思わぬ再会
「懐かしい魔力を感じると思ったら、お前かユウコ・タミューイ」
そんな声に振り向くと、1人の男が立っていた。2m近い長身に厚みのある筋骨隆々な体躯にタンクトップの様な服を纏った男だ。禿頭に日に焼けた健康的な雰囲気、貫禄を感じさせるが年齢としては20歳前後。
まともに組み合ったら一瞬で組み伏せられそうな圧がある。しかし、その表情は柔和で剣呑なものは感じさせない。
「俺はユーゴ・タマイだ。ニクルム」
「お前こそ名前を間違ってるぞ、俺はニュクリュヌだ」
「発音の違いだろ」
「発音は大事だ、ユウコ」
呂律の違いか微妙に言い間違えるというか、発音しきれない名前なのだ。ある程度で諦めるしかない。
「まあなんだ、無事で何よりだ」
「ウィザードと歌姫も無事だぞ」
「ほうそうか。ま、研究所生まれは誰もが簡単にくたばるタマじゃねぇか」
「魔力だけは高いからな」
「ユウコもちったぁ、魔法が使えるようになったみたいだな」
「アレから15年は経ってるからな」
研究所時代、前世が魔法と無縁だった俺は、術式の技量で大きく出遅れていた。その分、模擬戦では狡い手で歌姫から勝つから恨まれたんだろうが……。
ウルバーンに不時着して、アイネに基礎から叩き直されて何とか魔術師の水準を獲得できた。
ニクルムは前世が魔剣を作れる鍛冶師だった。自作の魔剣で様々な魔法を使いこなしていたらしい。その技術は今世でも遺憾無く発揮できていた。
「ニクルムはずっとドヴェルグなのか?」
「俺は隣のヴァーネに流れ着いた。ただ鍛冶をやるならこっちが良いだろうって事で、十年ほど前に移ってきた」
職人の多いドヴェルグには鍛冶師としての需要もあるらしい。魔導騎士用の魔剣を鍛えたりしてそれなりに稼いでいるようだ。
「魔導騎士用の武器か。それは魅力的だな……まあ、魔導騎士の整備も満足にできてないんだが」
新型のアイネ機はまだしも、コボルト星系で貰った魔導騎士は出力も落ちたままで性能を発揮できない状況のままだ。
武器を誂えても使いこなせないだろう。
「というより、どこかいい工房を知らないか? 海賊狩りで拿捕した船を解体したいんだが」
「海賊船の解体か、それならドヴェルグ工房でやってくれるだろうが」
「それがあんまり感触が良くなくてな」
金融部門のトルネオにかなり嫌な顔をされた話をする。
「ああ、あいつか。能力のある奴にはちゃんと対応するはずなんだがな」
「俺の傭兵ギルドの戦績がイマイチでな」
「なるほど、取れるうちに取っとけ認定されたか」
「海賊船も呪歌で止まってるのを確保しただけと思われたんだな」
「呪歌?」
「ああ、歌姫は王国にいるんだよ」
「そりゃまた……ドヴェルグもヤバいか?」
「狙われてはいるようだな」
王国の情勢、宇宙生物から逃げる為に領土を拡大しようとしており、それに歌姫セディナが関わっていると教えた。
先日、帝国との戦争が一段落したもののそちら方面には拡大できなかったので、他方向へと侵攻するだろうとの予測も伝える。
「王国の輸送艦も星系内に入ってて、呪歌も使って逃げられた」
「物資の確保か。呪歌への対策は?」
「帝国で使っていたのをドヴェルグ軍に渡したからしばらくは大丈夫だろう」
基本的に音さえ聞かなければ効果が出ない呪歌だが、骨伝導の様に船体を震わせる事で無理矢理聞かせる様な手段も無いわけじゃない。
通信に紛れ込まされると一気に広がるがそれを怖がって、通信をずっと遮断していたら連携に支障をきたすだろう。
帝国では呪歌の波長を解析して、それに類する音を遮断するフィルター術式を通信に挟む事で対応しており、それを帝国の侯爵から配給されていたのでそれを伝えた。
俺達は帝国から流れてきた傭兵なのでそこまで不審には思われないだろう。帝国軍に随伴して輸送船の護衛をしていた訳だしな……失敗扱いだけど。
「取り敢えずトルネオに煙たがられたお陰で解体できない船体を抱えていてな。それをバラしてパーツ毎に売りさばけないか考えているだが」
「どれくらいあるんだ?」
「開拓船の格納庫1杯分」
「中々の量だな。仕方ない、俺のツテで引き取らせよう。バラして売ってを自分でやらないと気がすまないって訳じゃないだろ?」
「ああ。俺達としては開拓船の修理費用を稼ぎたいだけなんだ」
自分達の乗ってきた開拓船の修理が必要だが、傭兵としての戦歴が失敗続きで借金もできず、集団任務でひと稼ぎしたつもりだったが、上手く換金できずに困っている。
その辺の事情を説明した。
「開拓船か……何人乗れるんだ?」
「数百人は乗れるはずだがな。今のクルーは俺含めて5人だ」
「スカスカだな……最悪の場合、俺の知人をまとめて運んで貰えると助かるんだが」
「船の整備もできそうか?」
「ああ、乗せてくれるなら自分の身を守る為にしっかりと整備してくれるだろうさ」
ドヴェルグがすぐに陥落するって事はないだろうが、国としての規模は王国に比べて通商連合は小さい。本格的に攻められたらそう長くもないだろう。
外への脱出手段として、開拓船なら十分に人を運べる。
「分かった。その辺は王国の出方次第だろうが、いざとなったら乗員として迎えられる準備をしておく。そのためには資金が必要だが……」
「ああ、解体も整備も任せておけ」
ニクルムとの仮契約が成立し、抱えている問題を解決できそうだ。
ステーションに停泊する小型宇宙船に戻った俺は、開拓船に残る面々と情報共有を行った。今はコランとリリア、アイネが開拓船に残っている。
『乗員が増えるかもしれないって事?』
「そうなるな。と言ってもドヴェルグが落ちる場合の話だ。すぐって訳でもないが、使ってない部屋の掃除なんかも進めといてくれ」
『分かった。その代わり、星に連れてってよ』
「ああ、そうだな。どの道、整備に時間が必要だろうし、ドヴェルグへ降りてみるか」
『やったー』
ドヴェルグは高重力ではあるが、食材は豊富だ。料理人リリアとしては見逃したくはないだろう。多くの知識を集めたいアイネも独特の生態系がありそうな惑星への降下に異論はないはず。コランは船の修理に立ち会うらしいので、結局はいつもの4人で降下する事になった。
ニクルムが手配した解体用の人員に船の場所を伝えて、その解体で得られる費用で修理の見積もりを出してもらう算段をつけた。
解体、修理が行われる時間で俺達はドヴェルグへと降り立つ。降下場へと降ろした宇宙船からタラップを使って地面へと下りる。
「大丈夫か、テッド、リリア」
「こ、これくらい、問題、ない」
「だ、大丈……夫」
1.5倍の重力にテッドとリリアはプルプルと震えている。宇宙船内は移動のしやすさなども考慮した低重力設定だからその分のギャップもあるだろう。
俺とアイネは身体強化で事なきを得ている。
工業星系に分類されるドヴェルグだが、工場はステーションに集約されているので惑星上は牧畜などが盛んに行われていた。
降下場の周辺には町ができているが、少し郊外へと出ると緑の丘が広がる景色だ。風の匂いに草の匂いを感じる。緑の丘は丈の低い牧草が覆っており、点々と黒い影があるのが現地生物なのだろうがまだ遠くて姿も確認できない。
「ひとまず飯を食いながら重力に慣れるか」
近くにあったレストランへと入った。
メニューを見ても素材の名前が独特でよく分からない。店員にオススメを聞きつつ、バラエティ豊富になるように注文した。
出てくる料理としてはそこまで違和感はない。何かの肉のステーキと何かの葉野菜がメインのサラダ。穀類を煮たリゾットのようなもの。
「味が濃いな」
「噛めば噛むほど味が出るよ!」
調味料は最低限しか使ってないと思うが、旨味が強い。シンプルな塩だけでも素材の美味さが伝わってくる。
これは高重力で育成された成果なのだろうか。
「ユーゴ兄、菜園の重力って上げられるの!?」
「魔力消費が上がるが……検討する価値はあるな」
開拓船には長期航行を行えるように船内で食料生産ができる施設がある。味気ないプランクトンを培養して、魔術具でそれっぽく固めて整えた食材なども作れるが、俺やリリアの要望でちゃんと土を敷いて種から野菜を育てている。
ただでさえ魔力の無駄遣いと言われるのだろうが、拘るならトコトンまでやるべきだろう。元々キャパシティに対して人数が少ないしな。
「許可します」
アイネにアイコンタクトしたところ、澄まし顔だが満足そうな雰囲気を出しつつ許可が出た。




