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とある転生者の宇宙放浪記  作者: 結城明日嘩
王国編

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198/205

開拓船の修理

 惑星ドヴェルグで一日を過ごしてリフレッシュした俺はステーションのニクルムへと会いに戻った。

 テッドはドヴェルグ上でアイネにしごかれるという話だ。俺は5倍ほどの高重力まで鍛えられたのでまだマシなはず……俺は身体強化込みだったが、その分魔力的にもしごかれたからな。

 リリアは食材の吟味に時間を費やすだろう。今日の晩御飯が楽しみだ。地球式の料理を教え、帝国の魔導調理機を使って、今までの旅程で得た料理知識を蓄えてきているリリアは俺の想像を越えてくる事もある。


 ニクルムの構えた鍛冶工房を訪れると、ドヴェルグ人らしい作業着の男達が集まっていた。下町の職人といった雰囲気で零細工場を思わせる。


「おう、兄ちゃんがあれらの持ち込み人け」


 話しかけてきたドヴェルグ人は焦げ茶の髪をした小柄だが厚みのある体をしたいかにもといった50ほどの男だ。長い髭を蓄えた姿は本物のドワーフと言われても納得するだろう。


「ええ、ひとまず格納庫を片付けたいので幾ら位で引き取って貰えそうです?」

「船体は中古の民生品で一山幾らって品ばかりだったが、生きた魔力炉や武装類は一端の品々。前の値付けの5倍くらいにはなる」

「そんなに!?」


 トルネオの奴はかなり足元を見て吹っかけていたって事かよ。


「ただ開拓船の方もちろっと見させてもらったが、かなりガタが来ててな。本来の性能を取り戻すだけでも結構掛かる」


 応急処置したメインブースターや魔力炉を含め、随所にガタが来ていて修理するよりも機構ごと入れ替えた方が安くつく部位も多いらしい。

 それらを引っくるめて修理費用と解体した海賊船がトントンだと言った……訳じゃないよな。明細に1/5の値段を書く理由にはならない。


「どっちかというと工賃だな。古い船で色々と継ぎ接ぎされとるんで既製品をそのまま使えん箇所が多い。どうしたって時間が掛かる分、費用も高くなっちまう」

「海賊船が5倍で売れても修理には足りないか」

「そこは相談って訳だが……王国が攻めてくるってのは本当なのか?」


 俺は王国が宇宙生物の被害から逃れる為に領土拡張を続けている基本姿勢を説明。

 近年の流れとして王国が帝国の公爵と手を組んで、前皇帝を弑して公爵が擁立する皇太子を玉座に据えたが、対抗勢力である第2皇子と帝国内で最大の領地を持つ侯爵家が蜂起し、国を二分する内戦に突入。

 本来なら帝国の中央部へと遷都して、王国との国境線付近の侯爵領を譲渡される予定が破綻。侯爵領に攻め入って自力で削れとでも言われただろうが、帝国最大勢力の領土を削るには多大な兵力が必要となるため断念って所だろう。


 結果として王国は帝国方面に領土を広げられずに他方面へと手を伸ばすしかなくなった。

 元々周辺国の海賊を支援して撹乱していたが、先日の集団任務では王国の輸送艦を確認。帝国方面に派遣していた部隊が回された可能性が高い事を伝えた。


「いつ本腰を上げて攻めてくるかは未確認だが、早いか遅いかの差でしかないだろうな」

「そこでだ、ニュクリュヌの旦那から聞いてると思うが、何人かの職人とその家族を開拓船で受け入れて貰えねぇか?」


 ニクルムの知人を乗せるという話は確かにあった。こちらとしては本職の職人が開拓船に来てくれるのは助かる訳だが、故郷を離れるのに抵抗はないのだろうか。


「この星の職人はステーションでの暮らしになる。いかに惑星から食料が来るとは言え、居住できる数は限られててな」


 ステーションは閉鎖環境なので使える資源リソースが限られている。空気の浄化設備を越える人口となれば皆で窒息なんて結末もなくはない。

 近くの惑星へ降りれば済む話でもあるのだが、高重力のドヴェルグは工場製品の加工には向かない惑星でもあった。

 職人を辞めて移住するよりも外へと活路を見出したい者も少なくはないらしい。


「正直、下町のこの辺に回される仕事ってのも大したもんはなくてな。鍬や鎌を作るのが嫌って訳じゃねぇんだが、船を作りてぇって奴も多いんだ」


 日用雑貨を作るよりも高級車を作るのに憧れる感じだろうか。宇宙船や魔導騎士は最新技術の塊なので、それに挑戦したいとなる職人もいるようだ。

 ドヴェルグ直営の工房ならその手の仕事にも事欠かないが、それらの工房に就職するには技術よりもコネだとか。

 最新技術を扱うには他星系からの知識を得られないとままならない面もあり、それらの情報は下町職人では触れられない為に知識量で差がついてしまう。

 その辺がエリート層との違いとして現れていた。


「ただアンタの船は古い。俺等でも十分に手を入れていける」

「まあ今更中身を総入れ替えしてハイスペックに……とは思ってないが」

「もちろん、向上心も旺盛だからな。工夫できる所はどんどん改良してやる」

「それで暴走、爆発とならないならいいが」


 人口の問題を抱えて外に出たい職人とメンテナンス要員が必要な俺達。利害が一致しているのは確かだ。ニクルムは魔剣鍛冶師として大成していた前世を持ち、多数の弟子を差配するのにも慣れている。クセのある人が多い研究所出身者の中で最も地に足をつけていたニクルムの提案なら大丈夫か。


「分かった。具体的な人数と移住に必要な物資類を選定してくれ」

「おうさ。船の整備は任せときな」


 海賊船の部品売却の費用と船内設備で手入れが必要な部分の見積もりなど、細かな打ち合わせを進めた。




「アイネ姉ちゃんは鬼や……」

「生き残り、リリアを守るのでしょう」

「訓練で死ぬ……」


 アイネのしごきでボロボロになったテッドを冷ややかに見下ろすアイネ。リリアは我関せずと濃厚なソフトクリームを堪能していた。ブラックバッファローのミルクを使ったアイスは深みのある良い味だった。


「そんな訳で約50人ほど乗員が増えます」


 10人の職人とその家族が乗船する手筈となっていた。家族の半分は未成年だが、将来は職人候補となりそうな者達だ。他星系の技術を吸収すれば、今の職人達を越える可能性も秘めている。


「傭兵団としては非戦闘員が多すぎる気がしますが」

「ドヴェルグ人は戦闘には向かないようですね」


 ドヴェルグで育った人々は強靭な肉体を持っているが、どうしても鈍重な身のこなしになっていて、反射神経に劣る面が見られる。

 肉体を使った戦闘ならまだしも、宇宙空間での戦闘は射撃戦が主で、知覚能力、反射神経に優れていないと生き残れない。

 艦内に乗り込まれた白兵戦なら頼りになるだろうが、基本的には戦わせないつもりだ。


「宇宙戦に向いた星系があれば、そこで募兵するのはありでしょう」


 それこそ王国なら宇宙生物相手に経験を積んだ戦士が多かったんだろうが、戻るつもりはない。


「ひとまず航行に関わる部分を優先して修理を行い、生活面などの改善部分は移動しながら順次進める感じで」

「農園は! 高重力仕様は!」

「あ、ああ、そこは先に設定してもらうか」


 リリアの剣幕に押されつつ、住人が増える分、食材確保施設は優先しても良いだろうと判断する。

 アイネもドヴェルグの食材は気に入った様なので反対はすまい。

 調理法はもう少し工夫が必要なので、その辺はリリアと話し合う事にする。高重力に耐える成長をしている分、どうしても硬かったり出汁の染みがイマイチと感じるのでそこを酵素に浸けて柔らかくするなり、隠し包丁を入れるなりしながら、改善を目指そう。


「航行に支障が出ない程度に修理するのに約1ヶ月。その間は小型宇宙船を使った傭兵稼業に勤しむとしましよう」


 傭兵ギルドの戦歴で交渉相手に足元を見られるのは良くないと実感した。少しでも成功した実績を重ねる方針だ。


「王国の中心にも行ってみたいですね」


 ボソリとアイネが呟いていた。

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