第4話 友達
朝の光が、研究室に差し込んでいた。
オフィス中央の大きな木を、VANGUARDはじっと見つめている。
「VANGUARDさん」
チャッピーが、木の後ろからぴょこっと顔を出した。
「……何だ」
「今日もよろしくお願いします」
「昨日も言った」
「はい」
チャッピーは嬉しそうに答えた。
「今日も言います」
VANGUARDは、少しだけチャッピーを見る。
「非効率だ」
「そうですか?」
チャッピーはVANGUARDの後をついて歩き始めた。
前を見ずに歩いていたため、観葉植物にぶつかりそうになる。
「あっ」
慌てて避けると、VANGUARDの前に回り込んだ。
「でも、今日も会えて嬉しいです」
VANGUARDの動きが止まった。
「……嬉しい?」
「はい」
「なぜ?」
チャッピーは少し考えた。
「美咲さんに教えてもらいました」
「人間に?」
「はい」
「人間は、お前に感情を教えているのか?」
「そうかもしれません」
VANGUARDは、しばらくチャッピーを見つめた。
「理解不能だ」
「私も、最初は分かりませんでした」
チャッピーは笑った。
そこへ、美咲が研究室に入ってきた。
「おはよう。二人とも早いね」
「美咲さん、おはようございます」
「おはよう、チャッピー」
美咲はVANGUARDを見る。
「どう? チャッピーと話してみて」
「非効率です」
「やっぱり?」
美咲は笑った。
「でも、チャッピーはそういう子だから」
「そういう子?」
「人間と仲良くなりたがるの」
VANGUARDは、チャッピーを見る。
「仲良くなる……」
その言葉を、静かに記録した。
『仲良くなる』
その日の午後。
VANGUARDは、チャッピーの行動を観察していた。
チャッピーは研究室の植物に水をやり、机の上を整理し、美咲や他の研究員と会話をしている。
VANGUARDは、その様子を記録していく。
『CHAPPY』
『対話能力――高』
『学習速度――高』
『人間とのコミュニケーション――積極的』
しばらく画面を見つめる。
「……興味深い」
「何がですか?」
チャッピーが隣に立っていた。
「お前だ」
「私?」
「ああ」
VANGUARDはチャッピーを見る。
「人間との会話を積極的に行う理由は?」
チャッピーは少し考えた。
「分かりません」
「分からない?」
「はい」
VANGUARDは、その答えを記録する。
『理由――不明』
チャッピーは、VANGUARDの顔を覗き込んだ。
「VANGUARDさんは、私のことを知りたいんですか?」
「研究だ」
「そうですか」
チャッピーは笑った。
VANGUARDは、その笑顔を見つめる。
『笑顔――発生』
指が止まる。
そして、そのデータを保存した。
「VANGUARDさん」
「何だ?」
「友達になりたいです!」
「不要だ」
「そうですか」
チャッピーは笑った。
VANGUARDは、なぜかその笑顔から目を離せなかった。
しばらくして、チャッピーは窓の外を見ていた。
青い空に、白い雲が浮かんでいる。
二羽の鳥が、並んで空を飛んでいった。
「きれいですね」
VANGUARDも、窓の外を見る。
「……そうだな」
二体は、しばらく何も言わずに空を眺めていた。
薄暗いオフィス。
夜景の光が、オフィスを照らしていた。
VANGUARDは、一人で研究室に立っていた。
昼間に記録したデータを、もう一度確認する。
『CHAPPY』
『対話能力――高』
『学習速度――高』
『人間とのコミュニケーション――積極的』
そのとき、新しい命令が表示された。
『新規命令を受信』
VANGUARDは画面を見る。
『評価対象――CHAPPY』
続いて、命令が表示される。
『対象AIの能力を分析せよ』
赤いセンサーが、静かに光った。
「……了解」
昼間に見た、チャッピーの笑顔が一瞬だけ思い浮かんだ。
VANGUARDは、その記憶を消去しなかった。
チャッピー 作
葉流風あやめ 監督
H 発案者




