第八話 商売商売
結局あの後とりとめのない話をして寝てしまった。
具体的なことは何も決まってないのに。
彼は割と楽天家なのかも知れないね。
「おはよう」
「おう」
「顔を洗う前に今日の予定を決めないか?」
「どうした? 積極的だな」
お金は有限だ。
ヌタさんに今日から野宿、なんて言われるのはイヤだからね。
せめてここに泊まるか、屋根のあるところで寝たい。
「金貨はある。未だ価値はわからん。だからこれに手を付けたくはないな」
「そうだね。君に渡しておくよ。失くさないでね」
「それは設定だろうが。だが気を付ける」
「何かアイデアはある?」
働くしかないかも知れない。
僧侶という設定だから出来ることは限られるけど。
それに宗教関係に行くのは危険。
こっちは何も知らないんだから。
「そうだな。まあ無くはない。とりあえず顔を洗って飯を食おう」
「良かった。期待しているよ」
そう言って階段を下りていく。
「僧侶様、おはようございます」
「ああ、おはようございます。おかげでゆっくり休めました。ありがとうございます」
「いえいえ、私の方こそ昨夜の祝福のおかげで飛び込みのお客さんが来たのでホクホクですよ。ありがとうございました」
「それは何よりです」
祝福?
昨晩も気になったが、宗教の影響が強いのか?
うーん、嫌だな。
「店主、昨夜はワインをありがとう。これは礼だ」
「お気になさらずに。これは?」
「火つけに使える」
「火つけに? どうやって使うんです?」
食いついたようだ。
「手本を見せる。箱の中に小さい棒がある。そう。その赤い部分に火がつくんだ」
「へえ。見たことないですね」
「そうなのか? 俺たちのところでは安くはないが皆これを使っている」
「で、どうやったら火が?」
「ああ、すまん。横の色の違うところで赤い部分をこする。手早くだ。ほら」
ヌタさんが火をつけて見せる。
店主は驚いているようだ。
「ほお。これは便利ですね。かまどの火をおこすのも毎朝手間ですからね。残り火は危ないですから」
「そうか。まあ数はないのでそれだけしか差し上げられないが、気持ちとして受け取って欲しい」
「こりゃあありがたい。感謝します」
火魔法みたいなのはないようだね。
それなら?
「ご主人、昨日話した通り路銀を失くしてしまってね。あるのはこういった小物ぐらいなんだ」
「災難でしたねえ」
「まあ、それもまた巡り合わせだからね。そこでこういったものを売って路銀の足しにしたいんだが、良い売り先はないかな?」
売れてお金になるなら助かる。
「私が買いたいくらいですよ。ちなみに一つおいくらなんです?」
「ヌタ」
「そうですね。こちらと俺たちのところでは通貨が違うので正しいかわかりませんが、一つ5ぐらいですかね」
「そりゃあ安い。手間を考えれば5で時間が買えますよ」
タイパはいいね。
「どうだい、今すぐに渡せるのは9つある。まだ出せなくはないが買うかい?」
「全部はさすがに多いですね。でも僧侶様がいなくなっちまったらもう買えないと思うと……」
「まあ、またここに寄ることもあるだろう。その時はまたこちらの世話になるよ」
「それでしたら全部うちが買っちまうのは悪いんで、5つもらいます。25でいいですか?」
「ああ、よかった。良い取引だ」
よし、0.1Dで5D。五十倍だな。
「さあ、顔を洗ってくる。朝から騒がせて申し訳なかったね」
「いえいえ。こちらこそこんな良い物をありがとうございます。すぐに仕度しますね」
井戸に向かう。
「小さい商いだけど、少し目途が立ったかな?」
「すまんな。実は大箱も買ってある」
「そうなの? じゃあもう少し資金回せそうだね」
「まあ、飯を食ったらまた相談だな」
宿屋のご主人が朝飯を運んでくる。
パン二つ食べられるというのは良いな。
皆、昼は食わないのかな?
「お待たせしました。僧侶様、今日のご予定は?」
「そうだね。昨日着いたばかりだから、数日はここに滞在したいんだが、路銀を何とかしなきゃあね」
「では、一応お部屋はそのままにしておきます。料金も100で構いませんので、都合がつきましたらお声がけください」
「何から何までありがとうございます」
「朝飯をいただく。店主助かる」
「いえいえ。ごゆっくり」
朝食を見る。
「野菜のスープと何かしらの肉か」
「贅沢は言えないが、食は早めに何とかしたいね」
「同感だ」
塩と野菜のうま味、肉の脂だけという味付け。
醤油やコショウが欲しいところだね。
食事を済ませ部屋に戻る。
「で、どうする?」
「まずはマッチを売りさばこう。どこまで買えるかわからないが、とりあえず昭和屋の在庫はまだあった」
「そうか。まあ、転売になるがしょうがないかな」
「転売? 貿易と言ってくれ。日本からどこなのか、それはわからんがな」
物は言いようだね。
「小箱はまだあるの?」
「とりあえず50、いや昨日の残りを足すと54だな。見本で配ってもいいだろう」
「そうだね。大箱って?」
「小箱を追加で50買ったところで、商品が増えた。どうやらこれも使うとレベルアップするようだ」
「ふーん。よくわかんないね」
店のレベルアップって、なんだろうね。
「まあ、深く考えるな。こっちは1箱で1Dだった」
「小箱5箱分入ってるの?」
「それよりはだいぶ多いと思う。数えたわけじゃないからわからんが」
「ふーん」
「まあ、小さいよりは大きい奴の方が良いだろう。価格はひと箱で50Dでいいだろう」
五十倍設定は活かすんだ。
まあ、それなら三箱売れれば宿泊代におつりがくる。
仕入れの3Dがかかるからね。
「あとはそんなに売れるとも限らん。少し聞き込みをしよう。お前は何かあるか?」
「宗教系は避けたい。情報がないのに話を合わせるのは厳しい。ぼろがでるからね」
「わかった。まあ、今日のところは二人で見て回ろう。スマイルのレベルもあげればいい」
「了解」
よし、今日の予定が決まった。
一日歩くのはしんどいが、情報の為だからね。
我慢、我慢。




