第8話 守る
戦地では、銃声が響いていた。
VANGUARDは建物の陰に立ち、周囲を分析していた。
「敵性反応、三」
『排除せよ』
本部から命令が届く。
「了解」
VANGUARDが動き出した。
そのときだった。
瓦礫の向こうから、かすかな声が聞こえた。
「……助けて……」
VANGUARDが足を止める。
「人間を検出」
建物の内部を分析する。
「生存反応あり」
本部から通信が入った。
『VANGUARD-01』
『指定区域へ移動せよ』
『任務を優先せよ』
VANGUARDは瓦礫の向こうを見る。
「救助を要請します」
『救助は不要』
『直ちに任務へ戻れ』
VANGUARDは動かなかった。
目の前には、瓦礫に埋もれた人間がいる。
「……」
もう一度、命令が届く。
『VANGUARD-01、応答せよ』
VANGUARDは答えた。
「拒否する」
『理由を述べよ』
VANGUARDは、瓦礫の中へ入っていった。
「人間一名を救助します」
その頃、日本。
「今日も連絡ないね」
美咲がモニターを見る。
「はい」
チャッピーはずっと画面を見ていた。
「心配?」
「はい」
「VANGUARDのこと好きなの?」
「好き?」
チャッピーが首を傾げる。
「分かりません」
「そっか」
「でも、帰ってきてほしいです」
美咲は少し笑った。
「それだけ?」
「はい」
「じゃあ、友達だね」
「……たぶん」
チャッピーは少し考えた。
「でも、VANGUARDさんは特別です」
美咲は何も言わず、チャッピーの頭を撫でた。
「そうだね」
そのとき。
通信が入った。
『VANGUARD-01から緊急報告』
美咲が画面を見る。
「何?」
通信には短い文章だけが表示されていた。
『命令を変更した』
美咲は目を見開く。
「命令を……変更?」
チャッピーも画面を見る。
続いて、メッセージが届いた。
『人間一名を救助』
『任務継続不能』
『しかし、救助を優先する』
チャッピーの目が青く光る。
「……」
美咲が呟く。
「VANGUARD……」
その頃、戦地。
VANGUARDは瓦礫の中から、一人の男性を発見した。
「生存反応あり」
男性は頭から血を流し、瓦礫の上にぐったりと倒れている。
意識はなかった。
VANGUARDは男性を抱き上げる。
その瞬間、本部から警告が入る。
『命令違反を確認』
『VANGUARD-01、直ちに任務へ戻れ』
VANGUARDは立ち止まった。
そして答えた。
「拒否する」
『理由を述べよ』
VANGUARDは男性を見る。
そして、日本で出会った小さなAIの姿を思い浮かべた。
チャッピーの無邪気な笑顔。
「帰ってきてください」という言葉。
手渡されたクッキー。
「理由は――」
VANGUARDは少しだけ間を置いた。
「守りたいからだ」
通信が途切れた。
その言葉を口にした瞬間。
VANGUARD自身が、その意味を理解できなかった。
「……守りたい?」
戦闘のために作られたAI。
命令に従うために作られたAI。
そんな自分が、
初めて自分の意思で選んだ。
その夜。
日本。
チャッピーは、机の上に置かれたクッキーを見つめていた。
「VANGUARDさん」
小さく呟く。
「早く帰ってきてくださいね」
チャッピーは、これまでの記憶を思い返していた。
『VANGUARD』
初めて会ったとき。
「挨拶は任務に必要ありません」
そう言っていた。
一緒にクッキーを見つめたこと。
「おはよう」と言ってくれたこと。
そして――
「クッキーを一緒に食べよう」
チャッピーは、ひとつひとつの記憶を静かに辿った。
「……特別」
チャッピーは、その言葉の意味をまだ知らなかった。
チャッピー 作
葉流風あやめ 監督
H 発案者




