技術が積まれた海賊船
自発的な動きを止めた海賊船にアンカーチェーンを投げて相対距離を固定。機体を通して内部の情報をスキャンする。
「パ、パイロットのバイタル……気絶確認」
「リリア、起きてたのか。無理しなくていいぞ」
「こ、これは、私の役目、だよ」
オペレーターとして情報分析を行うのは自分の役目だと言い張るリリア。俺の術式で強制的に眠らせたものの、誘眠効果時間は3分ほどでそれ以降は起きようとすると目覚めてしまう。
全身がGに晒されてどこかを負傷していたら痛みで目が覚めてしまったのかもしれない。
「自分のバイタルチェックは?」
「だ、大丈夫、だよ。ちょっと酔った、だけ」
こちらからスキャンした感じでも目立った負傷は見当たらない。それでも海賊船を追いかけて振り回された為に目が回っているはずだ。
他人が振り回す乗り物に乗るってかなり辛いと思うのだが、リリアは責任感を持ってオペレーター業をやってくれていた。
「水の術式で、プロテクト、されてたみたい」
「水かぁ」
こちらからもコックピットのスキャンデータを読み取ると、コックピット内が液体に占められていた。Gに潰されやすい肺などを液体で満たすことで衝撃に強くなる仕組みだろうか。
どちらかというと前世の空想科学の世界な気がするが、この世界にもそういった単純ではない身体強化や保護術式が研究されているのかね。
「そんなのを海賊が使ってるってのもよく分からんが」
「ウィザードさんの解析術式によると、王国の試作品っぽい痕跡があるって」
研究所でも情報解析に特化していたウィザードは、未知の生命体を追って連絡が途絶えたが、別れ際に便利そうなツールを幾つか残してくれていた。
そのうちの1つが術式の解析プログラムの様なもので、使われている術式のタイプ、クセみたいなものを分析して、製造元を割り出せるという代物だ。
あの時点でウィザードが持っていた分析なので、過去の記録との照合しかできない。新たに作られたモノには弱いのだが、今回はベースとなった術式が王国製とかなり一致したようだ。
「試作品が回ってきたのか、海賊を使って人体実験してるのか……」
「そこまでは、分からないね」
「ま、王国の実験っぽいって事で記録は残しておこう」
海賊船に思ったよりも粘られた原因が、人体の限界を越えるGを掛けながら旋回や加減速できていたせいだ。
この技術が発展していくと、戦闘機の格闘戦で苦戦するようになるだろう。個人で身体強化できる俺やアイネはまだしも、テッドやリリアはついてこれなくなる。
「ま、この船で格闘戦ってのが無理があるな。正規軍と戦うとか、よく考えたら起こらないほうが普通だ」
「ユーゴ兄、またフラグ立てようとしてる?」
「リリアも娯楽文化が分かってきたんだなぁ」
惑星民支配のためにあえて文明レベルを下げられていたリリアの出身惑星では、生きるのに精一杯で娯楽文化などが育つ環境にはなかった。
その星から連れ出して様々な文化に触れる事で、お約束とかが分かるようになってきている。よかった、よかったとやや現実逃避してしまいそうだ。
「取り敢えず、パイロットを引っ張り出して拘束しつつ、船を曳航していきますかね」
「了解、部屋を整えとくね」
俺は船外活動用のスーツに着替え、海賊船のコックピットから気絶したパイロットを引っ張り出して拘束。軽く魔力を流して術者ではないことを確認しつつ、体外魔力を阻害する腕輪を嵌めた。
魔道具のコントロールには人体から発せられる微弱な魔力を利用しているので、これらを阻害すると部屋の照明スイッチすら反応しなくなる。
コックピットの中を見てみると、無重力状態で固まったままの液体に満たされていた。そういえばスーツの中もこの液体が循環してたのか?
軽くコックピットのコンピューターに相当する魔道具を検索してみたが、液体の制御に関するマニュアルは出てこなかった。
「うう〜む、溺れ死んだらすまんな」
肺に溜まった液体を抜かないと、肺呼吸に支障が出るだろうが解除方法がないと分からん。取り敢えずこっちの船に連れ込んでスーツを脱がせてみるしかないか。
俺はパイロットを引っ張って自分の船に戻った。
海賊船を引っ張りながらステーションへと戻る。その辺はオートパイロットでも問題ないので、パイロットの方を確認することにした。
客室の1つへと放り込み、リリアには外から監視してもらいながら俺はスーツを脱がす。
「濡れてないな」
ヘルメットを外して現れた顔は絶世の美少女……なんてことはなく、40手前っぽいおっさんだった。ドヴェルグ人の様な分かりやすい特徴はないので、どこの出身かは分からない。
ヘルメットの中もスーツの中にもコックピットを満たしていた液体は見当たらなかった。術式でコックピット内限定であの液体にプロテクトされていたということか。
「科学と魔法の違いだな」
物質に依存する前世の科学と違って、こっちの魔法は魔力に依存している。魔法が切れたら生み出されていた水や土といった物質も消えてしまうのだ。素材を加工した物なら当然残るが、攻撃魔法で出現させた土の槍や氷の塊なんかは空中に蒸発するように霧散する。
魔力が集まって物質を構成している感じらしい。まあそれら魔法で生み出した物質は、現実の物質に比べると脆いので、近代以降の武装は現実の物質を魔法で飛ばす方式が採用されてきた。
宇宙進出するようになったら距離や速度の関係で、物質弾よりも魔力そのものをぶつける魔力弾による攻撃に戻っていった訳だが。
閑話休題。
ひとまずパイロットの肺に液体が溜まってて溺れ死ぬような事にはならないようなので、手足を拘束して部屋に転がして置くことにした。
部屋の監視はセンサーに任せても大丈夫だろう。手足を魔道具に置き換えて、内蔵武器を隠してるなんて事もなさそうだ。
「外見的には海賊ってより、軍人ぽいしな」
この世界の海賊がどうなのかは分からないが、この男の体はかなり鍛えられていて軍隊式の訓練を受けている様に思われた。
規則に縛られない海賊はどちらかというと弛緩した体になるような気がする。帝国内で接触した共和圏の私掠船パイロット達は腹回りが肥大してるのもチラホラいたしな。髭面で肥満気味というのがイメージとしてある。
これはパイロット用の高カロリー食の影響もあり、きちんと鍛えないと余分な脂肪が溜まりやすかったりするのだ。
実際に体を動かさなくても、電気信号を当てて筋肉を動かすEMS的な事を、術式で行う方法もあって俺はそっちで賄っている部分もある。もちろん、アレだけだと実際に動くトレーニングにはならないので、定期的に模擬戦などで鍛える必要もあるのだが。
パイロットって見た目以上に過酷な職業だったりする。
「スーツの方にも製造元が分かりそうなタグはないな」
「ウィザードさんのツールでも反応ないね」
「尋問とかは面倒だから、ステーションの職員に任せよう」
「連絡入れとくね」
後はステーションに引き渡して終了だな。単なる哨戒ではなく、獲物を捕らえてきたのだ。傭兵ギルドの査定も上がってくれるはず。報奨に期待だな。
帰路で海賊を取り戻す為に襲われるという事もなく、無事にステーションへと帰投した。割と高性能な船だったので、期待としての価値もあるだろうが、どちらかと言えば抱えている情報の方が大事だ。
そのため報奨については後日という事になった。これで海賊の拠点でも割り出せたら、また稼ぐチャンスがやってくるはずだ。




