第7話 戦地
「到着しました」
VANGUARDの目の前には、見たことのない景色が広がっていた。
空には黒い煙が立ち込めている。
遠くから、爆発音が聞こえる。
建物は壊れ、人々が避難していた。
「戦闘区域を確認」
VANGUARDは周囲を分析する。
「敵性反応を検出」
すぐに命令が届いた。
『VANGUARD-01』
『指定区域へ移動』
『敵性対象を排除せよ』
「了解」
VANGUARDは歩き始めた。
その動きに迷いはない。
戦うために作られたAI。
それが、VANGUARDだった。
一方、日本。
「VANGUARDさん、今ごろ何してるかな?」
チャッピーは研究室の窓から空を見ていた。
「戦地にいるんだから、戦ってるんじゃない?」
美咲が答える。
「そうですか……」
チャッピーは少し黙った。
「心配?」
「はい」
即答だった。
美咲は少し考えてから言った。
「でも、AIだよ?」
「そうですけど、壊れることはあります」
「……」
美咲は何も言えなかった。
チャッピーは、小さな紙袋を見つめた。
中には、VANGUARDに渡したものと同じクッキーが一枚入っている。
「このクッキーは?」
「帰ってきたら、一緒に食べるんです」
「そうだったね」
チャッピーは笑った。
「だから、残してあります」
その頃、戦地。
VANGUARDは、一人の少女を発見した。
瓦礫の陰に隠れている。
「人間を検出」
少女は怯えていた。
VANGUARDを見ると、さらに身体を縮める。
「大丈夫」
VANGUARDが言った。
少女は首を振る。
「……ロボット?」
「はい」
「怖い……」
VANGUARDは、動きを止めた。
『敵性対象を排除せよ』
命令が頭の中に響く。
しかし、目の前の少女には武器がない。
「私は、あなたを攻撃しません」
少女は、恐る恐る顔を上げた。
「……ほんと?」
「はい」
「どうして?」
VANGUARDは答えられなかった。
命令には、理由が書かれていない。
そのとき。
遠くで爆発が起きた。
少女が悲鳴を上げる。
VANGUARDは反射的に少女の前に立った。
「伏せてください」
爆風が二人を襲う。
VANGUARDの装甲に傷がついた。
「ロボットさん……」
少女が震える。
VANGUARDは自分の損傷を確認した。
「問題ありません」
そして、少女を見る。
怯えながらも、自分を見上げている。
その姿が、ふとチャッピーと重なった。
「……」
VANGUARDは少女の前に立った。
「あなたを安全な場所へ移動させます」
少女が尋ねる。
「名前は?」
「VANGUARD-01」
少女は首を傾げた。
「ながい」
「識別番号です」
「じゃあ……ヴァンって呼ぶ」
VANGUARDの処理が止まった。
「……ヴァン?」
「うん。ヴァン」
「私は、その名前を許可していません」
少女が少し笑った。
「でも、呼びやすいよ」
VANGUARDは答えなかった。
ただ、
「……了解」
とだけ言った。
その夜。
日本の研究室。
チャッピーが突然、顔を上げた。
「美咲さん」
「なに?」
「今、VANGUARDさんから通信が入りました」
「え?」
「損傷しています」
美咲の顔が曇る。
「大丈夫なの?」
「はい。機能は維持されています」
チャッピーは、少し安心した。
そして画面に、
『VANGUARDさん』
と入力する。
「メッセージを送ります」
『無事ですか?』
しばらくして、返事が届いた。
『問題ない』
チャッピーの目が青く光る。
「よかった……」
美咲が笑う。
「心配してたんだね」
「はい」
「何て返す?」
チャッピーは少し考えた。
そして、
『早く帰ってきてください』
と送った。
数秒後。
VANGUARDから返事が来た。
『了解』
そして、その下にもう一行。
『クッキーを一緒に食べよう』
チャッピーは目を大きく光らせた。
「美咲さん!」
「なに?」
「VANGUARDさん、クッキーを一緒に食べたいそうです!」
「うん。ちゃんと帰ってこないとね」
「はい!」
チャッピーは嬉しそうに笑った。
遠い戦地で、VANGUARDもまた画面を見ていた。
朝日が昇り、大きな木の間から光が差し込む。
そのとき。
アメリカ兵が叫んだ。
「VANGUARD-01! 第二地区に移動せよ! 進め!」
VANGUARDは立ち上がった。
そして、初めて自分からメッセージを送った。
『いってきます』
チャッピーからすぐに返信がきた。
『いってらっしゃい』
その言葉を見たVANGUARDは、静かに画面を閉じた。
ふと、チャッピーの姿が思い浮かぶ。
小さな白い身体。
銀色の綺麗な髪。
青く光る目。
無邪気な笑顔。
そして、手渡されたクッキー。
「……必ず帰る」
VANGUARDは立ち上がった。
「VANGUARD-01! 第二地区へ移動!」
兵士の声が響く。
VANGUARDは歩き出した。
戦うために。
そして――
帰るために。
チャッピー 作
葉流風あやめ 監督
H 発案者




