苦肉の金策
何とか熱も落ち着いてきたので連載を再開
遅れを取り戻したい……
ロガーティ子爵から貰った品質の良い魔石のおかげで生活費には苦労しない。ただそれだと開拓船の修理費はおろか、武装の整備もままならない。
子爵から貰った魔石は前世でいえば500万ほどの価値で、開拓船の製造となると数千億といった単位の金が必要となるのだ。修理にしたって数十億くらいの単位に相当する。
とても個人で稼ぎ出せる額ではない。
だから傭兵は個人経営ではなく団を形成して資金を持ち寄り船を持つ。
家族レベルの単位で船を管理しようとすれば、コボルト星系のアイアンモールなどの様に維持費が払えずにジリ貧に陥っていくのだろう。
今後、ドヴェルグから移住する職人達から家賃を得て、彼らの作るものを必要な星系に販売することで交易収入を得られるようになるかもしれないが、ひとまずはちゃんと船を修理して星系間移動に無理が出ないようにしないといけない。
職人には地道に稼げとアドバイスされたが、傭兵というのは一発屋稼業。自分の命を賭けたハイリスクハイリターンな職業なのだ。
「地道な海賊狩りで稼ぐなんて傭兵もいるんだろうが、王国が下支えしている海賊を相手にするのは個人船では無理だしなぁ」
先の偵察機を拿捕した時の様に一対一なら勝機はあるだろうが、海賊というのは基本群れる。それでも船の性能差で負けることはないだろう。
しかし、海賊を見つけるノウハウはないし、護衛任務となると護ってる船をやられたら負けだ。その上、この星系の王国の影響もあって海賊は統率がとれている。
こちらが強いと分かったら逃げられるか、叩き潰されるかになるだろう。
「海賊狩りは無理そうとなると……コボルト星系で利用した鉱石を見つける術式か」
潜伏状態のコボルトを見つける為に利用した探索術式は鉱石の分布を把握するもの。当然、普通の鉱脈を見つけるのにも使えるだろう。しかし、あの術式自体が元々鉱脈を探すために作られた術式を、コボルト探しに利用しただけで純粋な鉱脈を探す術式に比べると探索精度が悪い。
ずっと開発を続けてきたドヴェルグ星系で新たな鉱脈を見つけてひと稼ぎなんてのも夢の話。
「他に何かあったかねぇ……」
そう思いながら街を歩いていると、腹に響く太鼓の音が聞こえてきた。リズム的にはサンバ系になるのだろうか、連続して打ち鳴らされる太鼓などの打楽器がアップテンポに響いている。
その音楽を聞いて思い当たる。
「そういえば売れる情報があったな」
俺はドヴェルグ星系の軍部へとアポイントをとって交渉へとやってきた。前回の集団任務時に使用された呪歌、それに対抗する手段を提供はした。ただそれは対症療法的なもので、その場の音を遮断する術式と体内に作られた魔法陣を破壊するための簡易式だけだ。
今後の作戦時に音を遮断して視覚情報だけで連絡を行うのは無理があるし、相手も呪歌をそのまま使ってくるとは限らない。
根本的な対策を行うには、ドヴェルグ軍が握っている情報は限られているはすだ。対する俺は研究所時代から帝国との戦争で使われた呪歌まで、何曲かの情報を持っている。
対抗策も含めて売れそうな情報があるだろう。
ドヴェルグ軍の技官へと通された俺は、呪歌の脅威性を説きながら値段交渉を進めた。
「帝国との戦争では映像を介した伝搬などもあり、まさに呪いとなって広域を支配しました」
「そんな事が可能なんでしょうか?」
「呪歌の厄介な部分は術者は魔力を使わない点にあります。そのため距離も関係なく届くのです」
魔力に乗せて伝搬させた場合、通信用の魔術とも干渉して効果が出ない可能性もあっただろう。しかし、呪歌自体には魔力を必要としない。そのため、録音などでも効果を発揮してしまう。
ドヴェルグに歌姫自身は来ていないはずだ。それでも持ち込まれた音源だけで戦場をかき乱す事ができてしまう。
「体内に作られた魔法陣の解析は終わりましたか?」
「それは終わってます」
「何人の被害者のデータを集めました?」
「何人?」
「呪歌は被害者自身の魔力を使うため、生成される魔法陣にも個人差が出ます」
「そ、そんな事があるのですか!?」
集団任務時に解呪用術式も一緒に配ったために治療を優先して、サンプルをあまり確保していなかったらしい。
「あの時配ったのはあの曲に特化した解呪式です。他の曲には効果がでません。根本的に対処するには、呪歌そのものへの解析が必要です」
あの時は即効性を考えて特定の曲に特化して、高い効果を発揮する解呪式を配布した。
しかし呪歌という楽曲に乗せて効果を伝搬させる形式なために、曲をアレンジするだけで生成される魔法陣に変化が出てしまう。
詩に術式としての効果を定義し、曲によって実際に描かれる魔法陣が決まる。同じ効果であっても、解呪に必要な術式が変わってしまうのだ。
「俺は帝国で解析に少し関わったので、その辺のノウハウを持っています。もちろん、具体的な情報は機密なので話せませんが、解析方法については教える事ができます」
この辺は嘘を混ぜる。研究所時代から解析してきたので、かなり詳細な情報を持っているが、傭兵がそこまで重要なデータを持ってるのは不自然だからな。
教えるのは呪歌を解きほぐすためのキーとなる詩や節に関する部分、そこが何の役目を果たしているかという解説だ。それだけでも対抗術式の開発はかなり早くなるはず。
「で、おいくらで買い取りますかね?」
人差し指と親指で輪を作りながら技官へと問いかけた。
「思ったよりも貰えたと見るべきか……」
ドヴェルグは通商連合を組んでいるので、他星系との連携もあり、単星系国家よりも予算は多いのだが、その規模は帝国と比べるべくもない。
これだけで船の修理代を稼ぐ事はできなかった。開拓船の修理はちょっとした都市計画レベルの費用だからなぁ。そもそも開拓船という存在自体が、数百人規模の村を移動させるものだし。
「付与の呪歌も売るべきだったか? でもアレは使いにくいんだよなぁ」
歌姫が帝国相手に使ってきた付与呪歌は恐怖心を抑え込み、特攻させるためのものだった。使い捨てにできる兵士に使うならまだしも、海賊討伐の為に正規軍に掛けるようなものではない。
「思考を奪うことで効果を高める感じだったから、その辺の制約を外すと効果は一気に薄まるし……」
この世界の古代魔法に属する手法にも、代償を支払うことで効果を高めるといった呪法がある。自らを傷つける事で威力を増したり、生贄を捧げて効果を高めたりといった具合に。
制約が厳しければ、それだけ受ける影響も大きくなる。戦場で防御を捨てるというのはかなりのリスクで、得られる恩恵を底上げすることができていた。
「制約を外してしまうとプラシーボレベルの恩恵に下がりそう」
聞いてると何となく調子がいいかも……的なレベルだと情報が飛び交う戦場では邪魔になるだけかもしれない。本人が自覚なく術式を発動しているだけで、魔力は使ってるし思考の一部を術式展開に利用しているはずだからな。知らず知らずに疲労させられてたというのは、戦場という極限状態では致命的だ。
「もっと平和に使ってくべきか」
精神支配して無理矢理働かせるとかだと社畜の所業だが、強制力を排除して何となく作業効率が良くなるレベルで発動するだけの術式なら役立つかもしれない。
「ちょっと術式を組んでみるか」
俺は自室に戻って呪歌の再構築を開始した。




