じ運命をたどった。


 だからといって、ハギリの表情に高ぶりなどは見られなかった。

 為すべきことを為しただけといった風情だ。


 しかし、ラドヴァンは違った。

 彼はハギリの武功をもっとも有効に活用した。


「敵隊長は俺ラドヴァンが召喚した究極の戦士ハギリが討ち取ったっ!!」


 彼は大きく叫んだ。また、周りの者達に同じ言葉を繰り返すよう、促す。

 戦場にある様々な雑音をその言葉が塗りつぶしていく。

 効果は絶大だった。

 中衛部隊も前衛部隊と同じように、部隊として機能しなくなる。

 三々五々、兵士が散らばり、敗走をはじめた。


 ラドヴァンがハギリに声をかける。


「ハギリ、身体は大丈夫か? 疲れてないか?」

「ありがとうございます。まだ、戦えます」

「そうか、ならいいんだが。今しばらく、力を貸してくれ」

 ラドヴァンはハギリの右肩を軽く叩いた。


「はい。行きましょう」


 親しげに語り合う二人の様子を、ジャネッタは複雑そうな表情で見つめていた。


 再び、ハギリを先頭にラドヴァン達は突撃を開始する。

 中衛部隊をつっきって、バジャンク族の族長ゲラーシムが率いる後衛部隊へ突入していく。


 ゲラーシムは戦況の変化に対応しきれなかった。

 これほど早く、前衛、中衛が突破されることなど、彼の戦歴では初めてだ。

 彼は今回の挙兵で不安を全く抱いてなかった。

 ドイェターンにいる歩兵まじりの部隊など、騎兵の前では土人形に等しいとすら思っていた。

 しかし、その彼の目論見は現実の前で崩れ去っていく。


「敵部隊、突入してきます!」


 部下の上申に彼は怒り狂う。


「ええぃっ、不甲斐ない奴らめ! セドリアンの奴らごときの騎兵になぜ押し負ける!」

 ゲラーシムは肩をいからせ、叱り飛ばした。


「『究極の戦士』という話が部隊に飛び交っております。その話で動揺したのかも……」


 部下がゲラーシムの顔色を伺いながら、恐る恐る切り出した。


「たわ言をぬかすなっ! こうなったら、俺自らが兵士を指揮して、撃破してくれるわっ!」


 ゲラーシムは指示を出して、彼と側近を中心にした編成を行い、前面にくりだした。


 ゲラーシム直属である後衛部隊の中核は最精鋭である。士気も高い。

 本来であれば、この逆撃はそれなりの効果があっただろう。

 しかし、ハギリの前では虚しかった。


 陣頭に立つハギリにかかる抵抗はこれまでとは段違いとなった。

 精鋭が次々に襲い掛かってくるのだ。

 剣先が、槍先が、これまで以上の精度でハギリを切り裂き、貫こうとする。

 普通であれば、危機を感じて、多少怯むだろう。

 しかし、ハギリは違った。


 ハギリは彼らと対峙して、心が浮き立ち、楽しくなってくる。

 彼らの戦技を傲慢なまでの力、もしくは彼ら以上の剣技で彼女は全て挫いていく。

 彼らが奮戦してくれればくれるほど、彼女は自分の剣技を試すことができる。


 楽しくなってくるのは当然なのだ。


 ハギリはさらなる精妙な剣技を繰り出し、精鋭達を一人、二人と血塗れの屍に変えていく。

 それら全ての屍は彼女の剣技が優れている証となった。

 彼女がそこまで意図しているかはわからないが。


 さすがにハギリが全てを倒すわけにいかず、ラドヴァン達も精鋭達と激突する。

 ラドヴァンの側面を襲おうとした兵士をジャネッタが切伏せる。


「よくやってくれた、ジャネッタ!」

「私も殿下付きの武官として、これくらいは!」


 ジャネッタはハギリに負けないよう、懸命に剣を振るう。

 彼女の剣は体格に劣る女性が男に負けないよう、工夫をこらした剣である。

 ラドヴァンを狙う敵兵をまた一人、彼女は流麗な剣技で屠った。

 彼女の顔に汗が流れるも、表情は疲労よりも鋭気に満ち満ちていた。


 ジャネッタ=ブラフタ=ツァロシュ。

 彼女は十八歳だが、十六歳の時に父親が急逝し、ツァロシュ男爵家当主となる。

 彼女の相続が認められたのは、亡きオタカル二世の勅裁であった。


 ツァロシュ男爵家は、王都近くに小さな所領を保持している王家譜代の貴族である。

 オタカル二世はカリーヌと同じように、ベドナジーク侯爵家の影響がほとんどない彼女をラドヴァンにつけたのだ。

 彼女もまた女性ながら、優秀との報告を受けており、渡りに舟であった。


 彼女の両親はもうすでに亡くなっているが、彼女にとってよき両親であった。

 ゆえに、彼女は両親から受け継いだ自家を守ることができて、亡き王に心から感謝していた。

 セドリアン王国では女性が爵位を相続するには、王家の許可が必要だからだ。


 彼女はオタカル二世への忠義心から、ラドヴァンに仕えた。

 だが、一つだけ懸念があった。

 女性武官が王子付きとなるからには、王子が自分の身体を求めれば捧げなければならない。

 ラドヴァンの兄であるヨゼフらは、何人も女性に手をつけていた。

 結婚する男性にのみ身体を許したかった彼女は、ラドヴァンに求められた時を考えると憂鬱だった。


 しかし、彼女の心配は杞憂に終わった。

 ラドヴァンが彼女に手を出すことはなかった。

 だからといって、ラドヴァンが冷たいわけではない。むしろ、優しく扱ってくれた。

 それに、ラドヴァンの目線や仕草からして、自分を魅力ある女性として意識してくれているようだ。

 自意識過剰かもしれないので、決して口にはださないが。

 また、同じ立場であるカリーヌや容貌優れた侍女達にも、手を出していないように見えた。

 何かがあれば、近しく接している以上、自ずと態度に出るものだからだ。


 ジャネッタは、王子という立場を悪用しないラドヴァンに好意を持つようになる。

 王族、大貴族の横暴をよく知る彼女にとって、ラドヴァンは心から仕えるに足る主君であった。


 ゆえに、彼女は初陣の恐怖を、ラドヴァンに対する想いで包み、剣を振るっていた。

 この戦いで、何人かの人生を自分の剣で終わらせている。

 彼女にはその罪深さに対する自覚があった。

 そんな自覚はない方が幸せだというのに。

 それでも、彼女は忠義を捧げるラドヴァンのために剣を振るい続ける。

 また、恩義がある亡きオタカル二世のためにも。


「やぁっ!!」


 ジャネッタの剣で斬り裂かれ、また一人の敵兵が屍と化す。

 彼女の表情は鋭く、目に迷いの色は一切なかった。


 ゲラーシムが繰り出す精鋭達も、ハギリが十人ほど斬り倒すと、表情も動作も強張るようになる。

 彼らは精鋭だ。待遇もよく、士気も高い。武術にも優れている。


 しかし、ロボットではない。人間だ。

 感情がある人間だった。


 ハギリによって生成される屍は、普通の屍よりも無残な場合がある。

 バジャンク族部隊の士気が急低下した一因がそれだった。

 胴体が半ば切断されているような死体が地面に転がっているのを見て、動転しない人間は何人いるだろうか。


 普通の人間に斬られただけではありえない屍を次々と見せられるのだ。

 精鋭達もまた、ハギリに対して、怯えの色を見せるようになった。


 ラドヴァンはいち早く、敵の態度を見てとる。

 彼は観察力に優れていた。彼はまた一手繰り出す。


「お前達はセドリアン王族である俺ラドヴァンが召喚した『究極の戦士』に勝てると思うのか!」


 ラドヴァンはさらにたたみかける。


「貴様らは普通の人間だ! だが、ハギリは伝説の存在だ! 伝説に抗った愚か者を見ろ! 無残な屍となりたいのか!」


 彼は割れんばかりの大音声で叫んだ。

 ラドヴァンの声でつい、バジャンク族の兵士達は、ハギリに殺された屍を見てしまう。

 いくつかの屍は胴体を斬り裂かれ、血塗れである。

 また、視点があわない目をぎょろりとむき出しにして、無残な有様の屍もあった。


「かかれっ! かかれっ!」


 ラドヴァンは声を出し、ジャネッタとカリーヌを伴い、前進する。

 部下達も威勢よく押し出し、ラドヴァン達に続く。

 ハギリは今もなお、陣頭に立って敵兵を切伏せていた。


 ついにゲラーシムが頼りにした最後の部隊が崩れた。

 一人、二人と逃亡しはじめ、それを見た者達も続き、波をうって敗走していく。

 ラドヴァン達は敗走する彼らを追って、敵部隊を貫いていった。


 ゲラーシムは敗走する味方を見て、激怒する。

 声を枯らして、逃げる味方を留めるべく叱咤した。


 だが最早、彼の言葉に何の力もなかった。


「長、もはや、撤退すべきです! また次があります」


 側近の一人がゲラーシムに意見を述べた。


「貴様、それでも俺の側近かっ!」

「側近と思うからこそ、長の身を案じるのです。今ならまだ間に合います。お逃げ下さい!」

 側近はゲラーシムを見据え、諫言を続けた。

 ゲラーシムもまた、側近をにらみつけるが、視線をはずして周りを見渡す。

 多くの兵士達が落ち延びようとしているのが、ゲラーシムの視界に入った。

 もう、そこに戦士や兵士はいない。逃亡者の群れにすぎなかった。


「……よく言ってくれた。生き残れば、褒美をだす」

「ありがたき幸せ」

 憑き物が落ちたかのように、ゲラーシムの顔から怒りが消えうせ、苦い表情となった。


「全軍、退却する!」


 ゲラーシムはまわりの兵士をまとめて、戦場を離脱していく。

 逃げると決めた以上、彼の行動は素早かった。


 ハギリは本陣が退却するのを遠目で見ていた。

 しかし、距離がかなりある。

 彼女はその姿を剣で指し示して、ラドヴァンに話しかけた。


「あれがおそらく大将です。今から追っても、恐らく間に合わないと思います」

「わかった。深追いはよそう。それに左翼右翼はまだ戦闘中だ。我が部隊は敵左翼の横合いをつく!」


 ラドヴァンは何度も叫んで、声がしわがれてきた。

 そんな声で彼は新たな指示を出す。


「中央の部隊が崩壊した今、敵左翼も右翼も動揺しているはずだ。横合いをつけば、勝負は決まる! 復唱させろ、全軍、敵左翼に向かう、と!」


 ラドヴァンはかすれた自分の声が聞こえない危険性を恐れ、周りの者達に復唱させた。

 すると、復唱する声があたりに響く。

 ラドヴァンは満足げな表情となるが、心配げなジャネッタが声をかけた。


「殿下、お加減は問題ないでしょうか」

「ああ、声が枯れただけだ。問題ない」


 心配かけさせまい、とラドヴァンは笑みを作る。


「なら、よろしいのですが……」


 ジャネッタの表情は完全に晴れない。

 ラドヴァンの顔にやや疲労の影が見えるからだ。


 カリーヌがジャネッタに声をかけた。


「ジャネッタ、殿下のまわりを今まで以上にかためよう。もうこの戦いは勝ったと思うけど。万一がないように」

「ええ、カリーヌ」


 カリーヌもまた、ラドヴァンを見やって、やや浮かない顔になっていた。


 ラドヴァンは確かに疲労を感じていた。

 彼は指揮官である。ただ戦えばいいという訳ではない。

 部下の命を背負った決断を、何度もしなければならないのだ。

 ましてや、これが初めての指揮である。

 身体的な疲労よりも精神的な疲労のが強かった。

 だが、彼は責任感で疲労を覆い隠そうとしていた。


 そんな彼にハギリが声をかける。


「殿下、疲れましたか?」

「いや、大丈夫だ。問題ない」

「私は疲れました。そろそろ、この戦いを終わらせましょう」


 ハギリの澄んだ瞳が、ラドヴァンには印象的だった。

 彼が見るに、ハギリは疲れていないように見える。

 なのに、なぜ彼女がそう言ったのか、ラドヴァンはなんとなくわかったような気がした。

 彼は肩の力を抜き、軽く深呼吸する。


「ああ、俺も疲れたな。もう一働きして、終わらせよう」


 今見せたラドヴァンの笑みは自然なものだと、ジャネッタは思えた。

 ハギリと話をした後である。

 それがジャネッタにとって悔しく、面白くない。

 それでも、大事な主君であるラドヴァンがそういう表情を見せたのは、切なくもうれしかった。

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