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鶴見と和狸  作者: きじとら
第1章 目指せ楽隠居
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第三十六話 村人A


「わあ、かわいい」


 リョウが自分の性別の設定も忘れて、女の子全開にしてる。

 いや、確かに赤子は可愛いんだが。

 

「リョウちゃんかわいいねえ。私もいつかお母さんになるのかなあ」


 JKカスミは相手もいないのに気が早いと思うぞ?

 

「ツルミ様、これで村人は全員です」

「そうですか。随分若い方が多いですね」

「ええ、彼らの親たちはまだ街に残っていますからね」


 どういうことだ?

 親は街に残り、若い家族は外に逃げて来た?

 口減らしにしても、次代を担う若者がいなきゃ、農を継いでいけんだろう。

 それに働き手が減れば、税だって納められまい?

 

「ワタヌキさん、不思議に思うとりますな?」

「ああ、まあそうだな。理屈には合わん。なぜ若い家族が主なんだ?」

「元々はわたしらは別の集落で暮らしていました」

「それで?」

「その集落の水が枯れ、税が納められなくなったのです」


 それにしたって、よっぽど悪徳領主じゃなきゃ、支援なり猶予なりありそうなもんだ。

 

「これまでもギリギリで生活していましたからな。いっその事街で暮らそうとなったのですが……」

「仕事もなくあぶれたというのか?」

「その通りです。ただ、彼らの親は今更開拓はできないと言いましてな。若い者だけを寄越したのです」

「まあ、わからなくはないが」


 スッキリしないんだよな。

 まあ、嘘と決めつける根拠もないんだが。

 

「ただ、若い者は体力はあっても経験がない。それで私をはじめ、何人かの年寄りが一緒に来ました。ですが、私たちも一度開拓に失敗した身です」

「ここでもうまいこといってないのか」

「お恥ずかしながら」


 わからんなあ。

 悪い奴らには見えないんだが、何か隠してる気がするんだよ。

 

「お話はわかりました。そうなると、このままを続けても皆さんはあまり良い方向には進まないように思いますが?」

「正直なところ、私も学があるほうじゃないので、開拓のすべてはわかりません」

「長老は元々何を?」

「私はただの農民です」


 ほれ、ここだ。

 本当の農民は、自分のことを「ただの」とはつけないだろう?

 それともこっちの世界の謙遜なのか?

 

「わかりました。今日のところは顔合わせということで、私たちが食事をふるまいましょう」

「よいのですか?」

「道中狩った肉が、乾燥肉にするかどうするかギリギリのところでしたのでね。それでしたら皆さんと一緒に食べて親睦を深めましょう」


 大丈夫か? 鶴見?

 

「こちらで用意しますので、皆さんはいつも通りで」

「いやあ申し訳ない。お手伝いできることがあれば声をかけてください」

「そうですね。ああ、そうだ。集落の中を見させていただいても?」

「ええ、もちろんです。薪などは好きにお使いください」

「助かります」


 まずはこっちで会議した方がいいな。

 


 * * *

 

「カスミとリョウで肉料理の用意をしてくれないかい?」

「それはいいけど、何人前ぐらい作るの?」

「三十人分ぐらいでいいんじゃないかな? あちらは二十、こっちは六人。多少多めに作っておこう」

「わかった。カマドが足りないけど?」

「そこは僕が手伝うよ」


 残りの三人については……

 

「太郎、君は村人の前では話さないようにね」

「ワフ、わかってる」

「サスケさんは、集落を散策するついでに色々見てきて欲しい」

「何を見ればいい?」

「元の職の勘に任せるよ」


 リョウの父親やサスケさんは、猟師でも御者でもないと踏んだ。

 おそらく、軍人か兵、それも諜報関係なんだろうと思う。

 この時代の諜報だから、スパイみたいな活躍は期待できないだろうけど。

 

「ツルミは何でもお見通しってわけか。わかった」

「俺は?」

「狩りをしてきて。なんでもいい、獲物がなくてもいい」

「尾行を確認すればいいんだな?」

「さすがだね。農民かどうか、暴いていこう」


 ヌタさんも怪しんでいたが、長老の話は何かが足りない。

 嘘をついているようには見えないが、大事なものが抜け落ちている。

 

 まあ、話す気になれば話すだろうし、こちらが邪魔だと思えば、そのうち行動を起こすだろう。

 

「王子はやつらが農民じゃないと判断したんだな?」

「決め手がない。だけど農業従事者には見えない。それにしては支援されているようにも見えない」

「ふむ。予想としては?」

「まあ、若い兵士、それも妻帯者限定、秘密を知っている者、街にいたら消される人、なのかな?」

「それってなんだ?」

「まあ、領主とは違う反乱分子の一員だった。彼らはあまり関係ないのかもしれないけどね」


 他に考えつかない。

 謎解きものじゃないから、べつに解けなくても問題ないし。

 

「というわけで、戦える太郎は料理班の護衛、サスケさん、ヌタさんは単独で調査と動いたら捕まえる方向で」

「わかった。目立たないようにやるさ」

「俺はどうすっかな。まあ、適当に狩ってくるよ。獲物が人じゃないといいけどな」


 動くならそんなに時間をおかない筈だ。

 忙しくなるかもしれないね。

 

 * * *

 

「森を一人で歩くのは寂しいよな。青年」

「……」


 どうしてわかったんだろう。

 出来るだけ離れて後をつけてたはず。

 

 今はあの男が休憩していたから、近づいて始末してしまおうと思った。

 だが気づかれた。

 

「長老は優しそうに見えたけど、さすが老兵は食えないな」

「兵士長はいい人だよ。俺があんたを尾行したのは俺の勝手な判断だ」


 せっかくここまで逃げて来た。

 だと言うのに、怪しい集団が訪れた。

 

 坊主を連れているのはよくわからないが、御者もこの男もかなりの手練れ。

 俺たちを始末しにきたんだろう。

 

「領主の命令か?」

「領主? お前たちがどこから来たのかも知らないのに?」

「しらばっくれるな。追手がこないのはおかしいと思っていたんだ。親父たちがきっと話したんだろう」

「なるほど。まったく言ってることがかみ合ってないな」


 とぼけてるのか?

 いや、ここで騙されてはならない。

 生まれたばかりのあの子のためにも、こいつをここで倒す。

 

「俺の予想を話す。俺の攻撃が届かないと思うところで聞け」

「お前の予想? いいだろう言ってみろ」


 最後の言葉ぐらい聞いてやるのは正しい行いだ。

 

「お前たちは軍か警備隊か何かの兵隊だな?」

「答える必要を感じない」

「そして、お前たちの代表者か何かが領主だか代官に歯向かおうとした」

「……」

「だが、事前か事後に発覚し、代表者は捕まったか逃げたかした」

「俺たちが逃がしたんだ」

「そうか。で、お前たちが次に捕まりそうになった。そこで逃げ出してきた」

「逃げて来たわけじゃない。撤退だ」

「撤退ね。所帯を持ってるやつだけが、長老に率いられてここにたどり着いた」


 逃げてきたわけじゃないんだ。

 領主の目をくらますために、いくつかの集団にわかれたんだ。

 

「単身の奴らは別方向へまとまって逃げた。他にもいくつかあるのか知らんが、とにかくお前たちはここにたどり着き暮らし始めた。毎日怯えながらな」

「言いたいことはそれだけか?」

「もう少し聞く?」

「最後だから、聞いてやる」


「俺たちは、領主の手先でも、お前たちの追手でもない。何故なら、お前たちがどこの誰かも知らないし、お前たちをどうこうしようと思ってないからな」

「嘘はいくらでもつけるもんだ」

「お前が信じないのは勝手だが、信じられるようにしてやるよ。チェンジ」


 その男が最後に何かを言った途端、俺の目の前に化け物があらわれた。

 

「お前のところの領主はこんな化け物を操れるのか?」

「お、お前はさっきの男か?」

「そうだ。お前を殺そうと思えば一瞬だぞ? だがしない。何故なら俺はお前の敵じゃないからな。チェンジ」


 再び、化け物は男に戻る。

 俺は一体何を見せられたんだ?

 

「俺が変身、さっきの化け物になれば、二十人の兵隊なんぞ一瞬で倒せる。わざわざ一晩待つ必要もない」

「そう、なのか」

「ああ、気になるならこの後の狩りについてこい。俺の強さがわかる」

「俺はお前を殺すつもりだった」


「そうなんだろうな」

「そんな奴を連れていくのか?」

「だって、お前弱いじゃん。俺より」

「……そうだな」


 俺とワタヌキは狩りをして帰ることになった。

 

 俺は荷物持ちをさせられた。

 

 

 

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