第二十五話 需要と供給
あの後、カスミのポシェット活用法について、三人で話し合った。
リョウは置いてけぼりだったが、致し方あるまい。
元ネタを知らんのだから。説明するのも大変だし。
AとかFとか。マンガとかな。
明けて今日、朝食を済ませサスケ氏を待っている。
その間に、ストック用に実験をすることを決めた。
内容量や保存性、消失の可能性などは、すぐにはわからない。
滞在中に試していくことにした。
馬車もあるんだ。積んでいく余裕はあるだろう。
あとは資金繰りだな。
昭和屋は道具関係に変わってしまったから、すぐに売れそうなものはない。
あまり大量に売り込んでも、足がつくのも困るし、評判になってリピーターが現れても困る。
となると、買い置きしたマッチ、鉄瓶のいくつかを売りさばくことになる。
ツル司祭の祝福は使わないことにした。
変に目立つのも避けたい。
また代官やその上の領主にまで目を付けられると、旅どころじゃなくなる。
というわけで、手持ちと在庫処分で馬車関連費用、当面の食事、カスミ用の旅支度をすることになる。
「まあ、そんなとこか」
「そうだね。お金周りはヌタさんに任せるよ。僕らは小銭だけ持っておこう」
「わかった。まあ必要なものがあったら言ってくれ。スマイル使って値切って買おう」
サスケ氏の方でどれくらい必要になるか。
足りるといいなあ。
「入るぞ」
「おはよう、サスケさん」
「少し遅くなった。馬車周りでどれくらい必要か確認していた」
「まあ、長い旅になるからね、しっかり見てもらった方がいい」
だいぶお疲れの様子だな。
手間かけさせちまったかな。
「で、どれくらい金がかかる?」
「最低限は2000Dだな。後は次の補給か修理のあて次第だ」
「そっか。とりあえず方向としては西の荒れ地か東の湿地、もしくは他の国って考えているんだけど、決まった目的地はないんだ」
「専門家から見て、これから進むにはどっちがいいんだ?」
素人よりも行程や、野盗、補給込みの経験も豊富だろう。
「そんなのは目的次第だろう? 目的はなんだ?」
「目的ねえ。それがさ……」
俺たちが日本から来たこと以外を正直に話す。
食事がメインというところで、少し呆れてはいたが、理解はしてくれたようだ。
「何にしても金を稼ぐ必要があるだろう? 目的地に着ついても金がないんじゃ、何もできまい?」
「そうだね。まあ、できるだけ安全な行程で、子ども達を守りながら旅ができればいいかな」
「それは大事だな。だがなあ、どこに行くにしても空荷じゃあ意味がない」
「空荷ではないんだ」
「どういうことだ?」
特殊な買い方は別にして、俺の昭和屋を話す。
カスミのポシェットは話さない。
まだ、使えるかわからないからな。
「なるほどな。いくつか見せてもらえないか? 客の金と交換で買ってもいいんだろ?」
「どうかな? 俺が手持ちしてないと買えない。俺にその金の権利がないと買えないと思う。じゃないとその辺の金を勝手に使いまくれるからな」
「よくわからんが、それなら、小口で商売して、金を貯めて、少しずつ取引の量を増やすしかないな」
「商売の基本だな」
「そうだな」
そう言って、今出せるいくつかを買って見せる。
「ほう、見たこともないものばかりだな。ん? これはなんだ?」
「ああ、それは鋸だな。板を製材したりするのに使う」
「ん? じゃあこれは?」
「それは鉋だ。化粧、つまり板の表面を整えたり、寸法の微調整に使う」
「聞いたこともないが……これは?」
「金槌だ。ほれ、こういう釘を打ち込むのに使う」
いろんな商品を念入りに見ていく。
「これがあんたらの国では普通に使われているのか?」
「いや、もう使ってないな。もっと精巧な道具を使ってる。だから仕入れは安い」
「いくらだ?」
「正直に言うなら、一つ4Dぐらいだ。10もしない」
「お前さんふざけてないよな? 鉄の道具が4D? こっちじゃあ最低でも1000Dだぞ?」
十万ってことか。
十万? なくはないが……
「この街で、あまり大量に売りたくはないんだな?」
「そうだな。目立つのは避けたい」
「なら、俺に預けてくれないか? 御者連中に声かけてみる。というか俺も欲しい」
「構わんが、じゃあ、俺も一緒に行くよ。大量には持ち運べないだろ?」
「良いのか? 済まんな」
金になるなら喜んで。
「なら、すぐ行こう。朝一に出る連中はいないが、昼過ぎの奴らはまだ残ってる。あいつらに売ろう」
「わかった。鶴見、俺はサスケさんと行ってくる。二人を預けても大丈夫か?」
「任せて」
「ワタヌキ、ボクが二人を守るから大丈夫だよ」
子どもの方が心強いとは。
頼もしいな。
「じゃあ、一応、一人小金貨一枚ずつ渡しておくからな。無駄遣いするなよ」
「やったー!」
「いいの?」
「ボクもそれだけ?」
「鶴見はカスミの旅支度用の資金も渡すが、うまく使えよ。食料は今日買わなくていい。出発が決まってからにしよう」
というわけで、今日も二手に分かれることになった。
* * *
サスケさんのネットワークでがっつり売れた。
勿論値引きしたんだが、それでも道具は800Dで売ったし、見る目があるやつはもう買えないという言葉に乗せられて予備まで買ってくれた。
特に釘の売れ行きはすごかった。
もしかしたら、単に溶かして売るのかも知れんが、それは俺の知ったことじゃない。
結果として、わずか半日足らずで20000D、日本円にすると大体二百万円ぐらいになった。
これだけあれば、しばらくは問題ないだろう。
早速サスケさんに金を渡そうとしたら、
「いや、俺の評判も上がったし、補修はその道具を俺にくれればいい」
「そうか? 確かに4Dとかだから、いくら渡しても構わんが」
「その道具と釘があれば、大抵の修理はこなせる。板材だけ積んでおけばいいだろう」
「なるほどな。車輪なんかは?」
「それもある程度目途が立ってる。普通はあまり使わんが、長距離用の車輪には鉄を巻くんだ」
耐久性があがるのか。
「だが、時間さえかけられるなら、あんたにも手伝ってもらって、釘から鉄板も作れるだろう?」
「そうだな。それだけ熱を上げられる炉が作れるならな」
「炉は心配ない。なので、あとは食料と飼い葉ぐらいだな」
「そうか、足はあんたの腕と馬たちにかかってるからな。必要なものは言ってくれ」
「わかった」
水はカスミにやらせるか。
戦闘ではしばらく使えないだろうからな。
というか全く使えないとしておいた方がいいか?
だがなあ、自分の身ぐらいは守れるようにして欲しいんだが。
様子を見よう。
* * *
「ウチがなんであんたらに付き合わなきゃいけないんだよ」
「いいじゃねえか。ちょっとぐらい酒の酌をしてくれたって」
小腹が空いたからといって、適当な店に入ったのがまずかった。
さっそく昼間から飲んでる奴らに目をつけられてしまった。
「おい、お前たち」
「なんだてめえは」
「私の連れに手を出すとどうなるかわかっているのか?」
「坊主が俺たちに勝てると思ってるのか?」
頭皮が輝いている鶴見さん。
顔が整っているだけに、いくらすごんでも怖さは感じられない。
「ふむ。なら仕方ないね。ここでは店主に迷惑がかかる、表で相手しようじゃないか」
「ツルミ様、相手は三人ですよ! ワタヌキを呼んできた方がいいですよ!」
「大丈夫だよ、心配いらない」
あんな事言ってるけど、勝てそうには見えない。
「いい度胸だ。相手してやるよ。逃げんなよ?」
ほら、酔っ払いどもも負けるとは思ってない。
人を呼びに行った方がいいのかな?
「さて、あまり時間をかけたくないから、三人まとめてかかってきなさい」
「ふざけた口を聞きやがる! 坊主だろうが構わねえ、やっちまえ!」
本当に大丈夫なの?
と思った瞬間、鶴見さんがしゃがんで砂を掴む。
「ショット!」
「うわあ、目が!」
「痛え! 痛えよ!」
「ぐぅぁぁ」
どうやら目を狙ったみたい。
でもどうやって?
「さて、ここで降参するなら見逃してあげますよ?」
「ふざけんな! 目を治しやがれ!」
どうして戦ってる相手に治療をせがむの?
馬鹿じゃないのかな?
「まだやるなら、もっと痛い目にあうけれど?」
「ふざけんな、お前たち全員ぶっ殺してやる!」
「そうなんだ。私たちは殺されるのか。なら、これは正当防衛だね」
何をする気?
あ、あれは……
「ネイルショット!」
「ぎゃああああああ」
三人が悲鳴をあげる。
全身血まみれ。
致命傷ではなさそうだけど……
釘が全身に刺さってる。
あれは痛いわ……
「お前たち! 何をやっている!」
「おや、兵士長さん」
「ん? お前はツルミか? 何してるんだ?」
「実は連れが無理やりに酒の相手をさせられそうになりましてね」
事情を兵士の上役っぽい人に説明している。
「いや、だからと言ってだな、こんな血まみれにするのは……これ死なないのか?」
「さあ、どうでしょう。一本ずつ鉄を抜いて、止血すれば大丈夫だと思いますよ? 急所は狙ってないですから」
「面倒なことを……おい、お前たちこの馬鹿どもを番所に連れてけ。ツルミと連れも一緒にこい。報告はしなきゃならん」
「わかりました」
うーん、どうなんだろ?
もっとスマートに出来たと思うけど。




