第四話 したたか
馬車の乗客との会話を楽しみながら町へ着く。
とくに検問などもなくすんなり通れた。
「それでは皆さん、ここまでご一緒させていただきありがとうございました。御者さんも本当にありがとうございます」
「いえいえ、私たちも楽しいお話を聞かせていただき愉快に過ごせました」
「そうですよお。いつも馬車ではお尻を痛めながら早く着かないかと願うばかりでしたから」
「女性がお尻だなんて、だめですよ。でもお気持ちはわかります。少しでも皆さんの気持ちの慰めになったならよかったです」
こいつすげえな。
二時間弱。ずっと話し通しだった。
そして修行中の僧侶である設定をやりきりやがった。
「これわずかばかりですが、お納めください」
「え? いけません。説法をしたわけでもないのですから」
「聞けば路銀を失くされたとか。大金ではありませんので心苦しいのですが」
「それなら、私たちも心ばかりを……」
うは、金までもらってる。
ん? 少し笑みが見えるぞ?
もしかして?
「ではありがたく、頂戴します。皆さんの暮らしに幸せが訪れますよう、祈らせていただきますね」
「ありがとうございます」
「では、これで」
さて、馬車も乗客も見えなくなったな。
尋問タイムだ。
「鶴見様、どういうことでございましょうか?」
「ヌタさん。もう皆さんはいらっしゃいませんよ? 普通の口調でお話しくださいな」
「お前こそ、口調が直ってないぞ?」
「いけない。ふう、疲れましたね」
そりゃそうだ。二時間話すのは並大抵のことじゃない。
しかも相手の素性も、ここがどこかも、どんな宗教かもわからないのに。
「とりあえず色々話したいことはあるが、飯が食いたいな。飲み物だけでもいい。どこかへ入ろう」
「そうだね。僕もさすがに話すのは疲れたよ。休みたい」
「よし、とりあえず宿屋を探してみるか。さっきもらった金次第だが、泊まれなきゃ野宿になるからな」
「さすがに話すのは疲れたから君に任せてもいいかな?」
「お前ほどうまくはないだろうがな」
俺にはあんな真似はできない。
だが、俺も現地の人の状況を肌で掴む必要がある。
いつまで鶴見と一緒にいるかわからないからな。
「まあ、探そう。話はそれからだ」
「りょうかーい」
* * *
本当に疲れた。
とにかく情報がない。相手に先に話させる。それだけに努めた。
こちらの身分も明らかにできない。
宗教が一つとは限らないし、宗教が善とも限らないからね。
なんて考えている間に宿屋についた。
「おい、お前の持っている金を寄越せ」
盗賊でも恐喝でもない。
ヌタさんだ。先に渡しておけばよかったな。
「はい。これで全部だね」
「交渉してくる」
色んな人に声をかけて、いくつか宿屋を聞いたみたいだ。
ちゃっかり僕が僧侶である設定を使っていた。
「すまない。訳あって身分は明かせないが旅の者だ」
「いらっしゃい。僧侶様とお付きの方だね。泊まりかい? 食事だけでも大丈夫だよ」
「いや、手持ちが足りん。これが今使える分だ」
そう言って僕が渡したお金のうち、数種類のコインを店主に見せる。
なるほど、お金の価値を確認するのか。
「ふむ。112か。二人で泊まるには少しばかり足りんな」
「ここはいくらからなんだ?」
「一人部屋は80。二人部屋なら120だ。夕飯と朝飯がつく」
「ふむ。まだ出せなくはないんだが、明日以降のこともあるからな」
「なら、いいさ。おまけしてやろう。これも徳になるか?」
ここは僕の出番だろう。
「勿論ですよ。あなたのお気持ちに感謝します」
「ああ、済まなかった。もう少しだけまけさせてもらいましょう。100でどうですか?」
「そんな、いいのですか?」
「ええ、勿論ですよ。あなた様に泊まっていただけるならこんなボロい宿屋でも繁盛しそうです」
「それはあなたの心がけ次第ですが、商売繁盛は祈らせていただきますよ。本当にありがとう」
さすが籠絡スマイルAだ。
ヌタさんには通用しなかったが、現地の人にはしっかり効いている。
馬車の時もこっそり使った。
勿論、降りるときは少し強めに使ったから、寄付をいただけたわけだ。
「ヌタよ、せっかくのご好意だ。こちらにお世話になりましょう」
「はい、かしこまりました。では店主、受け取ってくれ」
「こちらこそ、ようこそ。こんな店ですがおもてなしさせてください」
「では店主、どちらの部屋か?」
「二階の右奥をお使いください。201です。カギはこれです」
本当に疲れてきた。
できれば少し寝たい。
でも喉が渇いたな。
「店主さん、申し訳ないが飲み物を部屋までお願いできないだろうか。アルコールは無用です」
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
「ヌタ、いきましょう」
「はい」
ふう。なんとかなったかな?
* * *
くそう。ピカリンめ。
俺を完全に下僕扱いしやがって。
今は勘弁してやる。
いつかぶっとばす。




