第15話 罠
太陽の光が部屋に差し込み一人の女性に当たる。
艶のある黒髪と血のような美しい紅の瞳を持った…王妃チェリーの姿があった。チェリーの手元には、一通の手紙が握られている。彼女の表情は、形の良い唇は円を描くように上がっていた。この日は珍しく彼女の気分は高揚としていた。最近、頭が痛いことばかりであった。あの小娘…蜂蜜色の憎らしい色が目につく。シェリ家の愛娘にして、憎き第1王子の婚約者。第1王子のバックにシャリ家がついたことにより…傷一つさえ付けられなくなった。ただでさえ、それでも腹が煮えくり返りそうなのに。あの小娘…妙に嫌なところをつく。脅せば、どうにでもなると思ったのに、何処か冷静に見られるのは何だか癪に触るものがあった。
でも、これも短い間の我慢。
…じゃあね、ラキ嬢。
ふふふ、と彼女は残酷で冷徹な笑みを浮かべた。
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格闘競技場は観客たちの熱狂の渦が包んでいた。
その様子にラキは満足気に微笑んだ。
ラキはこの短い期間に類まれなる手腕を発揮した。その1つが格闘競技場である。殺し合いを廃止した当初は多くの人々から非難轟々だったが、その他の所で充実させたりすることで、今ではすっかり人気が鰻登りであった。殺し合いは廃止をしたものの、ライオンやチーターや人間同士で戦うことは辞めさせなかった。真剣を使われたところを、刃溢れがあるような切り味の悪い剣に変えた。ただ切り味の悪い剣ではなく、剣と剣が交じりあったときに火の粉が飛ぶように視覚的に楽しめるように工夫し、さらに剣先は丸るすることで刺し殺しというのはなくなった。ライオンやチーターもそうである。試合中は彼らの歯の先端に特注のゴムを付けている。それを付けていることで噛まれたところで少し傷は出来るもののかすり傷など程度である。安全対策は万全させ、ライオンやチーターなどと奴隷だった彼らは剣を取って戦っている。奴隷の解放には1つ方法がある。それは一定数の金額を収めることだ。しかし実際問題、奴隷であった彼らにその金額を収めることはかなり難しい。その金額あれば、平民の暮らしなら5年や10年は食べていけるものだ。貴族の暮らしでも3年から5年は暮らしていける膨大な金額だ。まぁ、そこは父や兄たちの力を借りて資金を集めてここにいる全員分の解放金を払い彼らを奴隷から市民権を与えることに成功させた。
しかし、それで終わりでないところがラキだ。
奴隷の解放金に企てた資金は各々の稼いだ金額や給料の割り当て数年かけて払うような仕組みを作った。ここ数十年もすれば、全員返済可能であろう。これらにより、彼らの精神的にも生活的にも自立した人生を歩めるようにしていた。ラキの狙い通り、彼らは生き生きとここで働くようになった。変な恩義を感じず、本当の意味で自由な生活を得ることができている。次に、ラキが行ったのは奴隷牢を取り潰し、彼らの寮を作り直した。家賃も無論、彼らに負担して貰う。住環境を整えたあとは、彼らが稼げる仕組みを敷いた。まずは競技場での安全面を考慮したパーフォーマンスである。ここにいる彼らは戦闘奴隷としていたので武芸が達者であるものが多かった。そのために、彼らの得意分野などで華やかになるように演出していった。パーフォーマンスの他に、BGなどの護衛をさせた。貴族位がなれば基本的に護衛として騎士団を呼べるが、平民や下流貴族は少し値段が張るので呼べないことがある。そのような層に目を付け、パーフォーマンスを見せるともに彼らの護衛を付けさせることに成功した。騎士団を呼ぶよりかは手頃であり、かつ競技場の試合風景である程度の腕が見られるという点からかなり好評であった。幼い子供たちには観客席の飲食物の販売係を付けた。貴族位たちのおもてなしをするので、自分から侍女や執事たちに頼んで、テーブルマナーや言葉遣いなどの教養を見つけさせりなどした。これにはそのような教養を見つけておくことで将来的に無駄にはならないと目的も含まれていた。これ以上は長くなるので割愛するが、革新かつ斬新なアイディアを生み出し、競技場は嘗て無い程の賑わいを見せていた。
「姉御っ!」
「あら、ラクじゃない」
微笑みながら、競技場を見ていると聞き慣れた高めの声が耳に響いた。ラクは競技場の選手で、元奴隷の1人である。今ではすっかり、ラキのことを「姉御」と行って慕ってくれる可愛がりのある弟ような存在だ。
「俺、この前ヘラクスに勝ったんすよ」
「それはよかったわね」
日傘を差しながら優雅に笑うラキを見ながら、ラクは偶に彼女がライオンを目だけいなしたのは幻覚だったのではないかと思う。まぁ、幻覚ではないのはわかっているのだが。実際に彼女がライオンとチーターの調教をしていた。彼奴ら、今でこそ礼儀正しい品性溢れる者になったが自分たちを見れば口を開いて食べようとしたり、襲い掛かろうとしていた。しかし、ラキがいざ目の前に立つと同じとは思えない程大人しくなっていた。偶に歯向かうなら、ラキが容赦なく潰していたことをラクは知っている。おつかいでラキに言伝をしようとしたときに偶然にも鉢合わせてしまったのだ。あの光景を見て以来、ラクのなかでラキは怒らせてはいけない人ランキングダントツの1位である。
それを置いても、ラクの他奴隷だった者たちはラキに感謝している。当初は改築されたり、奴隷として解放されたりなどをされて…ありがたい気持ちはあれど感謝する気にはなれなかった。奴隷の一人であったへラクスが「感謝しろってか」と鼻で笑うと、ラキは「誰がそんなことを言ったかしら?私だって聖君主になった覚えないわよ」と笑い、自分たちの解放金を支払いをしてもらう話があり、今後の生活と支払いのための稼ぎ口の提供などをしてくれた。自分たちが自分たちの足で暮らせるように図ってくれているのだ。普通にお金を渡すよりも遥かに大変であることはラクにもわかった。姉御は嫌がるから口には出さないが、ここにいる者たちはもしラキに何かしらあったら自分の命に変えても協力するつもりだ。
「あっ!そうだ!姉御、これ」
「あら」
ラクから手渡された手紙を見て、ラキは軽く目を輝かせた。見慣れた文字は友人のエルからだった。ラキは久しぶりの友人の手紙に笑みを零した。
_この1週間後、ラキの訃報がロキの耳に届いた。




