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13、習い事の思い出②(怖さレベル:低~中)

 私は小一から成人するまでの十数年間、ある習い事に通っていた。


 今回もその習い事で得た話である。


 私が高学年に上がる頃には、男子生徒も増えていた。

私と親友は一人の年下男子、T君と仲良くなりよく一緒に遊ぶようになる。


 T君は典型的な「男の子らしい男の子」で、度々何らかの主導権を握ろうと私と張り合っていた。

「お姉さんぶりたいジャイアン娘」VS「男の俺がやってやるんだい! 少年」の戦いである。

それでも毎回一緒になってつるんでいたのだから子供というのは不思議なものである。


 ある日、いつもの公民館の通路で彼が困ったようにウロウロしていた。

どうしたのかと声をかけるも、「何でもない」の一点張り。


 それでも忙しなくウロウロするT君を見て、私はしつこく「どうしたのか」と食らい付く。

ようやく諦めた──というよりは限界だったのだろう、彼は気まずそうに呟いた。


「トイレ行きたいんだけどさ」


「? 行きゃいーじゃん」


 トイレはすぐ目の前にある。

しかし彼はフルフルと首を左右に振った。


「なんか変な奴がいてヤだから、そいつが出るの待ってる」


「変な奴? 知らん人?」


「知んね。なんか怖い」


 いつも強気で勝ち気な彼が怖がるなんて、どんな不審者か。

もしやヤバい奴では、と不安になった私は、彼にどんな人か詳しく聞いてみた。


「なんか、暗い感じの白い奴。A君より(ちっ)さい」


「え、子供なん!?」

(※A君は小学二年生)


 驚きである。

年上だろうが果敢に飛びかかっていくクソガキのT君が、まさかそんな小さな子供に恐れをなすなんて──


「なんでその子が怖いん?」


「分かんないよー!」


 トイレに行けない苛々と不安感で彼は泣きそうになりながら地団駄を踏む。

可哀想になった私は、仕方ないと男子トイレに向かった。


「彩葉ちゃんどうすんの?」


「その子に言って早めに出てもらお」


「え、でもそこ男子便……」


「子供同士だからへーきへーき」


 私は内心ドキドキしながらも、「すみませーん!」と大声をかけて男子トイレの扉を開けた。


「あれ?」


 中には誰も居なかった。

しかも電気が消えていて薄暗い。

念のため個室まで覗いたのだが、掃除用具入れも含めて誰の姿も無かった。


「誰も居ないよ。電気も消えてたし」


「嘘だぁ! だって俺、そいつ居るから電気消さないで出たし、ずっとここでそいつが出るの待ってたもん!」


 嘘を言っているとは思えない。

彼はヤンチャで元気者だが、嘘つきでは無かった。


「まぁ良かったじゃん。トイレ行きなよ」


「や、やだよ! 怖いよ!」


「電気つけてるよ?」


「それでも怖いよ!」


 明るくても怖いなら仕方ない。

私は女子トイレの扉を開ける。

声をかけたが返事は無く、中には誰も入っていないようだった。


「したらこっちのトイレ使え」


「え!? やだよ、女子んじゃん!」


「子供だからへーきへーき。見張っててやっから、こっちでやりゃ()いーよ」


「うぅ~ん……」


 背に腹は代えられないと思ったのだろう。

彼は恐る恐ると女子トイレに入ると、何故か私を個室の前で待機させて用を足した。

しかも扉は数センチ開けたまま。

そんなにか。


「誰にも言うなよ!」


「言わん言わん」


 私は口が固いのだ。

実際、この話を執筆するまでの二十数年間、私は誰にも言わなかった位である。


 執筆は良いのかって?

時効だよ、時効(しかも許可とってない鬼畜仕様)

※申し訳程度のフェイクは入れてます。


 それはそうと、前回に上げた「かくれんぼに紛れ込む少年」といい、今話の「トイレの少年」といい。

この公民館には小さな少年が住み着いていたのだろうか。


「小さな男の子」という微妙な共通ワードに心がざわついたのを今でもよく覚えている。





 この習い事は毎年県外で夏合宿を行っており、私は毎回参加していた。


 中学二年の夏合宿での話である。


 小学生のように駆けずり回って自由時間を過ごす事を卒業した私は、同年代の友人と話しながら施設内を散策していた。

その施設はかなり広く、当時としてはかなり近代的な建物であった。


 レストランや喫茶店、売店、ジムや体育館なんかもあり、オフィスやら大きな会議室、スタジオも複数あったように記憶している。

私と友人の二人でエントランスホールを歩いていると、「トイレ少年事件」の時のT君がノコノコやってきた。


 彼は小学校高学年になって生意気に拍車がかかっており、曰く「女子と年下(ガキ)ばっかで遊ぶのつまんない」との事。

お前も小学生(ガキ)だろ、と突っ込みたいのはさておき。


 こうして私と友人とT君は、とりとめのない話をしながらエントランスホールをダラダラと歩く事となった。


 さてこのエントランスホールだが、かなり横幅が広い。

地元の小さな駅のホームより全然広かったと思う。


 天井は高くガラス張りで、建物の出入り口は自動ドアが三つもあった。

近くには総合受付やらサービスカウンターやらが並び、横にずーっと続く通路も、とにかく綺麗で明るい場所という印象である。

スーツを着た男性やら、ジャージを着た団体客やらが行き交っているが、それでもスカスカに空いて見える程に広かった。


「静かだねぇ」なんて話しながら、フラフラと広がって歩く。

当然、邪魔にならない範囲である。


「筋トレが辛い」「朝練がダルい」などと愚痴を溢していると、左を歩いていたT君が突然私の左腕を引っ張った。


「ぉあ!? 何」


「人」


 彼は流れるような手付きで数歩前を歩いていた友人の服(背中)を左側へ引っ張っている。

私同様に驚いた様子で振り返る友人。


「わ、すみませんっ」


「すみません……」


 更に強く腕を引かれる私。

周囲に人の姿はない。

にも関わらず、小さく会釈しながら小声で謝る二人。

二人の視線は私達の後方から前方へと同時に流れていく。


「???」


 何だこれ?

私は何を避けさせられたのか分からない。

二人が誰に謝ったのか分からない。


 言葉を失う私に、T君が呆れたように言う。


「彩葉、ボーッとしすぎ」


「え、何が?」


「もー、おじさんに睨まれちゃったじゃーん」


 小声で放つ友人の言葉に、私は首を傾げるしかない。


「え、おじさん? いた? どこ?」


「何言ってんの? 全くもー……」


 そう言って再び視線を前に向けた友人が固まった。


「あれ?」


「は……あれ!?」


 続けて上がる二人の困惑声。

話を聞いてみると、後ろから追い越していったばかりのおじさんの姿が無かったらしい。


「えー、何でぇ? この辺、曲がる所なんて無いよねぇ?」


 見晴らしの良いエントランスの通路をキョロキョロと見渡す友人。

T君は怪訝な顔をしながら私に聞いてきた。


「……彩葉はおじさん見てないん?」


「見てないねぇ」


「マジで……?」


 友人は明るく「きっと見落としたんだろう」と結論付けると、もう次の話題に移ってしまった。

切り替えが早い、早すぎる。


 これ以上おじさんトークをする事も出来ず、私とT君はモヤモヤしたままこの場は流れてしまった。


 その夜、たまたまT君と二人で話す機会があった私は、思いきっておじさんの事を聞く事にした。


「T君的には、普通に人が来て邪魔になると思ったから退こうとしたって事だよね?」


「そう。なんか後ろの方で『はぁ~』って溜め息吐かれたから、『あ、人いる』って気付いたんだよ」


 見た目は薄手のグレーのジャンパーを着た、お爺さん手前のおじさんだったらしい。

夏なのにジャンパー? と思ったが、作業着っぽかったらしいのでT君的には特に変だと思わなかったそうだ。


「彩葉の横を通って、そのまま真っ直ぐ進んでって……喋ってる隙に居なくなってた」


「喋ってる間って、ほんの数秒だったよね?」


「……うん」


 怖いよーと肩を落とす彼に「大丈夫だよ、私と違ってちゃんと謝ったんだし」などと訳の分からない励ましをしてから解散した。


 その後の話は聞いてないので何も無かったのだろうが、不思議な話であった。


 とりあえず言いたい事は一つである。


 何 故 私 だ け 見 て な い し(遺憾の意)


 余談だが、T君と友人はその二年後、交際してすぐに破局した。

溜め息通過おじさんとは何ら関係無いと思われるので悪しからず。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不思議…… 正体が気になりすね、どちらの話も……(・ω・`)
[一言] Tくんは……見える人だッ!!(※探偵風にものすご誰もが思っていることを今更のように指摘する) そして彩葉さんは…………見えない人だッ!!(※同上) 見えない人と見える人が一緒にいると、不思…
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