第13章 本領
サボり魔化としておりました
…己に負けずに戦います!!
暫しお付き合いくださいませっ!
「ロキ殿下、体調の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。すまない」
「いえ、あまりご無理はなさらないでください」
日傘を持っていない手でハンカチを持ち、顔色が悪く冷や汗を掻いているロキの額を軽く拭く。まさか、ここまで苦手だったとは。もはや生理的に受け付けないと言わんばかりのレベルなのではないかと思いながら、近くに控えていたリサにさっぱりしたレモン水などを頼んだり、甲斐甲斐しくロキの面倒を見ていた。
「がはは、ロキ坊はいい婚約者貰ったもんだな」
隣で豪快に笑うのはロキの大叔父、先代王の弟であるラジアンであった。ラジアンとして、ロキもヘルトも可愛い親戚の子供たちである。現王のことも幼い頃から見てきている分、性格なども熟知している。…あいつは生真面目なところがあるからな…と思いながら、隣で今もなお夫婦漫才のようにラキがロキの面倒を見ていた。ロキの真面目や堅実さは現王に似ている。
だからこそ、少し心配なところがあったのが…隣の婚約者を見て杞憂であることはわかった。長年の小競り合いなどを経験している所為か、ラジアンはラキが普通の令嬢ではないことはわかった。彼女は見た目に反して、度胸や負けん気も強かさというも持っている。他にもありそうだが…それでも玉座を支えるに相応しい資質も素養はあるとラジアンは勝手に納得した。小難しいことは考えず直感頼りのところは彼の長所だ。
「さて、すまねぇが俺はこれから用事があるからな。ロキ坊のこと、頼むな」
「はい、今日は突然お声掛けにも応えて頂きありがとうございました。」
「大叔父上、また」
ラジアンはひらひらと軽く手を振りながら後にした。彼の背中を見送ったあと、ラキの視線はロキに戻る。
「…本当に大丈夫だ。それよりも行くんだろう?」
「それはそうですけど…」
ラキは当初の目的である護衛を雇い入れるために大会終了後に奴隷たちの控え室に行く手筈になっていた。
少し黙って見つめ合っていた2人だが、ロキの絶対に曲げない!という顔にラキが先に折れた。
「…わかりました。行きましょう」
ロキの手を借りて、奴隷たちの控え室に向かった。最初は護衛目的のためにと思っていたのが…ラキのなかで本日見た大会の景色が思い浮かべられた。ライオンやチーターが出され、途中で試合放棄など許されない。自分が殺されるか、動物が死ぬか。諦めた目をした者もいた。怨念のようなものを抱えたものもいた。
前世の古傷が痛み出すようだった。私は本当に護衛を貰ってそれだけでこのことを済ませていいんだろうかという考えがずっーと先程がグルグルと回っている。
前世で似た境遇にいた。…同情しているのか。
同情で助けられる程嫌うものだって多くいる。生半可な気持ちで助けてもいい相手でもないし、それなりにこちらの覚悟を見せなければならない。それでも私は助けたいと思ってしまうのは偽善なのか。
「浮かない顔をしているな」
「それは…失礼しました」
「咎めているのではなくな…君でもそのような顔をして悩むこともあるのかと思ってしまった」
彼の中の私はどうなっているのだろ。軽く首を傾げるとその反応にロキ殿下は苦笑した。
「不快な気分させてしまっただろうか」
「いいえ、そのようなことは」
不思議に思ったが、ロキの言葉にはラキへの蔑みのような負の感情は一切なかったためか不快ではない。
「良かった。何に悩んでいるのかはわからないが、私は君が正しいと思ったことをやればいいと思う」
「…正しいですか」
「あぁ。少なくとも、私はラキ嬢に救われたからな」
「そ、それは光栄です」
思わず声が裏返る。これではとても照れていることを公言しているようなものだ。は、と思い顔を上げるとあちらはあちらで笑みを堪えているようだった。
「笑うなら笑ってください」
「ふ…す、すまない…思わず」
まだ肩が震えている。余程ツボったらしい。ちょっと恥ずかしさを交わり、怒ったような口調になってしまった。それにしても…本当によく笑顔が見れられるようになったな。心を許してくれている証なのだろう。戦友くらいにはなれているのだろうか。ラキは快晴の空を見ていく。偽善でもいいじゃないか。それで人が助けられるなら。少なくとも、目の前の人は私に救われたと言っていたし…よし。決めた。
「ロキ殿下」
「なんだラキ嬢」
「ありがとうございます」
いつも令嬢の微笑みとは少し違う垢抜けたような笑みにロキは人知れずハッとした。自分の顔に熱が集中するのがわかる。「ロキ殿下?」とラキの方でも少し首を傾げていた。「心配するな」と己の手で自分の顔を隠す。彼女を前にすると、前の自分がどのように暮らしていたのかわからなくなるときがある。人知れず顔を紅くするロキの感情など露にも知らないラキは、これからのプランを考えていた。ある程度は構想としてはできている。あとは…彼らをどう説得するか。
「リサ、一式揃えてくれる?」
「…かしこまりました」
「ラキ嬢…何をする気だ?」
「ふふ、少し能力解禁ってところです」
日傘をパタリと閉じ、ロキの方に向かって少し片目を閉じた。瞳には悪戯心が垣間見えた。
「こちらが戦闘奴隷牢となっております。」
ニヤついた嫌な笑みを浮かべ、ラキたちと隣を歩くのは奴隷商人であった。ラキは貴族御令嬢らしい笑みを貼り付け、ロキに関しては無表情であった。ラキは微笑みを貼り付けながら、奴隷商人の男を注意深く見ていた。指には無駄に輝く宝石が嵌められていたり、ネックレスなどされていた。如何にも小金持ちのような風貌である。奴隷とは高価格で取引されるといえ…この男が身につけているものは些か豪華すぎる。これはやっていると睨んだ。懸念材料の1つが思ったより、簡単になくなりそうでよかったと心の中で笑みを浮かべた。さて、次はと…牢にいる鎖で繋がれている彼らを見ていく。こちらを興味深そうに見ていくもの、怪しんでみるもの、敵のように見てくるもの…様々な視線が混じる。その視線を受けながら、令嬢の笑みを浮かべて優雅に歩いていく。殺気を飛ばしたのにも関わらず、笑みひとつで抜きる令嬢は珍しいのか、僅かばかり目を見開くものも何人か横目で確認できた。
殺気を飛ばされるなんて屁でもない。死線を幾度となく抜けきった僕には通用しない。殺意は仕留める、その一瞬だけ出しておけばいい、ようは使い方だ。殺意を上手く隠して…私はにっこりと微笑んだ。




