12、習い事の思い出①(怖さレベル:低~中)
前半は人怖(?)系、後半は不思議系の短い二本立てです。
幼少期の私はあまりにも人見知りで泣き虫だった。
あまりにも内向的過ぎると心配した両親により、私は小学校に上がって程なくしてある習い事を始めさせられる事となる。
それはステージで発表するタイプの、集団行動をする習い事だった。
しかも先生がとても厳しい。
鍛え上げられた結果として、十歳になる頃にはクラスの女ボスポジションにまでのし上がったのだから、荒療治もバカに出来ないものである。
今回はその習い事で得た怖い話をしようと思う。
◇
まず一つ目。
先に言っておくとこれは心霊系ではない。
その習い事では毎年夏合宿を行っていて、私は小二で初めて「親と離れて寝泊まりする」という経験をした。
初めてのお泊まり。
心細さは大きい。
馴れない合宿施設内を、私は11~13歳位のお姉さん方に引っ付いて回っていた。
低学年にとって高学年や中学生はかなり大人で頼もしく思えたからである。
今にして思えば相当ウザかっただろうに、お姉さん達は皆優しくしてくれた。
金魚のフンの末、私の泊まる部屋は同級生一人と、他四人は高学年のお姉さんで固められた六人部屋という割り当てとなった。
馴れないベッドにテンションが上がったのをよく覚えている。
そして迎えた初日の夜。
疲れてぐっすり眠っていた私は、何故か夜中に目覚めてしまった。
体が重い。
何だこの違和感は──
寝ぼけ眼ですぐには分からなかったが、気付いた瞬間は心臓が止まるほど驚いた。
「!? Sお姉ちゃ……」
「シッ!」
私は毛布ごとお姉さんの一人に抱き締められていたのだ。
何が起きたのか分からずに首を動かして見ると、暗がりの中、部屋の奥で息を殺すお姉さん達の気配が感じられた。
隣のベッドでは私の同級生も他のお姉さんに抱き締められているようだった。
訳が分からず上体を起こせば、「ダメッ!」と小声で止められてしまう。
しかし私は見てしまったのだ。
出入り口の前。
そこから一番近いベッドの脇にじっと佇む大きなシルエットを──
(あれは誰だろう……?)
出入り口付近のベッドを使っていたのは、今私の頭を抱き締めているお姉さんの筈である。
驚きながらもここで初めて、私はお姉さんが震えている事に気がついた。
「??」
混乱しながらも声を出してはならないのだという空気だけは察する。
(もしかしてオバケ!?)
オバケを見たい私VS見せまいとするお姉さんのささやかな攻防。
黒い人影は微動だにしない。
私はシルエットに対する恐怖心こそ無かったものの、周りの張りつめた空気に当てられ始めて身動ぎ一つ出来なくなっていった。
誰もが息を殺し、異様な緊張感が続く。
人影も何も言わない。
窓の外から夜の虫の音が微かに聞こえるのみだった。
どれ位そうしていたか──
やがて他のお姉さんが意を決して、それはもう大きな悲鳴を上げた。
そして続く鍛え上げられた全員の大声。
すぐに大人達(生徒のお母さん方)がやって来て電気がつけられる。
そして新たに響くお母さん方の悲鳴。
私達の部屋に侵入していたのは見知らぬ男性だった。
当時の私達は部屋の鍵をかける事を禁止されており(保護者が見回りをするからという理由)、誰でも出入り出来る状態であった。
あとで知った話だが、どうやらその日は同じ階に知的障がい者グループも宿泊していたという。
彼はそのグループの人で、どうやらトイレから帰る際に部屋を間違えたらしい。
宿泊している和室に戻ったつもりの彼は自分の布団が無いという事までは理解したものの、それが何故なのかまでは理解出来ず。
何をするでもなくぼんやりと立ち尽くしていたようだ。
その気配に気付いて目覚めたお姉さんが、年下の私達を身を呈して守ってくれていた……というのが一連の流れと真相であった。
馴れない真っ暗な部屋の中。
オバケや悪い人では無かったとはいえ、目覚めたら知らない男が佇んでいたなんて滅多とない体験である。
幼かった私にはピンと来なかったが、お姉さん達の恐怖心は相当のものだっただろう。
そんな状態でも年下の私と友人を庇おうとしてくれた彼女達の勇気と優しさには今でも深く感謝している。
◇
そして二つ目。
これは不思議体験談である。
稽古場として利用していた公民館での出来事だ。
その日は大ホールでの練習日であった。
練習に区切りがつき、十分間の休憩に入る。
休憩中の自由度は高かったので、皆好き勝手に遊び回るのがお約束であった。
私は低学年の友人七、八人と共に、ホール内限定のかくれんぼを始める。
いつもと代わり映えのないの面子だった。
さて、ホールで隠れられる場所は限られてくる。
大きく分けるなら「ステージ側」か、「ホール後方側にある扉の中」かの二択である。
圧倒的に人気なのはステージ側だった。
ステージ側で隠れられる所はそこそこ多い。
両脇の幕の中や、バックスクリーン代わりの幔幕の裏、ピアノや舞台袖の陰、演台の下などだ。
逆にホール後方側の隠れ場は一つだけ。
後方の壁には扉が一つあり、隠れられるのはこの扉の中のみだった。
中は人一人通れる位の狭い階段と高く積まれた椅子と長机しかない。
階段の先は音響や照明を操作する部屋で、常に施錠されていたため入室は不可能。
隠れるスペースは一切無く、二人以上入るなら階段に上るしかない程狭かった。
扉を開けられた瞬間に見つかってしまう為、「ハズレの隠れ場所」とされていた程だ。
この時の私は隠れる側だった。
ステージ側に身を潜め、そしてすぐに見つかった。
鬼の子はどうやら真っ先にステージ側を探しに来たらしく、粗方見つけると仕上げとばかりにホール後方へと向かっていく。
「あと見つけてないのはYちゃんとNちゃんだね!」
この二人は仲良しなので、あの狭い階段部屋に一緒にいるのだろう──誰もがそう思っていた。
見つかった子達も鬼に続いてホール後方の扉に近付く。
ぼんやり屋の私は一番遅れて皆の後を追った。
ガチャリ
扉を開けた鬼の子と、何人かの友人が驚きの声を上げる。
「あれっ!?」
「YちゃんNちゃん、その子誰?」
「なんで男の子がいるの?」
その言葉につられて、皆が小部屋に駆け寄る。
しかしあまりにも狭い為、ぎゅうぎゅうのすし詰め状態。
中を覗く事もままならない。
何人かの「ほんとだ、知らない子がいる」だの「誰?」だのという声が聞こえてくる。
いい加減私も中を見たいと押し入ろうとするも、タイミング悪く休憩が終わる一分前のタイマーが鳴ってしまった。
先生は時間に厳しい。
蜘蛛の子を散らすように、皆慌てて小部屋から離れた。
決められた順に並び、何事も無かったかのように稽古が再開される。
しかし皆、見知らぬ男の子が気になって仕方がない。
多くの視線が閉め忘れられた小部屋に注がれる。
当然私も小部屋を注視し続けた。
「先生、あそこに知らない男の子がいたよ」
「誰?」
何人かの友人が二人の先生に質問をする。
しかし先生の一人はバッサリと「そんな子はいません」と切り捨てた。
もう一人の先生は不思議そうに小部屋を覗きに行ったのだが、「誰もいないわよ」と扉を閉めてしまった。
そんな筈ない、絶対にいたと口々に言い出す友人達。
「彩葉ちゃんも見たよね? 階段の上にいた小さい子」と友人に言われたが、私は中を覗く事すら出来なかったので何とも言えなかった。
結局「いいから練習に集中しなさい!」と怒られてしまい、話はそこで止まってしまう。
帰り際、YちゃんとNちゃんは皆に囲まれ質問責めとなった。
二人の話を要約するとこうだ。
①二人で喋りながら隠れてた。
②いつの間にか階段の上に男の子がいたけど、気にしないで二人で喋ってた。
③皆に言われて初めて『そういやこの子、誰だろう』って気が付いた。
この話を聞いた途端、皆すっかり怖がってしまった。
もしかしたらオバケかもしれない──
そんな恐怖心からか、その日以来誰もその小部屋には入らなくなったし、男の子の話題もされる事は無かった。
残念ながら何も見なかった私は想像するしかない。
そして想像するればする程、子供心に違和感がある話だと思った。
人一人しか通れない狭い階段を、果たして普通の少年が二人に気付かれずに上る事など出来るのだろうか──
見知らぬ少年が先に居たとして、何故二人は扉を開けた時に気付かなかったのだろうか──
女子しか居ない筈の場に少年がいる時点で、二人は何故変だと思わず話し続けたのか──
何故私だけ部屋の中を覗きそびれたのか──(悔しい)
結局真相は分からないままである。




