惑星ドヴェルグ
食事を終えた俺達は牧草地帯の見学に赴く。観光客もそれなりにいるのか、ツアーも組まれていた。
高重力惑星なのでホバーなどの浮遊機体よりも多軸車輪車が一般的に使われているらしい。サファリバスに乗って移動していく。
「広がる地平に緑の草原。空気が美味いな」
「ウルバーンとは大違いだよ」
テッドやリリアの故郷であるウルバーン星は砂漠が広がる惑星だったからな。緑化が進まない土地だった。あそこの空気は常に埃っぽく感じられた。
遠くに見えた黒い点々も徐々に近づいてきて姿が判別できるようになる。外見としては牛っぽいのだが、足はゾウの様に太い。更には六本生えていた。重力に抗う姿なのだろう。
太い首を下げて草を喰んでいる姿は牛なんだけどな。全身が黒くホルスタインみたいな柄はなく黒毛和牛にイメージとしては近い。
社内のモニターに説明が表示されている。名前はブラックバッファローなので牛の仲間と種別されているらしい。といって元々が前世の地球とは違うし、翻訳の過程でそれっぽい名前に変換されているだけだが。現地人はカンガルーとか読んでても不思議はない。
「ユーゴ兄!」
「さすがに畜産は厳しいなぁ」
リリアが期待に満ちた目で見つめてきたが、開拓船で畜産生物を飼うのは難しい。餌が莫大な量必要だろうからな。宇宙船という閉鎖空間のサイクルに組み込むと色々と無理が出てくる。
「培養肉に圧力をかけて育成してみるか……」
宇宙食はタンパク質の元となるプランクトンみたいなのから、術式で錬成して肉っぽいものにするのが基本だ。培養肉ですらレアな設備が必要となる。ホムンクルス技術の応用で肉だけを培養する形だが、それならプランクトンと大差ないと帝国では簡略化されていた。
共和圏はその辺でこだわりを見せて培養肉のプラントも用意されていたが、小型宇宙船では積む場所がなく諦めるしかなかった。
開拓船なら培養槽を置くスペースも確保できるので、置くことができるだろう。
「やっぱり噛み締めた時の旨味はプランクトンではでないからなぁ」
「ハンバーグなら一緒じゃね?」
テッドの味覚は残念な成長を遂げていた。ウルバーンでは肉自体がレア食材だったから肉というだけで満足してしまうのは仕方ない面もある。リリアはまだ幼さが残る時期に連れ出せたので味覚が成長する余地があったのだ。
「食育は大事だな」
ブラックバッファローの体長は5〜6mほどもあり、体重は5トンほどになるらしい。牛というよりゾウの方が近い気もする。
気性は大人しいがちょっとした動きでも人を弾き飛ばせるので、成体との触れ合いはできないらしい。
少し進んだ先で子牛とのふれあい広場があるらしいのでそこを楽しみにしていよう。
動物と触れ合う機会はかなり少ないからな。ステーションでは食物リソースに余分はないし、地上でもペットを飼える余裕がある地域に行かなかった。
ブラックバッファローの1日の食事量は150〜200kgらしい。それを放牧で食べさせて育て、約3年で出荷となる。成長させすぎると肉質が固くなりすぎるみたいだな。
メスの方は乳牛とするらしく、10年以上飼われるようだが、そうなると食肉にはむかないと。酵素で柔らかくしたりとか工夫できそうだが、そこまでの価値を見出していないようだ。
「メス肉なら格安で手に入るみたいだな。久々に凝った料理をしてみるか」
「何々、どんな料理?」
「煮込んで柔らかくしていって旨味を凝縮する感じだな。圧力を掛けて肉の髄から出汁を出したり」
ビーフシチューの様な調理方法を試すのもいいし、ブイヨンを作って他の料理に活かすのも手だ。
肉が硬くて食用に向かないとしても使い道を見つけるのが料理人ってな。まあ俺の前世は料理人ではなく食品加工会社の営業メインで、実際に開発する人にこんな味できるかとか、こんな食材使えるかとか注文する側だったけど。
それでもある程度の知識がないと指示できないのでそれなりに料理はしていた。
その知識が異世界で役立つとはなぁと思っているうちにふれあい広場へと到着する。
ブラックバッファローの子牛は生後3ヶ月で1mほどだった。男なら持てないこともないと案内されたが、高重力に慣れたドヴェルグ人を基準にしての事だろう。
身体強化を使えば可能だろうが、そこまでして持ち上げたいとも思わない。
テッドが挑戦していたが足一本を持ち上げるのも無理そうだった。逆に嫌がった子牛の体当たりで吹き飛んでいたな。回りが牧草なので怪我はなかった。
牧草もやはり強いというか、葉の感触が密度があって重く感じた。キャベツの芯的な硬さではなく、分厚い葉の部分の柔らかさはありつつ密度がある感じ。
少し噛んでみたがゴボウみたいな繊維の塊感のある食感だった。味は青臭いほうれん草かな?
まあ人間の食べ物ではないだろう。
そうやって牛そっちのけで牧草を調べていたら、子牛に興味を持たれたのか鼻先で突かれた。顔つきはバッファローというより和牛に近そうな気がする。バッファローは写真で見ただけなので正確ではないが、カツラのような角ではなく頭上に小さく生えている感じだ。
まだ子牛だからだろうか。でも道中みた感じでもカツラっぽさはなかったと思う。
白目はほとんど見えず黒い瞳がじっと見てくる。首筋辺りを撫でてやると目を細めてこちらに擦り付けてきた。多少、たてがみのような毛が頭頂から背中にかけて生えている。柔らかくて撫で心地は悪くなかった。
「確かに大人しいな。この星には天敵はいなかったのか?」
「長年の畜産で闘争本能が抑えられています」
ふれあい広場にいた案内ゴーレムが説明してくれた。
「野生種は角を使った力比べを行い、優れたオスが選ばれたり、外敵に対しての攻撃に使用されました」
「家猫とか野生を忘れてヘソ天で寝るようになるみたいな感じか」
ふれあい広場には牛だけでなく、鳥なんかもいた。50cmほどの小さなダチョウみたいな姿で、やはり足は太め。首も長いのだが結構太い。高重力で頭を支えるには太い首が必要だったのだろう。
羽は退化していて飛ぶことはできないらしい。その分、脚力は凄いので後ろには立たないように注意された。
この惑星では空を飛ぶ生き物はほとんどいない様だな。虫の類もほとんど飛ばないみたいだ。
他にはネズミっぽいのやモグラっぽいのとか小動物とのふれあいゾーンもあり、リリアやテッドはもちろん、アイネも無表情ながらどことなく優しい顔でモフモフに囲まれていた。
牧場を後にした俺達は、農園へと向かう。
高重力下で独自の進化を遂げた植物達は、地上部分はあまり高く伸びず横へと広がっていて、スイカなどの様に実を付けるものや、地下茎へと養分を蓄える芋系の植物がバリエーション豊かに育っていた。
また地下に果実を付ける物もあり、それらの種は先程見たモグラっぽい動物やアリっぽい虫何かが種を運んで繁殖するらしい。
そして植物全般に言えるが、重力に耐えるべく細胞壁が発達していて密度が濃い。そのために歯応えがあって、噛むほどに味が出る。
最初は肉の旨味に驚いていたが、この惑星の当たりは野菜や果物だな。これらなら開拓船の菜園でも栽培できる。
俺とリリアは農場の人に栽培法を聞きながら多くの種を購入した。
そんな感じでドヴェルグ観光を楽しんで1日を過ごしたのだった。




