第三十話 旅の途中
一週間経った。
これまで二つの集落に立ち寄り、少しの塩を分けてもらった。
お返しに、よく切れる包丁、金槌、釘を安く譲った。
道具屋などない集落。
大工専門の人もいない。
簡単な造作をするのにも、金槌と釘は重宝するだろう。
反面、俺たちが通った痕跡になっちまってるけどな。
「次か、その次あたりで本格的に補充したいところだな」
「そうですね。馬車も整備したい。馬たちにもまとまった休みを上げたいところだ」
そんな話をしていると、ツルリンが、
「僕ら三人は結局手伝いしか出来てないね」
「そうですね……」
「ウチもパチンコの練習と水タンク代わりだね」
なんて言っている。
「立派じゃねえか。ここまで最初の野盗以外は野生動物だけだ」
「その動物だって、結局ワタヌキが倒してるじゃん」
リョウの口もだいぶ軽くなったな。
「いいんだよ。お前たちはこれから伸びる。王子の毛は伸びないかも知れないがな」
サスケさんが噴き出している。
割と気さくなんだよな。この人。
「ボクだって役に立ちたいよ」
「わかってる。だが先は長い。焦る必要はない」
「ウチもレベルを上げたいんだけどね」
「接待プレイでもするか? そういや俺が一撃で倒しちまってるからな。リョウはあれだが、王子もカスミも経験値上げした方がいいか」
そういうやり方を認めてくれるならな。
このシステムを考えた誰かが。
ああ、昭和屋の主人はあれからは出てきていない。
売り買いもそんなにしてないしな。
「動物のことを考えると、一気に仕留めちゃった方がいい気がするけど……」
「まあな。なら、焦らずやろうぜ」
「そうだね。ウチはパチンコ経由とは言え、魔法が使えるからね」
「お前がいるから重たい水を積まずに済むんだ。助かってるんだぞ」
あまり言うと、現地人のサスケさん、リョウが可哀そうだからな。
特にリョウは少しいじけて見える。
「リョウはサスケさんにお父さんの技を伝授されるんだろ?」
「うん」
「だったら、それまではしっかり体を作れ。今はそれでいいんだ。最後に笑うのはお前だよ」
「なんだよ最後に笑うって。でも体づくりしないといけないのはわかってる」
ようやく旅の一行として、まとまりが出来てきたかね。
* * *
「もうすぐ着くぞ。皆起きておいてくれ」
「ふう。久々の街か」
「お尻が痛いよ」
カスミにはクッションを作ってあげたいところだが、旅の最初以降、ポンドはほとんど獲れなかった。
リョウもだいぶ疲れているね。
「宿を探さないといけないけど、馬車があるからね」
「街にいる間、俺は馬屋で寝泊まりする。じゃないとすべての荷物を全部降ろさなきゃならないからな」
「そうか。さすがにこの人数で馬屋さんにはお邪魔できないか」
「そうだな。設備も貧相だし、子ども達が泊るようなところじゃない」
「まあ、ご飯だけでも皆で食べよう。それでいい? サスケさん」
「もちろん。馬屋以外の飯なんて、滅多にいかないからな」
「馬車の整備、馬屋の料金、それと少ないけどここまでの給金を渡すから、うまいこと使ってもらえるとうれしい」
「わかった。で、どれくらいこの街に留まる?」
「整備はどれくらいかかりそう?」
あまり長居するのもね。
ただ、情報は欲しい。
「二日もあれば終わる。馬もそれぐらいあれば十分休めるだろう」
「うん、じゃあ一応何もなければ三日後には出発しよう」
「そうだな。一旦馬屋まで一緒に来てくれ。そこで別れよう」
「了解」
* * *
「悪くない宿だね」
「十分すごいよ。カスミは贅沢だよ?」
この旅を通じてリョウちゃんと仲良くなれたのはうれしい。
女の子だし、妹欲しかったし。
「そうかなあ。中学の時の修学旅行でさえもう少しまともな部屋だったからなあ」
「チューガクってあれでしょ? 教会の学び舎みたいなやつ」
「うん、まあそんな感じ」
「ボクは学び舎に行ってないからなあ。よくわかんないよ」
義務教育と宗教施設の勉強の場所ではだいぶ違うと思うけどね。
「そんなにいいもんじゃないのよ? ただ、足し算や引き算は大事だね」
「少しはできるけど……商人になるわけじゃないから、真面目にやらなかったよ」
「割り算はアレだけど、それ以外は教えてあげられるから、馬車で暇な時に少しずつやろうよ」
「教えてくれるの?」
「もちろん!」
「やったぜ!」
素直ないい子だよね。
私はお姉ちゃんから見たら捻くれた妹だったんだろうな。
「仲良し姉妹は見ていてほほえましくなるね。ヌタさん」
「そうだな。二人とも応援したくなる」
おっさん二人は何か違う方向へ進んでるし。
「ウチらはいいの。この街では何か目的があるの?」
「うーん、足がつくから昭和屋の商売は控える。金もまだ余裕あるからな」
「そうだね。無理に目立つ必要もないね」
「じゃあ、ただのんびりするだけ?」
時間の無駄なような気がするけど。
大人には大人の考えがあるのかな。
「いや、昭和屋がらみで試したいことがある」
「試したい?」
「ああ、サスケさんにはあまり聞かせられない。リョウは誰にも言わないだろうから信じてる。なので出来るだけ外出せずにその確認をしたい」
「ボクには教えてもらえるの?」
秘密を知ることができてうれしそうにしている。
かわいいなあ。
「リョウに今更隠してもな。それに子どもとは言え貴重なこの世界の住人だ。意見も聞きたいからな」
大人扱いされたわけじゃないのに、期待されるのがうれしいんだね。
和狸に信頼されるのが嬉しいのかな?
「わかることなら教えられるから! 任せて!」
「おう、頼むぞ」
そう言って和狸もリョウちゃんの頭を強くなでる。
いいなあ。
「で、確認したいのは?」
「おう、そうだった。昭和屋の主人が出た話は少ししたよな」
「うん、堕天使なんだっけ? そしてまた神様に捕まったって」
「そうだ。そこから判断したことを共有して、確認したい」
なんだろう。
「おい、昭和屋、出て来てくれ」
「うん?」
「なるほど、皆さんお悩みなんですね」
知らないおっさんが湧いて出た!
「あ、こいつが昭和屋の主人、堕天使だ。本来は俺にしか見えないらしい」
「皆さんお初におめにかかります。昭和屋の主人です。名前は失礼させてくださいね。ちなみに皆さんにも見えるようにできますが、面倒なのでね」
「これはご丁寧に」
「うさんくさいなあ」
じろりと睨まれた。
ちょっと怖い。
「色々混乱しているようなので、説明にあがりました」
「助かる。俺の推測じゃあ答えにならないからな」
「でしょうね。でも大体あってますよ」
「そうか。なら良かった」
ちっとも良くないんだけど。
わからないし。
「ジョブの方はこちらの世界の『加護』です。色々できます。ですので頑張って伸ばしていってください」
「頑張ってとは言うが、どうすればレベルアップできるんだ?」
「レベリングもOKですよ? まあ加護の影響に近い内容を繰り返すのが伸びやすいのですが、一番は害悪を取り除くことですかね?」
「というと、僕の場合は誰かを救ったり、治療したり、善行を行えばよいのですか?」
「ピカリンさんはそうですね」
ピカリン?
和狸が心の中でそう呼んでるのか?
「ウチは? パチンコって何さ」
「スリングショットです。人や環境に害となるものをスリングショットを使って取り除けば伸びるんじゃないですかね?」
「ずいぶん曖昧だなあ」
「その辺は私の管轄じゃないので」
まあ、害獣や野盗を倒せばいいのか?
いやだなあ。
「あのお、ボクに加護はないですか?」
「ん? 君は? ああ、なるほど。今はないです。ですが、なりたいものがあれば加護は生えてくることもあります。なので頑張ってください」
「ほんとに? やった!」
リョウちゃんも加護がつくなら強くなれるね。
「それでスキルの方ですが、これは地球から来たあなた方限定です」
「三人と指定しないのは、他にいるからですか?」
「そうですね。何人かまでは知りませんが」
他にもいるんだね。
大丈夫かな、その人たち。
「そしてスキルの正体についてですが、あなた方、姿を現しなさい」
鶴見さんと私の背後に人が現れる。
どうして私の背後に人がいるってわかったか?
私の方の人は、私におぶさっているから。
「かれらは天使、もしくは元堕天使です」
「はじめまして」
「私は天使ですよ」
よかった私の方は天使だった。
ということは鶴見さんの方は……
「俺は元堕天使だ。お前たち、供物を差し出せ」
「地獄に堕ちたいのですか? 枷だけでは足りませんか?」
「いや、十分だ。ではたまにうまいものをくれ」
鶴見さんが暴発したのは、こいつが原因じゃないかな?
きっとそうだ。




