第二十六話 後処理と出立
「お、ここにいたのか」
番所の下っ端が声をかけてきた。
「よお。どうした?」
「坊主のツルミが騒ぎを起こした。番所まで付き合ってくれ」
王子ちゃんが騒ぎ?
そんなわけはなかろう。
大方カスミが暴れたんだろうな。
「わかった。サスケさんはどうする?」
「俺もついていこう」
さて何事かね。
* * *
ツルミという青瓢箪。
暴れるようには見えなかったがな。
番所に着く。
「何か迷惑かけたって? 悪いな」
「お、やっときたか」
「兵士長さんか。どうしたんだ?」
「ツルミが暴れたんだよ。まあ、悪いのは相手だから罪には問えないんだが」
「鶴見が? そんなわけないだろう」
酔っ払いに絡まれでもしたか?
昼間から飲んでる奴らなど碌なもんじゃないからな。
「なるほど。酔客がカスミをからかったと。鶴見と話せるか?」
「構わん。だが、もう少し身柄を預かるぞ? 今日中には返せるとは思うが」
「話せればいいよ」
俺の方は相手の状態でも見てみるか。
「俺はあっちの方を見るよ。見知った顔だ」
「ん? ああ頼む」
兵士長も知り合いだけどな。
「なんだこれ? おい、お前何をされたらこんな傷を負うんだ?」
「あ? サスケか。あの坊主が何か仕込んでたんだ。おかげで体中穴だらけだ」
「見せてみろ。番所よりもまともな薬草を持ってる。少しだが痛みは抑えられるだろう」
「おう、すまねえな」
なんだこれ?
釘か? 釘を投げたのか?
なるほど。
「ほれ、今手持ちはこれしかない。もう昼間から飲むんじゃねえぞ」
「やなこった。酒ぐらいしか楽しみがねえんだ」
「わからなくはないがな。まあ、相手見て喧嘩売るんだぞ」
ツルミもやるもんだ。
* * *
「ヌタさん、悪いね」
「どした? お前っぽくないな。って言いきれるほどお前のことを知ってるわけじゃないけどな」
「ちょっと耳を貸して」
「おう」
カスミのパチンコからヒントを得たこと。
練習したかったこと。
正直に話した。
「だからって、お前。いきなり人を相手にやるんじゃねえよ」
「ごめん。僕も攻撃手段をもっておかないとさ、ちょっと焦ってたかもしれない」
「まあ、相手が死ななかったからいいけどさ」
「死んでもいいんじゃないか? カスミに手を出そうとしたんだから」
女性や子ども、弱い相手にしか強気になれない奴らなんか死ねばいいんだ。
「過激だなあ。まあ俺も言えた義理じゃないが……」
「申し訳ないけど、リョウとカスミをお願い」
「それはわかってる。まあ、お前も早く出られるようにアレしておくよ」
「僕はいいよ。反省しておく。宿で待ってて」
ちょっとカッとなったのも事実だ。
抑えられない衝動を感じたし、自分じゃない感じもした。
冷静でいられないのはよろしくないからね。
「まあ、好きにしろ」
言葉は冷たいが、心配してくれてるのが伝わる。
いい人なんだろうな。
この人は。
「お前は怪我してないんだよな?」
「ああ、この通り。毛が無いね」
「開き直った奴にしか言えないギャグだな」
「あと、レベルアップした。大したことはできないけどね」
無力には違いないが、意表はつける。
「本当に。これから先いくらでも機会はある。もう無茶するなよ」
「うん。ごめんね」
素直に謝っておく。
「さて、お前はもうちょっとここにいろ。後で迎えにくるから、勝手に帰ってこようとするなよ」
「信用無いけど仕方ないね。わかった」
土の上に横たわる。
牢と言っても何もない。用を足すための甕はあるけどね。
イライラしていたのかな。
きっと僕は日本で死んだ。何もできずに。
そしてこの世界に落とされた。
ご飯はまずい。首を平気で切り落とす。
賄賂は横行しているし、秩序なんてどこまで期待してよいやら。
こんな世界で何をすればいい?
そんな苛立ちが少し暴発したのかも知れない。
和狸はいい奴だと思う。
こんな状況でも前を向いている。
しばらくの間は、彼について行こう。
邪魔にならないように。
今回の、いや今日までの借りを少しでも返したいな。
そんなの気にするなって言われそうだけどね。
* * *
「兵士長すまんな。これでなんとか収めて欲しい」
「ん? ああ、こちらこそすまん。これは受け取れん」
「なぜ? 俺たちがよそ者だからか?」
「そうじゃない。坊さん相手に喧嘩をして、もみ消すわけにはいかないんだよ」
他の宗教が絡むと面倒なことになるな。
「坊主とは言うが、あいつは本当に駆け出しだ。それにこっちには縁も何もない」
「私もできれば面倒事は避けたいんだがな。代官も領主も宗教関係だけは厳しいんだ」
「そうか。じゃああいつはしばらく檻の中か?」
「ツルミは連れて帰っていい。だが、後日再び話を聞かせてもらうことになる」
そりゃあ面倒だな。
「わかった。それまではおとなしくしておくよ」
「というわけで、その金は名残惜しいが、しまってくれ」
「いや、俺だって男だ。一度出した金は戻せん。迷惑料として受け取ってくれ。それでどうこう言うつもりはない」
「ふむ。それなら仕方ないな」
多少というには大きい額だが、後始末をさせるだろうからな。
すまんな兵士長。
「独り言だ。黙って聞け」
「ん?」
「おそらく明日には呼び出される。明日の早朝までならなんとかなるんじゃないかな」
「ふむ」
「北門。お前たちが来た方の門は開けておいてやる」
恩に着る。
すまんな。
「世話になった。鶴見は連れて行く」
「ああ、しばらくはおとなしくしておけよ」
「もちろんだ」
人は人なんだな。
ふむ。少し考えを改めよう。
だが、忙しくなったな。
全員で宿に戻って休んでいる暇はない。
皆と相談しよう。
* * *
「皆すまないね。僕のせいだ」
「違うよ。あの酔っ払いがウチに手をだしてきたから!」
「ツルミ様は悪くありません」
「三人ともいいから話を聞け」
そんなこと言ったって、ウチのせいだもん。
「カスミもそんな顔をするな。大事な話をする」
「でも……」
「サスケさん、急で申し訳ないが明日の朝までに出立したい」
「おい、まだ必要最低限しか揃ってないぞ?」
出立? 出かけるって意味だよね?
ウチのせいだ。
「わかってる。だが、兵士長が勧めてくれた。明日の朝までは北門、リョウの住んでた方の門を開けておいてくれる」
「門を?」
「ああ、どうやら鶴見の取り調べは面倒なことになりそうなんだ」
ごめんなさい。鶴見さん。
「だから、そうなる前に逃げておけってことだろう」
「そうか。兵士長の勧めなら従った方がいい」
「というわけで、準備をしたいんだが今度は組み合わせを変えるぞ」
「俺は馬車の最終確認がある。積めるだけの用意はするが、食料だけはそっちで頼む」
「ああ、わかった。鶴見とリョウ、二人はサスケさんの手伝いだ」
ウチも残った方がいいと思うんだけど。
また、迷惑をかけるかも知れない。
「カスミはポシェットがあるだろ?」
「あ」
「そうだ。それがなきゃ買い出ししても運びきれん」
「わかった」
そうだね。役に立たないとね。
「というわけで、もう宿には帰らん。そっちも引き払ってくる」
「よろしく伝えてね」
「わかった」
「では、それぞれ行動しよう。ほれ行け」
そこからは慌ただしかった。
食料も買えるだけ買い込んだ。
と言っても、当面のパンと調味料。
小麦と米。料理道具一式。
何に使うかわからない薬草や草木。
和狸もわかっていないみたいだけど。
籠一杯に買い込んで、人気のない所でポシェットへ。
もうポシェットの性能テストとか言ってる場合じゃない。
かなりのお金を使って買い込んだけど、今のところ一杯になる気配はなかった。
少なくとも日本にいた時の私の部屋ぐらいは詰め込んだと思うけど。
必要な物を買ってからは、着替えの類や布、桶、その他日用品を買えるだけ買った。
「そろそろ金がやばいな」
「結構使ってたけど大丈夫なの?」
「日本円で二百万近く持ってた。残りは二十万ぐらいだ」
「大丈夫なの?」
百八十万の買い物なんて……
いくら急ぐからって、足元見られたんじゃないかな?
「仕方あるまい。値段交渉してる暇も惜しい」
「そうか。ごめんね。私のせいだ」
「お前のせいじゃない。酔っ払いどもが悪いんだ」
「でも、ほら、私が魅力的だから」
「ぷっ。そうだな。お前は魅力的だな。あと十年ぐらいしたら実現するだろうけどな」
「和狸の馬鹿」
私を忙しくさせて、つまらない事考えないようにしてくれてるのかな。
鶴見さんといい和狸さんといい、お人好しだね。
ありがとう。




