第三話 第三者
一時間ぐらいかな?
ようやく道に出た。
「道だね」
「ああ、道だ」
「で、どうする?」
「これを見ろ」
彼は道についた轍を指さす。
「タイヤ痕じゃないね。それなら北海道とかなのかな?」
「流石に木製の馬車が現役とは思えんがな」
「ということは?」
「色々考えられるが、蹄の跡もある。これが観光用でないならあまり笑えん状況だな」
色々か。
日本以外?
現在以外?
それとも地球以外?
「で、君はどう思うの?」
「いずれも確証はない。なら人に会うまで確定させるのはよろしくない気がする」
冷静な人だな。
見かけによらない。
「そうだね。別に急いで決める必要もないからね」
「それにこれを見ろ。割と新しい轍のようだ。しかも深い」
「それはどういう意味?」
「重い物をつい最近運んだんじゃないか? 人だか荷物かまではわからんが」
まあ少なくともこの道が生きていることはわかるんだね。
変な物を運んでいるんじゃなきゃいいけど。
「どちらに行くべきだと思う?」
「どうだろうな。傾斜から行くとあっちになるんだが、ここの傾斜だけで山を下っていると判断するのは危険だ」
「ふーん、そうなんだ」
「ああ、そうなんだよ」
* * *
こいつは馬鹿なのか利口なのかわからんな。
だが理解力はあるし、人の意見を消化できてはいるようだ。
判断の参考にするには良いが、相談するにはちょっと足りない。
観光用と笑えん状況、というフリも乗ってこなかった。
轍の深さもだ。
本物のおぼっちゃんなのか?
まあ、別にこいつがどこの誰でもいいだろう。
少なくとも一人で途方に暮れるよりは話相手がいるだけでもありがたい。
「まあ、ここは素直に下ってみよう」
「そうだね。だめなら戻ればいいし」
「できれば水を確保したいがな」
「道があるなら可能性もあるんじゃないかな? 水と道と人はセットじゃないの?」
必ずしもそうではないと思うが、奴なりの理屈があるんだろう。
「そうだな。じゃあ、とりあえず変態する。話せないと思うがお前は俺に乗れ。運転は俺がする」
「助かるよ」
「遠慮はいらんからな。あと、ハンドルから手を離すな。さすがにお前を支えるのは出来ないと思う」
「うん、わかった。よろしくね」
というわけで、変態する。
「変態!」
最初の時は何も言わずにバイクになれた。
だが今は変態と口にしなければいけない気がした。
だから声に出した。
少し気恥ずかしい。
さて、バイクになったはいいが、鶴見が乗らない。
何してる? 早くしてほしい。
まじまじと見てる場合じゃなかろうに。
エンジンをふかして催促する。
ようやくハンドルに手をかけた。
はよ乗れ。
道は決してよろしくはない。
こいつの事もあるから、最初は様子を見ながら進もう。
だが、バイクになるのも悪くない。
いつもは乗り手だったが、愛車はこんな気分だったのか。
なんか申し訳ない。
* * *
まじまじとバイクになった彼を見た。
不思議だ。どうして人間がバイクになるんだろう?
あと、なんで「変態」って口にしたんだろう?
最初は何も言ってなかったと思うけど。
まあいいか。
気分なのかも知れない。気にしないでおこう。
だが、彼がバイクになるというのはどういった運命のいたずらなんだろう。
本当に彼はあの時の記憶がないのかも知れない。
なら、黙っておこう。
僕の為にも。彼の為にも。
さて、初めて乗るバイクだ。
自転車すら乗った記憶がない。
エンジンの音が高くなった。
どうやら急かされているようだ。
気合を入れて乗ることにする。
「おお?」
すごいな。バイクって。
こんな風に走るんだ。
景色が流れていく。
決して速いスピードじゃない。
気を使ってくれているのだろう。
でも風が気持ちいい。
もう少しスピード出してもいいんじゃないかな?
と思ったら、馬車が遠くに見えた。
「ねえ、あれって馬車じゃないかな?」
急にスピードが落ちる。
急停止ではないが少しバランスを崩す。
ゆっくりと速度が落ち、停止する。
そして彼は人間に戻った。
* * *
「いつまで俺に乗ってる?」
「ああ、ごめんね」
「乗ったまま変態を解くと背負った形で戻るんだな」
「そうなんだね。これからは止まったらできるだけ早く降りるようにするよ」
男が男を背負う姿は尊いと思う人もいれば、特訓と思う人もいるだろう。
あ、私は一話以来の解説者です。お気遣いなく。
「頼む」
「で、どちらが声かける?」
「お前じゃないか? 見た目はいいし」
「見た目『は』? まあ、口調もおとなしいから僕の方がよさそうだね」
「任せた」
良い判断だと思いますよ。
和狸では警戒されまくりでしょうから。
「すみませーん、おーい」
馬車に向かって声をかける。
しばらくは気づかれないまま進む。
ようやく馬車の乗客が気付いたようで、御者に声をかけている。
「はあはあ、すみません。突然声をかけて」
「いや、構わんのですが。あなた方は?」
「ああ、すみません、旅の途中でして」
「どちらかのご高名な僧侶様ですか?」
鶴見の見た目が幸いしたのか、顔が良いのかわからないが、勘違いしてくれている。
「ええ。今は身分を明かせないのですが。実は随行者が路銀を失くしてしまって」
「それは災難でしたね」
「ここまでの道すがら、小袋などは見かけませんでしたか?」
「いやあどうでしょう。それっぽいものが落ちていれば気づくかと思いますので、おそらく見ていないかと」
思いっきり嘘をつく鶴見を見て和狸は驚いている。
だが、設定を思い出せ。
君は随行者。しかも小袋を落とすようなおっちょこちょいだぞ。
「そうですか。困ったなあ」
「どちらまで行かれるので?」
「最終の目的地は事情があって言えませんが、まずは近くの村か街へ出たいと思っております」
「それなら、乗って行かれますか?」
「いや、先ほどお話しした通り、私たちは路銀を失くしたばかりですので。お返しできるものがありません」
なるほど。そういう風に使うんですね。
やりますな。貴公子。
「いえいえ。二人ぐらい増えても構いませんよ。どうせ町まであと数時間です。これも喜捨と思っていただければ」
「それは、いえ、ありがたくお気持ちをいただきましょう。本当にありがとうございます」
「困ったときは助け合う、それが人間ですからね」
嘘に誠実を返される。
嘘はよくないですね。
でもラッキーですな。




