第二十八話 飯こそすべて
さて、今日の野営はここらしい。
あまり使われていない。
そりゃそうだ。元々脇道扱いなんだからな。
「羽の剥き方はこうだよ。軽くあぶると楽なんだ」
「へえ。うまいもんだ。ほれ、カスミも手伝え」
「嫌だよ……」
「そうは言っても、この羽根は使えるかも知れんぞ?」
「使える?」
「羽毛クッションぐらいは作れるかも知れん。量が全然足らんし、何度も洗わないと虫がわくだろうけどな」
カスミが「虫」という言葉に反応して嫌な顔をしている。
しかたあるまい。ここには虫よけなんて便利なものはない。
「まあ、今すぐ捌けとは言わんが、お前も飯を食いたいだろ? だったら戴く命のありがたさを覚えておけ」
「うん、それはわかってる」
JKには辛いだろうけどな。
北海道の学生からしたら「何いってんだ?」って言われるぞ。
「どうする? 三匹とも今日食べるの?」
「五人とは言え流石に多すぎるだろう。明日の朝にも少し回そう」
「ヌタさん。朝はスープにしたら? 鳥団子のスープ」
「お、いいね。調味料が少ないが、やってみるか。カスミ出番だぞ」
三匹とも捌いて肉の塊にする。
骨がついているところは出汁にしよう。
少しは味も出るだろう。
「やっと触れる形になった」
「少しずつでいいからな。慣れていこう」
「うん」
「じゃあ、ウチは明日用の仕込みしておくよ。団子は明日作った方がいいよね?」
どうなんだろうな。
傷む可能性があるから。塊にして葉か何かにくるんでおくか。
下味ぐらいつけとけばいいだろう。
「塩と香辛料が少しある。うまく使ってくれ。使い過ぎるなよ」
「わかった」
「鶴見はパンを温めてくれ、炙るぐらいでいいからな。後は米を炊いてみるか」
「ご飯かあ、割と適当でもできそうな気がする。そんな動画を見た記憶がある」
「まあ、パサパサとか焦がすぐらいなら、お粥でもいいからな。手首が浸るぐらい?って調理実習で習った記憶はあるが」
「ふふふ。君が僕に任せたんだ。責任もって食べてね」
リョウは米を美味しくないものと言っていた。
おそらくサスケさんも食わない可能性が高い。
食うなら日本人三人だな。
「俺は肉を見なきゃならんからな。任せるよ。三人で食えばなんとかなるだろ」
というわけで、調理タイムだ。
サスケさんは馬たちの世話を終えて戻ってきた。
「湯を飲ませてもらった。普通の湯よりうまい気がする」
「だろ? カスミが出した『カスミ水』を沸かしたからな」
「やめてよ、そんな言い方するの。セクハラだよ」
「セクハラなのか? まあ、あまりいい気分じゃないか。悪いな」
とじゃれつつも、もっとうまい飯のことを考える。
せっかく鳥が三羽もいるんだから、コンソメぐらい作りたいが……
どうやって作るのかさっぱりわからん。
しばらくは骨を煮だしてスープだな。
* * *
今日は忙しかった。
ほとんど寝る暇もなく街を出て、野盗を倒して。
鳥を捕まえて。
野盗は何もできなかったけど、鳥は一羽仕留められた。
血が出ないようにと思って、雷を打ち出したんだけど、リョウちゃん、いやリョウはそんなの気にせず捌くし……
でも、これがこっちの現実なんだよね。
今までが誰かに甘えすぎてたんだろうな。
最後の役目は明日の朝の鳥団子の作り方を思い出すこと。
高校の実習でやったスープを思い出す。
肉も野菜も明日の朝から用意すればいい。
包丁は和狸が出してくれた。
家にあるやつより立派だった。
手を切らないようにしよう。
肉に下味をつける。
あとはリョウに教わった、包葉でくるんでおく。
防腐の袋に入れておけば大丈夫だって言ってた。
でも味は染みるのかな。
そんなことを考えているうちにご飯が炊けたみたい。
「さて、用意は出来た。箸もないが、スプーンで食え。パンは一人二個までな」
和狸が食事を仕切ってる。
「それじゃあ食べよう」
心の中で、いただきますと、お母さん今までありがとう、と言う。
「水が多かったな」
「そうだね。でも食べられなくはない」
「甘くはないね。あっちの米とは違う品種なのかな?」
「まあ、くえりゃあいい。パンよりはこっちの方が口に馴染む」
二人とも饒舌だ。
よっぽど米が恋しかったんだね。
ウチはパン食が多かったし、パスタとかピザとか小麦系が主食だったからなあ。
でも、しっかりご飯も食べる。
「確かにおいしくはないね。でもご飯だね」
「そうだな。ご飯だな」
「うん。もっとうまい米を作りたいな」
美味しいお米を作るのも悪くないよね。
* * *
「うーん、前に食べた米よりは食べられるけど……」
「俺も米は得意じゃないな。体力が落ちている時に食うもんだからな」
サスケさんも同じ感想なんだね。
「これがお二人が食べたかったものなのですか?」
「うーんだいぶ違うが、米には違いないな」
「そうだね。もっと甘みがあって、お米一粒一粒がたってる。それにつやつやしてるんだよ」
ちょっと想像がつかない。
でも、文句をいいながらも食べてるんだから、懐かしい味なんだろうな。
「お米は割とありますからね。二人? カスミも食べるの?」
「ウチはそんなにお米が食べたいとは思わないけど、やっぱりたまには食べたいね」
カスミも食べるんだ。
「じゃあ、三人で食べてくださいね」
「わかった。そのうちうまいと言わせてみせるからな」
「楽しみにしてるよ。ワタヌキ」
どうやらワタヌキも新しい目標ができたみたいだね。
「でもこのポンドの肉は美味しいね」
「たしかに。街でも贅沢品だが、野営でこんなに恵まれた食事ができるとはな」
「塩と香辛料だけなんだけどね」
お母さんのご飯も美味しかったけど、ポンドの肉はそれと同じぐらい美味しい。
「せめて醤油がありゃあなあ」
「ショーユ?」
「ああ、俺たちの国の調味液だ」
「そりゃあ気になるな」
サスケさんもポンドの肉に感動したのか、いつもより口数が多い。
あ、ボクが一番話さないかも知れないな。
「醤油とみりんのたれは絶品なんだ。だが、その調味液を作るには大量に塩がいる。時間もかかる」
「塩か。塩は貴重だからな。積み荷にもあまりない」
「俺たちの方で少しは用意できたが、どこかで調達しなきゃならんだろうな。塩は必須だからな」
「そうだな。塩と水さえありゃあ、人間何日かは持つ。緊急時にはそこらへんのものでもミネラルはとれるかも知れないが、五人分を賄うのは無理だな。動物たちの塩の穴場にでもあたりゃあいいが」
お父さんも森で迷ったら慌てずに、水と塩だけは確保しろって言ってたな。
基本的なことだったんだ。
「まあ、早々あるもんじゃない。サスケさんはともかく、俺たちは迷っても動かないことが大事だ」
「そうなのかい?」
「ああ、王子は耳がいいから俺たちの声が聞こえるなら動いてもいいが、俺を含めて三人は動かない方がよいな」
「そうだな。ワタヌキさんなら野生の勘が働きそうだがな」
「変身してりゃあ多少はいいのかも知れんが」
ご飯がおいしいからか、会話も楽しくなる。
なんか久しぶりだな。
「さて、明日以降なんだけどね」
「そうだな、サスケさん。この脇道を抜けると本来の道に出るのか?」
「だいぶ遠回りだけどな。さらに小道もあるにはある。そっちは別の集落につながってる」
「今は距離を稼いだ方がいいよね?」
「俺はその方がいいと思うな」
「俺も馬のことを考えると、あまり疲れさせずに動いた方がいいと思う」
難しい話だなあ。
ボクじゃなんの役にも立たない。
「とりあえずは、湿地帯へ向かおう。たださっきの話にも出た塩のこともあるし、物資もある」
「そうだな。補給できればいいが、小さな集落では譲ってはくれんぞ」
「そっか。じゃあ、森を探索しながらかね」
「ここいらはある程度人の手が入ってる。だから探索するなら、集落よりも先、湿地帯との間だな」
その辺はボクは行ったこともない。
お父さんにもっと聞いておけばよかったな。
「まあ、当面は食事も大丈夫なんだから、のんびりいこうよ」
「そうだな」
「カスミ、明日の朝は少し早起きしないとな」
「そうだね。仕込みするからね」
「見張りの順番だが、最初はサスケさんでいいか?」
「もちろんだ。やることも残ってるからな」
ボクも手伝いたいけど……
「リョウもカスミもちゃんと寝るんだぞ」
やっぱり。
「わかりました。でもいつか見張りも教えてね」
「ああ、そうだな。しばらくはサスケさん、王子様、俺でやりくりしよう」
「そうだね。僕は中番がいい。朝は少しでも寝たいからね」
「それなら、四等分して後半二人分を俺がやる」
「ワタヌキさんは大丈夫なのか?」
「俺は問題ない。なので、昼間寝させてもらうからな」
ワタヌキはすごいな。
「まあ、少しずつ慣れていこう。なんか問題があっても一人で抱えるなよ」
「ウチは問題ないけどな」
「ボクも大丈夫」
「いや、お前たちが一番大変なんだ。体力的にもな」
「心配ないよ」
ボクが女の子だってバレちゃったからな。
気を使ってくれてるのかな。
「とにかく遠慮すんな。お前たちの両親にはなれんが、親戚のおじさんぐらいに頼っていい」
「それ、微妙じゃない?」
「親戚のおじさんがよくわからないよ」
親戚なんていなかったし。
でも、ワタヌキも勿論ツルミ様も優しいからな。
二人に会えてよかった。
「まあ、それも含めてのんびりやるぞ」
「ヌタさんがリーダーでいいんじゃないかな?」
「いや、俺はリーダーには向かん。リーダーは王子様がふさわしい」
「僕は何もできないよ?」
「今はいいんだ。そのうちお前の出番がくるさ」
ほら、ツルミ様にも優しく接してる。
「ウチはもうお腹いっぱいだ」
「そうだね。残った分は明日の朝に回そう」
「俺もこれ以上食べると眠くなるからな。馬たちの世話の残りをやらなきゃならん」
「ボク、片づけやるよ」
「二人でやろう。ウチもやるから」
カスミも気にしてくれてるのかな。
結局皆優しいんだ。
良い人たちでよかった。




