↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鶴見と和狸  作者: きじとら
第1章 目指せ楽隠居
27/33

第二十七話 旅立ちの日


「兵士長には感謝しないとな」

「そうだね。門番もいなかったね」


 もしかしたら隠れて見張っていたのかも知れないが、止められることなく出発できた。

 

「できるだけ離れたら休憩しよう」

「わかった。揺れはするが休んでいてくれ。俺は休憩の時に寝る」


 サスケさんがいてくれてよかった。

 

 さて、馬車の中には、僕とヌタさん、リョウとカスミの四人。

 リョウとカスミはさすがに疲れているので、休ませる。

 

 カスミのポシェットの確認が終わらなかったので、とりあえずすべて荷物は出しておくことにした。

 おかげで馬車はギュウギュウだ。

 

 距離を稼ぐまではポシェットの方がよかったかな。

 馬の負担も大きいもんね。

 

「さて、リョウとカスミは横になっていなさい。ちくちくするかもしれないが飼い葉をベッドにするといい」

「うん。わかった。お休み」

「眠かったら寝ます、大丈夫です」


 さて、ヌタさんを見る。

 だいぶお疲れだね。

 

「ヌタさんも寝ていいからね」

「そうだな、交替で休もう。だが、まだ起きてる。少しだけ方向性を決めておこう」

「行き先のこと?」

「ああ。サスケ氏とは話をした。このまま進むとリョウの街だ。そこに用はない」


 そりゃあそうだ。

 そしてその先の山の方?にも用はない。

 

「方角的には西か東のどちらかなんだが、どちらも大した違いはないそうだ」

「そっか。ヌタさんはどっちがいいと思うの?」

「この先をしばらく行くと脇道があり、東西の道へつながるらしい」

「サスケさん情報?」

「そうだ。俺的には米のことがある。湿地の方がいい気がする。素人考えだけどな」

「でも建物をたてたり、生活をするには不便じゃないのかな?」


 僕だって素人考えだけどね。

 

「樹上生活でもよかろう。ターザン二人と野生児二匹が育つぞ」

「そりゃあいいね。僕は別に反対しないし、そこが永住地じゃないんでしょ?」

「勿論だ。まずは情報を集めたい。だが、リョウの居たところじゃ得る物はなかった」

「うん、詳しく調べたわけじゃないけど、ちょっとアレじゃあねえ」


 かと言って、それ以上のものがあると個人では太刀打ちできないんだよね。

 ヌタさんなら切り抜けられるかも知れないけど。

 

「まあ、食事の改善をしながら、少しの間だけ旅を続けよう」

「うん、そうだね。まずはご飯をなんとかしよう」


「まあ、買い込んだ食料では明らかに何も作れないからな」

「そうだね。僕も見た。牛乳などがない分、本当にあっさりした塩味だけになりそうだね」

「もう少し野菜が買えればよかったんだがな。かなり高かった」

「季節なのか、足元を見られたのか」


 後者なんだろうね。

 よそ者だし。

 

「まずは動物性たんぱく質をなんとかしよう。お前の鼻にかかってるぞ」

「僕がいいのは耳だよ?」

「耳鼻科って言うぐらいだ。同じだろ」

「鼻は別に良くないと思うけどね。まあ、獲物になりそうなのがいたら声かけるよ」

「頼んだ」


 なんて話をしていると馬車のスピードが落ちてきた。

 

「賊のようだが、どうする?」

「逃げられる?」

「無理だな。ここで待つか突っ込むかだ」

「俺がやる。ゆっくり進め」

「わかった」


 そう言って、ヌタさんは変身していった。

 頼もしいね。

 

 * * *

 

 五人の盗賊だった。

 他にもいるかも知れんが、遠くで逃げ出したかな?

 

「早いね。それに手口が鮮やかだ」

「手口って言うなよ」

「ちょっとこいつらの持ち物を物色する」


 碌な物をもっちゃいない。

 そりゃあそうか。

 元が村人なのか、生まれつきの盗賊(そんなのいるか?)なのかはわからんが、豊かだったら人の物は盗むまい。

 

 小銭と武器、あとはほとんどゴミだ。

 

「こいつらも襲ってこなきゃ死なずにすんだのにな」

「ワタヌキ、首はどうする?」

「いらん。次の街だか村で引き取ってもらうまでに腐りそうだ」

「わかった。カスミ、森の中に放棄するから手伝って」

「いやだよ! 触りたくない」


 死体なんて見たことないだろう。

 これから嫌でも見ることが増えるだろうけどな。

 

「カスミはいい。お前は穢れに触れるな」

「ごめん」

「違う。お前だけは日本人でいろって意味だ」

「……」


 わかってもらえたのかな?

 わからんだろうな。まだ子どもだ。

 いいんだ。

 

「着てるものはどうする?」

「それもいい。死んでまで辱めを受けさせる必要もない」

「ふーん。わかった」


 リョウもこっちの常識から少しずつ変えていかないとな。

 あ、サスケ氏がいるか。

 厳しいかな? 思いっきり現地人だもんな。

 

 サスケ氏か。

 どこまで話すべきかな。

 リョウと一緒にいることを考えれば早めに話して協力者にしてしまった方がいい。

 

「この先で休憩しよう。馬たちに水をやりたい」

「わかった」


 まあ、ぼちぼち話していくかね。

 

 * * *

 

「水はいらんと言われたが……」

「結構大変なんだよ? これ」


 カスミという子どもが桶に水を出している。

 変だと思うかも知れないが、見たままを表すとそうなるんだ。

 

「お、なんか一回の量が増えてるな。レベルアップしたか?」

「うん、なんかレベル2になった。でも疲れる。まだ足りない?」

「サスケさんどうだい?」

「あ、ああ、そうだな。今はそれぐらいでいい」


 桶二杯分、大した時間はかからなかった。

 どういうことだ?

 

「カスミ、ついでにそこに組んだ薪に火をつけてくれ」

「ウチは便利道具じゃないからね? マッチあるでしょ?」

「レベルを上げないとな。ほれ、頑張れ」

「ちくしょう」


 今度は火だ。

 奇術ではないと思う。

 

 あの小さな体に、これだけの水を仕舞えないだろう。

 それに火は理屈が合わない。

 

 いや、確かにワタヌキのマッチを使えばできなくはないが……

 

「それは一体どういう仕組みなんだ?」

「あーそうだな。サスケさんとも長い付き合いになるだろうからな。説明しておくか」


 そう言って聞かされた内容は信じられないものだった。

 

 ワタヌキもカスミも、そしてツルミさんも別の国から来た。

 その者たちは加護を持つという。

 

 水を出すのも火をつけるのも何となくわかる。

 だが、ワタヌキの変身には驚かされた。

 確かに賊を相手にあの姿で戦っているのは見たんだが、俄かには信じられなかった。

 

 そして、ツルミさんは祝福も使えるという。

 勿論、宗教関係の人なんだろうから当たり前だと思っていたのだが、宗教とは無縁という。

 なら、どうして祝福が使えるんだ?

 

 そういえば、勢いで流されていたが、御者仲間に売った道具はワタヌキが袋から出したものだ。

 あの数、あの重さを、ぼろ袋に仕舞えるわけはないよな。

 

「唖然としているところ申し訳ないんだが、そんなわけでな」

「どんなわけか知らんが、もうあんたらだけで戦力は十分だろう?」

「戦力はあればあった方がいい。目も耳も多い方が安全だ」

「そりゃあそうなんだが」


 俺も元の仕事を考えれば、村人よりはマシだが、ワタヌキには太刀打ちできない。

 まあ、安心して背中を預けられると思えば楽なんだが、あの牙や爪がこちらにむくとなるとな。

 

「あんたを信用してるから、雇ったんだ。何を考えているかは想像つくが、リョウの保護者として良い関係でいようや」

「うん、そうだな」


 リョウのことを思えば、この人たちがいてくれて安心できる。

 それに、カスミの技なのか加護なのかわからんが、色々伸びしろもありそうだ。

 

「それで、改めて聞きたいんだが、目的地というかやりたいことはなんだ?」

「あれ? 言わなかったか? 飯の改善だよ」

「いや、それは聞いた。だが、そんなに大事なことなのか?」

「サスケさん、ウチが言うのもなんだけど、ここのご飯はひどいよ」


 ひどいと言われてもな。

 生まれてこの方、ずっとそれを食ってきたんだ。

 

「生憎三人とも料理はできんが、多少の知識はある。まずは肉を獲ろう」

「肉? まあ、鳥は獲るのが難しいが、何でもよければ、その辺にいるかも知れん」

「鳥の方がいいなあ。まあ、他のも捨てがたい。時間はかかるが出汁にできる」

「ダシ? まあ、いたら声をかけるさ」


 肉なんて、焼くか野菜と煮るぐらいだろう?

 よその国では違うのか?

 

「まあ、今の時点でもだいぶ距離は稼げた。せめて東西の分岐までは進もう」

「わかった。今夜は分岐を進んだ先で野営だな」

「そうなるな。東の方は動物も多い。西は荒野に出ると痩せた獲物だけになるからな。あとはヘビとかだな」

「ますます東だな」


 そんな話をして再び馬車を動かす。

 賊も出てこなかった。

 

「お、ポンドの群れが水場にいるぞ」

「ポンド? 鳥か? 四つ足か?」

「肉付きのいい鳥だ。基本は飛ばない」

「ハゲリン、やるか? カスミも準備しろ」

「ウチは何でやればいい?」

「まっすぐ飛ばせるなら雷で。できないなら石かな」


 ツルミさんとカスミがやるらしい。

 馬車をゆっくりと停止させる。

 

「別にとれなくてもいいからな。気負わずやれ」

「わかった」

「うん」


 さて、どうなる?

 

「サンダーバレット」

「釘鉄砲」


「王子? 呪文が違うんじゃないか?」

「なんでもいいみたい。イメージだよ。雰囲気でもいい」


 二人が呪文?を口にした後、三匹のポンドが倒れた。

 他のポンドは一斉に逃げ出す。

 

「よくやった。リョウ、ついてこい」

「うん」


 リョウを連れて行く。

 なるほど始末と捌きをやらせる気か。

 

「俺もいく」


 興味が湧いた。

 二人が何をしたか見たかったから。

 

「釘が首に。二匹ともうまいこと当てたな」

「こっちは傷がないですね。カスミのくせに。くやしいな」


 狩人だった父を思い出しているんだろう。

 リョウだって、そのうちこれぐらいは朝飯前になるぞ。

 何を狩るかはリョウ次第だけどな。

 

「とりあえず血抜きしよう」

「そういうもんなのか?」

「狩りをしたことないのか?」

「ああ、今日が初めてだ。動物はな」


 なるほど。

 動物は、か。

 

「まあ、見ててくれ。大した手間じゃない。血抜きさえしちまえば、あとは羽と内臓の処理だけだからな。馬車でもできる」

「ワタヌキ、ボクが教えてあげるよ」

「おう、頼むわ」


 そうか、少しは教えてもらっていたんだな。

 よかったな。リョウ。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。