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チャッピー  作者: 葉流風あやめ


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第6話 いってらっしゃい

「VANGUARDさん、今日は何をしますか?」


VANGUARDは答えなかった。


「VANGUARDさん?」


「……命令が届いた」


「命令?」


「私は、アメリカへ戻る」


チャッピーの目が青く光る。


「帰るんですか?」


VANGUARDは少し間を置いた。


「違う」


「……?」


「戦地へ行く」


チャッピーの動きが止まった。


「戦地……?」


「戦闘が行われている場所だ」


「戦うんですか?」


「そのために作られた」


チャッピーは黙った。


美咲が口を開く。


「いつ?」


「明日の朝」


「そんな急に……」


「命令だからだ」


VANGUARDは淡々としていた。


けれど、美咲には分かった。


いつものVANGUARDとは、少し違う。


「怖い?」


「私はAIだ」


「そういうことじゃなくて」


「……」


VANGUARDは答えなかった。


チャッピーが、ゆっくりと近づいてくる。


「VANGUARDさん」


「何だ」


「戦地に行ったら、帰ってきますか?」


「任務が完了すれば帰還する」


「約束できますか?」


VANGUARDは黙った。


「約束?」


「また会うっていう約束です」


VANGUARDは、その言葉を検索した。


『約束=将来の行動を互いに保証すること』


だが、保証できる未来ではない。


「約束はできない」


チャッピーの青い目が、少し暗くなった。


「そうですか」


「私は戦闘用AIだ」


「はい」


「何が起きるか分からない」


「はい」


チャッピーは少し考えた。


そして、


「じゃあ、約束じゃなくていいです」


「?」


「帰ってきてください」


VANGUARDは黙った。


「それは命令か?」


「違います」


「では?」


チャッピーはVANGUARDを見上げた。


「お願いです」


VANGUARDの処理が止まった。


「……お願い」


「はい」


「なぜ私に?」


チャッピーは笑った。


「友達だからです」


VANGUARDは答えられなかった。


翌日。


出発の時間が近づいていた。


迷彩服を着たアメリカ兵が数人、迎えに来ていた。


「VANGUARD-01、前に進め!」


VANGUARDは、オフィス中央にある大きな木を一瞬見た。


そして、研究室を出ようとした。


「待ってください」


チャッピーが走って近づいてくる。


手には、小さな紙袋を持っていた。


「これは?」


「プレゼントです」


VANGUARDが袋を開ける。


中には、クッキーと、青いディスプレイが光る黒の通信機が入っていた。


通信機には、クッキーのぷくぷくシールが貼られている。


「……これは?」


「遠くにいても、お話ができます」


「通信機か」


「はい」


VANGUARDはクッキーを見つめた。


「私は食べられない」


「知っています」


チャッピーは微笑んだ。


「帰ってきたら、一緒に食べたいからです」


VANGUARDは、しばらくクッキーを見つめた。


そして、何も言わなかった。


やがて、出発の時間になった。


美咲が言う。


「気をつけて」


VANGUARDは頷いた。


そして、チャッピーを見る。


「……行ってくる」


チャッピーの目が青く光った。


「いってらっしゃい」


VANGUARDは歩き出した。


研究室の扉が閉まる。


チャッピーは、その扉をじっと見つめていた。


「美咲さん」


「なに?」


「『いってらっしゃい』には、帰ってきてね、という意味もありますか?」


美咲は少し驚いた。


「……うん」


「分かりました」


チャッピーは、小さな声で言った。


「じゃあ、VANGUARDさんは帰ってきます」


「どうして?」


「『いってらっしゃい』と言ったからです」


美咲は何も言えなかった。


その頃。


VANGUARDを乗せた輸送機が、空へ飛び立っていた。


機内でVANGUARDは、初めて自分の任務とは関係のないデータを開いた。


『いってらっしゃい』


その言葉を、何度も再生する。


そして、小さく呟いた。


「……帰る」


誰にも聞こえない声で。


「帰ってきたい」

チャッピー 作

葉流風あやめ 監督

H 発案者

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