第二十九話 おめでとうございます
「ヌタさん、起きて」
「ん? 交代か。ちょっとだけ待て」
「うん」
「オーケー。起きた」
馬車に寄りかかって寝ていた。
サスケさんと王子が交代したのもなんとなくわかったが寝入ってしまったようだ。
「大丈夫? ちゃんと横になった方がいいんじゃない?」
「問題ない。さあ時間の無駄だ。お前は馬車に入って寝ろ」
「いや、さすがに女子二人の中にはね」
「気にしなくてもいいと思うけどな」
「僕もここを借りるよ。ヌタさんの温もりが残ってるし」
「お前、ちょっとキモいぞ。それ」
合理的ではあるが、一応言っておく。
「じゃあ、頼んだよ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
さて、火を少しだけ強めるか。
少し体が冷えてるようだ。
野営一日目だがやることは決まっている。
昭和屋だ。
これはこの先俺たちの生命線になり得る。
というか、醤油が欲しい。
この世界にないなら、作るか、昭和屋しかないからな。
俺には作れんし、ハゲビンにもカスミにもおそらく無理だ。
そんなことを考えながら昭和屋のリストを見ていく。
「特に変わりはないか。となると鋳つぶせる釘かなあ」
ツルリンが起きない程度の声を出す。
「こんばんは」
「ん? お前誰だ? いつの間にそこにいる?」
「私ですか? 私は昭和屋の主人です」
「主人?」
善人とも悪人とも見えない。
まあ、無害な親父さんだな。
「いつもご利用いただきありがとうございます」
「なんでまた現れたんだ? あんたってスキルとか魔法みたいなもんじゃないのか?」
「ああ、なるほど。その辺もご存じないのですね」
「ご存知も菩提寺もないな。知ってるなら教えてくれないか?」
こういう時は素直に尋ねるのが一番だ。
「ええ、構いませんよ」
「お、ダメ元だったんだがラッキー」
「多少声を大きくしても大丈夫ですが、あまり大きいと皆さん起きてしまいますからね」
「起きるとダメなのか?」
「ええ、私はあなた専用のスキルですからね」
専用のスキルねえ。
「スキルと会話するってのもおかしな話だな」
「まあ、後付けのスキルなので、本来のスキルは変態とか獣化です。それ以外が独自スキルですね」
「なるほど? ということは、ハゲ王子は貴公子が本来のスキルで、エアガンが独自スキルなのか?」
「その方のスキルを見てないのでわかりませんが、見えてるのが本来のスキル、見えなくても使えるのが独自のスキルと思ってもらえればいいと思いますよ」
何か違いがあるのかねえ?
よくわからんが。
「まあ、いいさ。で、説明してくれるんだな?」
「ええ、何から説明しましょうか?」
「できれば最初から。どうして俺たちがこの世界に来たか。俺たちは何をするべきなのか。この世界はそもそも何なのか」
「随分と知りたがりですねえ」
そりゃあそうだろう。
いきなり放りだされたんだ。
俺と王子はまだしもカスミは女の子で一人きりだぞ?
理由もないなんて言われたあいつが可哀そうだ。
「私の知る限りでよろしければお話ししましょう」
「頼む」
「では、僭越ながら。私は独自スキルですが、元は堕天使です」
「堕天使? 天使じゃなく?」
「まあ、その辺はいいでしょう」
「悪いことして、神に捕まって怒られてる最中か?」
「まあ、そんなようなもんです」
やめてくれよ。
神なんて信じない。
そして信じたいとも思わない。
「神様を信じないタイプですか?」
「当然だ」
「そうですか。まあ私たちが勝手に神と呼んでいるだけですから何でもいいんですけどね」
「神じゃなきゃなんなんだ?」
管理者とか責任者か?
代表者?
「ちょっと待ってくださいね。ああ、やっぱり神で」
「なんだよ。つまんねえな」
「ですが全知でも全能でもありません。ただ、場を用意した方ですね」
「ふーん、イメージとは違うが、そんなもんか」
「ええ、そんなもんです」
「で、説明は?」
「まあそう慌てずに。神は場を用意して出来るだけ場が崩れないようにしています」
「ふーん」
「ですが、地球において、場が崩れかけました」
「へえ」
「そこで、原因となる因子を取り除いて、こちらの世界に移しました」
「ほお」
「それが、あなたであり、ハゲさんであり、JKです。まだいますけどね」
え?
まだいるの?
「そのうち会うでしょう。生きていればね」
「いや、俺はあの時死んだんじゃないのか?」
「まあ、死ぬ直前だったんでしょうね」
「死んでないのか?」
「流石にそこまではわかりません」
役に立たねえな。
「まあいい。んじゃ、俺たち三人以外にもまだいると。運が良ければ会うこともある、ということだな」
「大体そんな感じです」
適当だなあ。
「で、俺たちはどうすればいい? 何か使命みたいのがあるのは出来るだけ避けたいが?」
「そんなものはありません」
「そうか。ないなら気楽でいいな」
「ありませんが、この世界はこの世界であなた達みたいな人が集まってできてますからね」
「俺たちみたいな?」
「まあ、時代背景も年代も違いますし、来た時期もまったく違いますから、さすがに独自の文明が起こってますけどね」
なんとなく合点がいったよ。
いろんな人種、もしかしたら人間以外もいるのかも知れないが、それらが混ざり合ったのが、この世界の人なんだな。
「じゃあ、言葉が通じるのも、何かしらの恩恵みたいなもんか」
「まあ、転移ボーナスみたいなもんです」
「ボーナスか。そりゃあ助かったね」
嫌味に聞こえたなら嬉しいが。
「というわけで、あなた方は生きたいように生きてください。魔王も勇者もいませんから」
「あっそう。ちなみに魔物とかは?」
「魔物ねえ。体内に魔石を持つとか、魔法を出すような動物はいないと思いますよ」
「そうか、魔石無双とかもないんだな」
「逆にそんなの見たことあります? 地球で」
でも、スキルはどうなんだ?
エアガンもパチンコも魔法だろ?
「王子とカスミの能力に魔法っぽいのがあるが?」
「ああ、それはこちらの世界の人と同じ加護みたいなもんです。独自のですけどね」
「おかしいだろ? それだと俺はあんたが加護になるが?」
「そうですね。加護は加護です」
加護なら俺を守ってくれよ。
「守ってるでしょ? 昭和屋なんて名前はついてますが、どこの世界に自分の中に通販を持ってますか?」
「お前心が読めるのか?」
「あなたの中にいますからね。少しはわかりますよ」
そりゃあそうか。
わからないと変なものを買わされちゃうもんな。
「まあいいや。んじゃあとは何だっけな」
「お醤油ですか?」
「買えるの?」
「買えないですね。ですが私の伝手でたまにならお譲りしますよ」
「マジか。是非頼む」
「いいでしょう。まあ一定額使ったとか、レベルがあがったタイミングぐらいにしてくださいね」
「ないよりはマシだ」
「それとまだ聞きたいことがあるんだが、お前さんは今後も登場するのかい?」
「私ですか? 実は転移した最初の方でも出てたんですけどね」
「まったくわからんかったぞ?」
「いいんです。というわけで、機会があれば登場することもあるでしょう。あなたの加護ですし」
「そうか、なら慌てて聞くこともないな」
「いいんですか? あなた達が転移したあとどうなったかとか、帰れるのか、とか聞かなくても?」
「うまくいったんだろ? それに帰れないんだろ?」
「そうですね。うまくいきましたし、皆さんは帰れません」
「な、聞くだけ無駄だから聞かなかったんだ」
聞きたくなかった、が正解だな。
「じゃあ、まあこれからよろしく頼むわ」
「かしこまりました。ちなみに今後のラインナップで希望があれば聞いておきますよ?」
「そうだな。リョウたちに旨いもんを食わせてやりたい。醤油は鉄板としてその辺に使えるものも頼むわ」
「現代地球の品は高くつきますよ?」
そうか。手持ちが少ないもんな。
「んじゃまあ、戦後ぐらいで衛生管理が割と整ったぐらいの品でもいい」
「わかりました。おまけでカップ麺とか乾麺も用意しますかね」
「話がわかるじゃないか」
「ええ、食事はモチベーションの源ですからね。それに私、あなたの加護ですから」
「なおさら手放せないな。せいぜい稼いでおくわ」
「はい、無理しない程度に頑張ってくださいね」
鶴見も喜ぶだろうな。
サスケさんはびっくりかな?
まずは稼ごう。
「あ、そうだ。最後に一つだけ」
「なんでしょう?」
「こっちの地図って手に入らないか?」
「地図ですか……売り物としてはないですが」
そう言ったと思ったら、俺の目の前に紙が落ちてきた。
「今書きました。ざっくりとですが、大体の方角と距離はわかるようにしています」
「助かる!」
「ですが、それ、あなたにしか見えないですからね?」
「え?」
「スキルの一つです、スキル名『簡易地図』です」
くそ、しょぼいなあ。
まあ、ないよりはマシだ。
「うん、まあこれでさまよわなくてすむ。それにこのマークってもしかして」
「ええ、あなた方を中心とした地図になります。カーナビみたいなもんですね」
使えそうで難しいな。
まあ、ありがたく頂戴しておこう。
* * *
私は堕天使「解説者」。
解説しすぎてネタバレをすることで神の怒りをかった。
だが、堕ちてからも口が災いして、再び神の不興を買い、枷付きとなった。
枷付きとは常に神の監視を受ける存在だ。
元々が神のナンバー2であったが、だいぶ能力は制限された。
特に悪事は働いていないのだが……
このワタヌキという男を助けるのが今の役目だという。
まあ、神が望むなら期待に応えよう。
神に歯向かう存在として。
神を倒せるぐらいには強くして差し上げたい。
どうせすべて神の手の平の上だとしてもね。




