第三十三話 やっとご飯(初歩)
「すごいすごい! タロウがたくさんいるみたいだ!」
「ワフ! これが分身!」
みたいだ、じゃなくて実際いるんだけどね。
「もういいか?」
「もう一回見たいけど、疲れる?」
「疲れはしないが、めんどい」
「ちぇっ。じゃあさ、シェフ?ってのを見せて?」
シェフか。
お金と材料が必要なんだが……
「和狸、お金と材料をくれ。先にお金だけでもいい」
「いくらだよ?」
「わかんない」
料理なんてぼくが知るわけないじゃないか。
犬が入れる料理屋さんなんて、セレブの店だよ。
「うーん。まあ、小金貨ぐらい渡してみるか。一万円だからな」
「ありがとう。じゃあ、シェフ出て来て」
「はい。モウコン王様、およびですか?」
「もうぼくはその名前じゃないよ。太郎って呼んでね」
「かしこまりました。太郎様」
一度だけ説明のために出て来てくれた人だ。
その時とはぼくの名前は変わったからね。
「おや、お客様が大勢いらっしゃいますね。知ってましたけど」
「うん、仲間だよ。あとお金もある。これで何が作れる?」
「以前にもお話しした通り、材料がないと何も作れませんよ?」
「和狸ー、何がある?」
「あー、カスミ」
「そうだね、鹿だか牛みたいなやつの肉、タマネギっぽい何か、あとは乾燥野菜とかだね」
タマネギ、ぼくは食べられないからね。
「シェフ、何かいける?」
「それだけですと……ハンバーグぐらいですね。太郎様の分はもちろんタマネギ抜きで」
「人数分作れる?」
「材料さえあれば」
「お金は足りる?」
「まあ、今回はサービスしましょう。おや、それはお米では?」
お米があるの?
「あ、うん。こっちの米みたいだけど、ウチたちではうまく炊けなかった」
「少し見せていただいても?」
そういって、カスミからお米を受け取る。
「なるほど、これは普通に炊いても美味しくなりませんね。炊き方はお教えしますので、やってみてはいかがですか?」
「ウチが料理番って決まってるわけじゃないけど、皆で一緒になら……」
「もちろん、皆さんにお教えしますよ」
ぼくはお米なんて研げないけどね。
毛だらけになっちゃうから。
「では、まずは皆さんでお米の用意をしましょう。代表でカスミ様にお願いしますね」
和狸に聞いた通り、この人も天使か堕天使なんだろうね。
そして事情もだいぶわかってる。
だからカスミを名指ししたんだ。
「いいけど……」
カスミは嫌々ながらも教わっていく。
リョウをはじめとした、料理苦手組はその手際を覚えようと必死だ。
「で、あとは火にかけます。その後については状況ごとに説明しますが、ここまでくれば大体大丈夫ですよ」
「ふーん、わりと簡単なんだね。ウチが知ってるのと大して違わないね」
「これは水の量と、少しの調味料を入れれば少しはマシになりますからね」
「そうなんだ。でももうあの美味しいご飯は食べられないのかな」
カスミが少し悲しそうな顔をしてる。
「そうですね。少なくともこれでは近い味にしかなりません。ですが原種が近いものもこの世界にはあるので、いつかきっと手に入れられるのでは?」
「そっか。まあ楽しみにしとく」
「では、ハンバーグですね。太郎様、前金となります」
「はい、これでいい?」
和狸からもらった小金貨、一万円だっけ?を渡す。
六人で一万円か。
ぼくにはその価値はわからない。
「頂戴しますね。本来ですと単品でも二千円、こちらの通貨で銀貨二枚になります」
ハンバーグ、別に食べたくはないんだけどな。
「ねえ、シェフ。ドッグフードは作れない?」
「勿論作れますよ。一袋銀貨二枚です」
「作れるの? ならお願いしたい! ねえ和狸、お小遣い頂戴~」
「うーん。肉ばかりでも栄養が偏るもんな。いいだろう。小金貨一枚分頼め」
やったぜ!
「よかったですね。では、味を色々用意しましょう。お肉と小麦だけご用意ください。味付けは私の手持ちからサービス分として出しますので」
「シェフ、ありがとう!」
「私ではなく、和狸様へお礼を」
「俺でもないさ。皆の金だ」
「みんなありがとう!」
よかった。
皆いい人だ。
* * *
「これが、料理なのか……」
「今まで食べていたのは何だったの?」
現地人の二人が驚いている。
そりゃあそうだよね。
肉は煮るか焼く、塩などにつけて乾燥させるぐらいだ。
ミンチにして、野菜をまぜて、焼き上げるなんて凝ったことする人なんていないだろう。
「わかってもらえたかい?」
二人とも大きく頷いている。
一方の地球人三人組は無言で食べている。
ご飯を多めに炊いておいてよかった。
僕もなくならないうちに食べなきゃね。
「あんたらが、料理、料理と言うから、どれだけのものかと思っていたが……」
「くやしいけど、お母さんの料理よりもおいしい……」
「お母さんの料理よりもおいしいはウチも共感するよ」
シェフ。
あなどれないね。
「というわけでね、こういった美味しいものを僕たちは普通に食べていたんだ」
「そりゃあ、こっちの飯では満足できないだろうな」
「こんなのが毎日? ほんとうに?」
「毎日こんな贅沢はできないけど、それなりには毎食食べていたよ」
ああ、シェフにパンの作り方も習えばよかった。
お金かかるけど、また太郎に頼もう。
「太郎、お前を仲間にして良かったよ。俺とお前は親友だからな」
「ぼくはハンバーグよりもドッグフードの方が楽しみだけどね」
話がかみ合ってないのはご愛敬だ。
「シェフさん、すごいな。ウチも勉強しないとな」
一人は何か使命に燃えてるし。
「僕は食べられればそれで満足だよ。でも良かった。リョウにもサスケさんにも僕たちの悩みを押し付けられたからね」
「え?」
「もうこの味を知ったら、普通の食事は苦痛になってくるからね。頑張ろうね」
ふふふ。
性格悪いかな?
「明日の朝はこれまで通り、スープとパン。それと乾燥肉だからね」
全員がショックを受けている。
自分で言っておきながら、僕にもダメージが入っているのは内緒だ。
* * *
さて、物語のはじめとして、だいぶ役者が揃った感じだな。
攻撃力と通販でいいのかな? まあ、近距離と限定品だけだな。俺は。
鶴見はどうなんだろうな。スマイルなんて使い勝手が良い気もするが、エアガンは微妙だしな。
まあ回復役だろうな。
カスミは中距離攻撃と運送屋だな。ポシェットはまずかろう。
商人や代官に目をつけられたらたちどころに使い潰される未来しか見えない。
太郎はマスコットポジションと思いきや、一番重要な「食」を抑えていやがった。
あなどれん。
だが、材料がなきゃ始まらんからな。ここからは買い付けだけじゃなくて、自分達で農業や酪農を営むのを視野にいれんといかんかなあ。
リョウはまさかの女子枠だ。
子どもだから、数年はマスコット枠でいいだろう。
サスケさんは鍛冶ができるって言ってたな。
それに、リョウに伝授することがあるという話だ。
おそらくリョウの親父さんも本来は狩人などではないんだろうな。
うーん。今はいいか。
あ、馬たちもいるな。
まったく会話に参加しないが、レッドとバロンという名だ。
太郎が通訳してくれんと話が伝わらんが、ようやくこれで全員と意思の疎通がとれた。
「ヌタさんは何考えてるの?」
「いや、ずいぶん賑やかになったもんだなって」
「そうだね。二人で森の中で目覚めた時に比べれば、騒がしいくらいだよね」
「まあ、楽しいからいいじゃねえか」
お前はいまいち何を考えているかわからんのだけどな。
まあ、悪い奴じゃなかろう。
「それだけじゃないでしょ?」
「まあな。俺たちの目標である『食』も何とかなりそうだからな」
「そうだね。シェフ様様だね」
「だが、金もかかるし材料も必要だ」
「うんうん」
「それなら、どっかに腰を落ち着けて、農家をやってもいいかと思ってな」
そのためには所有者がいない土地を探さなきゃならん。
都合よくあるかね?
「場所もかなり厳選しないとね」
「ああ、それにまだ地球から来た奴がいるかも知れない。もしいるなら放ってはおけまい?」
「さすがだね。僕もそれは思ってた」
「いずれにしても、人手が足りんのは間違いない」
「リスクはあるけど、サスケさんみたいに現地の人を巻き込むしかないか」
トラブルはごめんだけどな。
だけど、そんな話をすると、大体そうなるんだよ。
物語的にはな。




