第三十一話 うわさ話
「というわけで、努力すれば報われますのでね。多分」
「なんで多分をつけるかね?」
「天使は知りませんが、堕天使は怠惰なんですよ。あ、彼は激情ですけどね」
「そうだぞ。波乱万丈が人生における最高のパートナーだ」
「文章が成立していませんね」
不思議だね。
色んな事があった。
死んだはずなのに、知らない世界へ来た。
ヌタさんに会った。
リョウやカスミ、サスケさんと旅に出た。
ほとんどあてのない旅。
だというのに、今度は天使が登場する。
「単純な疑問なんだけどさ、天使がいるってことは悪魔もいるのか?」
「いますね。まあこの世界で何をしているかわかりませんけどね」
「じゃあ魔王とかも?」
「魔王? それは魔物の王? 魔族の王? そんなのはいないでしょう」
「俺たちに何をさせたいんだ?」
「何もしなくていいんじゃないですか? せっかくもらった命ですからね、せいぜい楽しめばいいですよ」
言ってることと事実が異なっている気がする。
これはジョブのささやきなのか?
「単純な疑問。どうして言葉が通じるの? ウチの口の動きとリョウちゃんの口の動きは違うよね?」
「まあ、その辺はいいじゃないですか。私がやってることじゃないし。神の領分には口を出さない。それが天使(堕天使)の務めです」
今度は正しいことを言っている。
怪しいなあ。
「あまり話してもつまらないでしょう? なのでこの辺にしましょう」
「聞きたいことはまだあるが、仕方ないな」
「あ、ねえねえ、この辺に地球から来た人はいないの?」
カスミが良い点に気が付いてくれた。
「そうですね。教えない方がいいかなあ。でもなあ」
「勿体ぶるなよ」
「わかりました。街の人の話をよく聞いてみてください。ちなみにこの街の中にはいませんよ」
「じゃあ、いるんだね?」
「その辺は自分達で調べてくださいね」
今度はどんな人なんだろうね。
うまく助けられるといいな。
「では、今後お会いすることも少ないでしょうが、それぞれのスキルと仲良くしてやってくださいね」
「色々ありがとうございます」
「いえいえ、では」
そういって、三人?は消えていった。
「よくわからんが、そんな感じだ」
「まあ、頑張ればなんとかなるってことかな?」
「微妙に違う気もするけどね。それよりも聞き込みに行こうよ!」
そうだね。
困っているなら助けてあげなくちゃね。
* * *
「どこからの情報なんだ?」
言えねえなあ。
天使なんて。
「加護のお告げみたいなもんだと思ってくれ」
「そんな事聞いた試しがないが……」
「すまんな。そのうち話せる時がくると思う」
「まあ、仕方ない。俺もできるだけ聞き込みをするが、何を聞けばいい」
そうだよな。
大人なのか、子どもなのか、女なのか、男なのか。
大事なヒントは残さなかったな、あいつ。
「なんの手がかりもないんだ」
「それじゃあ探しようがないじゃないか」
「おっしゃる通り。申し訳ない」
「いや、別に責めてるわけじゃないんだが……」
変わったことがないか、そこから聞いていくしかあるまい。
手分けするかあ。
「というわけで、サスケさん単独、王子とリョウ、カスミと俺で手分けしよう」
「その分け方に意味は?」
「サスケさんは馬車も見なきゃならんし、御者仲間のつながりもあるだろ? 俺たちが入る隙がない」
「なるほど」
「王子とリョウは、トラブル回避だな。カスミと組んでまた同じ状況は避けたい」
「もうしません」
「ウチだってトラブルはごめんだからね。鶴見さんと組んだとしても逃げるようにするよ?」
「信用できません。だからリョウに見張ってもらいます」
別にどっちでもいいんだがな。
リョウは王子の方が好きそうだしな。
「消去法で、お前と俺だ」
「消去法ってのがアレだけど、まあ理解はする」
「で、三組にそれぞれ軍資金を渡す。好きに使っていいぞ」
「俺もいいのか?」
「ああ、酒の席じゃなきゃ聞けない話もあるだろ?」
「そうだな。酒の席は大事だな。うん。そうだな。大事だな」
随分酒にこだわるな。
さては大酒飲みか?
要注意としておこう。
「リョウに渡すからな。王子に無駄遣いさせるなよ。お前の買いたいものを買え」
「そういうわけには……」
「いいんだ。たまにはわがままを言え」
「甘い物を食べようよ。リョウ好きだろう?」
満面の笑み。
そうかリョウは甘い物が好きか。
食わせてやりたいな。
「お前は金貨一枚返し終わるまではタダ働きな」
「そ、そんな……」
「うそだよ。女なんだから必要なものもあるだろ? リョウの分とあわせて用意してやってくれ」
「わかった。和狸が一人じゃ行けないような店に、ウチが案内してあげるよ」
勘弁してください。
女の買い物は付き合いきれん。
「というわけで、一応二日を目安に聞き込みだ」
「りょうかい!」
* * *
聞き込みは芳しくなかった。
他の二組も空振りに終わったようだ。
だが、御者仲間から少し気になる話を聞いた。
「街道沿いに魔物?」
「魔物とは言ってない。獣が出たと言っていたな。それも一人や二人じゃない」
白と灰色の大きな獣を見たと言う。
「ヌタさんみたいに変身してるのかな?」
「どうだろう。ジョブが被ってるのか?」
「毛深い人じゃないの?」
「白とか灰色って老人じゃないのかな?」
皆が好き勝手に言う。
「まあ、昭和屋の口ぶりからすると、おそらくそれが本命なんだろう」
「そうだね。他にめぼしい話もなかったからね」
「じゃあ、予定通り、明日出発でいいか? 馬屋に伝えなきゃならんからな。馬たちのエサの都合もある」
「うん、そうだね。少し多めに積んでいこう」
次の街までだいぶある。
大きな川も越えなきゃならん。
川沿いの街での補給は高くつくからな。
「わかった。カスミのポシェット?にもエサを入れていけるか?」
「大丈夫だと思うよ。馬たちも大事だもんね。和狸一緒に馬屋さんまでついてきて」
「わかった。じゃあ、リョウも王子も宿で留守番な」
「はーい」
リョウは随分素直になったな。
それともワタヌキに気を許してるのか。
二親を失くしたあいつには保護者が必要だが、俺よりもワタヌキの方がいいのかも知れんな……
「じゃあ、サスケさん行こう」
「ああ。そうだ。御者仲間に釘と金槌を売りたい。そっちも頼む」
「商売、商売」
これでだいぶ儲けられる。
街ごとにこれを繰り返すだけで、下手な商人の数十倍稼げるんだ。
阿漕なことさえしなきゃあ、安泰だろう。
* * *
腹が減った。
水場は確保した。
食事は乏しい。
肉ばかりになってしまった。
あの頃の食事が懐かしい。
食っちゃ寝していた頃に戻りたい。
王のような生活。
たまに街の人々を見守るだけの生活。
戻りたい。




