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鶴見と和狸  作者: きじとら
第1章 目指せ楽隠居
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第二十四話 御者と馬車


「と、言うわけだ」

「わけがわかりません……」

「今はわからなくていい。だが天使でも悪神でもない。どうして俺たちがここに来たのかもわからない」

「帰りたいのですか?」

「いや、俺たち二人はそうでもない。カスミはどうだ?」

「ウチも別に……」


 何か事情があるのか?

 まあ、話したきゃその内話すだろう。

 

「そんなわけで、こっちで暮らしたいとは思っているが、如何せん不便すぎる。あと飯な」

「ご飯はよく話をされてますよね。そんなに違うのですか?」

「生憎ここにいる三人では再現できないからな。説明はしないが、リョウにも食わせてやりたいよ」

「そんなに? めちゃくちゃ食べたいです」


 俺だって食いたいさ。

 

「まあ、その辺は機会があればな。でだ、明日の御者次第でこれからどうするかを決める」

「そうだね。サスケ氏が仲間にならないなら、人と馬車を両方探すか、歩きで旅に出るしかない」

「いや歩きは避けよう。しばらく野盗の相手はごめんだ」

「そっか。じゃあ、この街か次の領主の街、もしくは近隣の集落で探すしかないね」

「まあ、それは明日には決まるだろ? それよりもカスミの分の旅の仕度をしなきゃならん」


 馬車が使えるなら、他にも載せていきたいものも出るだろうしな。

 

「じゃあ、やっぱりサスケ氏待ちだ。おや? 誰か上がってくる」


 そう言い終わる前に、ドアがノックされる。

 

「お坊様、お客様が来ましたが、下で会いますか? 部屋に呼んでもいいですか?」

「お客さんは、なんて名乗ってました?」

「ああ、御者のサスケさんです」

「それなら、ここへ呼んでください。あと申し訳ないが、果実酒を三人分と果実水を二人分。お金は後で払います」

「わかりました」


 サスケ氏か。

 俺は初めて会うが、どんな奴なんだろうな。

 

 * * *

 

 鶴見さん、和狸、リョウちゃん。今度はサスケという人。

 今朝まではほとんど絶望していた。

 

 知らない人、よくわからない食べ物。

 

 捕まったし、すごい怒られた。

 

 女子高生なのに、「お前は大人のくせに」と散々言われた。

 そして、牢から出してやらないこともないといって、身体を触られた。

 

 怖かったし、嫌だったから突き飛ばした。

 そしたら殴られた。

 

 もうすべてが嫌だった。

 

 でも和狸が出してくれた。

 おっさんだけど悪い人ではないようにも見える。

 

 鶴見さんの方は、何を考えているかわからなかった。

 そもそも考えているかすらわからない。

 

 そんなことを思っていると、再びドアが叩かれ、男の人が入ってきた。

 少し小柄なおじさんだ。

 

「すまんな、休んでいるところ」

「いいえ、僕たちもあなたの決断を待っていたところなので丁度良かったです」


 鶴見さんは言葉は丁寧なんだけど、なんか違うんだよな。

 先生みたいな感じがする。

 盗撮で捕まった先生。

 

「そうか、じゃあ待たせてしまったな。結論から言おう。俺も一緒に連れて行ってくれ」

「いいんですか? 大した給金も出せませんよ?」

「金は構わない。ただ、馬たちのエサ、馬車の修復だけは負担してもらいたい」

「それは勿論です。お世話になるんですからね」


 どうやらまた一人増えるみたい。

 

「リョウ、俺の事を覚えていないのはわかった。だが、お前の父さんとの約束もある。時間がかかるかも知れんが、それだけは伝えさせて欲しい」

「ボクは構いません。お父さんから教わるはずだったこと。もう誰にも教えてもらえないと思ってましたから」

「そうか。本当は十二になるまでは待とうとも思ったんだが、この機会を逃すともう会えないかも知れないと思ってな」


 リョウちゃんも色々大変みたい。

 可哀想。

 

「ん? 乗せるのはこれで全員か?」

「そうですね、紹介しますね」


 鶴見さんが和狸や私を紹介していく。

 

「ふむ。馬車の足回りを強化しないといけないな。予備の部品も欲しい」

「支度金が要りますね?」

「そうだな。蓄えはあるが、できれば少し持ってもらえるとありがたい」

「では、明日にでもどこかで話し合いましょう。こちらに来ますか?」

「ああ、こちらの部屋の方が広いからな」

「では、明日朝食を食べてから、ここで集合にしましょう。宿屋の奥さんには言っておきますので、店の入口で奥さんに声をかけてもらって、直接ここへ来てください」

「わかった。では一旦帰るとする」


「リョウ、いいのかい?」

「ツルミ様とワタヌキが決めたことなら、ボクは構いません」

「そうか。ただ、お前も言いたいことは言うんだよ?」

「ありがとうございます」


 リョウちゃんは健気だなあ。

 私も見習った方がいいかな?

 

 あ、あの人帰っちゃったけど、飲み物来るんじゃないのかな?

 少し飲ませてもらおうかな。

 果実酒。

 

 * * *

 

 足は確保できた。

 元手は必要だが、なんとかするしかない。

 

 あとはなんだろう。

 

「ヌタさん、どうしようか?」

「金は一旦後回しにしよう。先に戦力だ」

「戦力?」


 そうだね。

 野蛮な地域だ。

 頭数は増えたけど、リョウやカスミという子どもがいる。

 僕は戦力にならないだろうし。エアガンじゃあね。

 

「と言っても、戦えるのは俺だけだな。サスケ氏は強そうだが、馬車と馬を守ってもらう必要がある」

「ボクも戦いますよ!」

「ウチは荒事はちょっと」


「リョウ、気持ちだけもらっておく。まずは体力と体を作る方が先だ。別にお前が女の子だからじゃない。自分の身は自分で守る。カスミもだよ?」

「わかりました!」

「体育は苦手なんだけど……」


 そうだよな。

 普通の女子高生が、あんな凄惨な現場に立ち会うことなど、日本じゃあり得ない。

 

「カスミ、そうも言ってられないんだ。こっちではリョウでさえ、盗賊の首を落とすことができるんだ」

「ひぃぃ」

「それぐらい普通だよ?」


 うん、常識にだいぶ差がありすぎる。

 大丈夫かな? この子。

 

「最初の内は仕方ない。だがせめて自分の身だけは守れるようにしよう」

「うん……」


 難しいかなあ。

 

「おい、カスミ、そしてリョウ。今からお前たちを驚かせるかも知れない」

「どういうこと?」

「俺の加護みたいなもんだ。きっと大声を出したくなると思う。だが、他の客に迷惑だから、枕を持って口に当てておけ」


 ヌタさん、獣化するのか。

 僕も興味がある。

 

「じゃあいくぞ……チェンジ!」


 ヌタさんの体が光に包まれる。

 うわ! これは強烈だ。

 

「グルルゥゥ!」


 子ども二人は必死に声を出さないようにしてる。

 僕も声を出すところだった。

 

「ギャァウ!」


 再び体が光に包まれる。

 

「驚かせたな。これが俺の加護、獣化だ」

「まじふざけんな! おしっこもれるかと思っただろ!」

「カスミ、女の子がそんな口をきいたらだめだよ」

「ワタヌキ……かっこいい……」


 反応が両極端だね。

 

「この間まではバイクにしかなれなかった。だが今は、オオカミと……のハイブリッドに変身できる」

「オオカミと何? よく聞こえなかったよ? ワタヌキ」

「タヌキだよ!」


 恥ずかしいんだね。名前にも入ってるから。余計に。

 

「カッコいいよ? 普通のオオカミよりも強そうに見えた」

「そ、そうか? なら良かった。カスミはどうだ?」

「カッコいいとは思わないけど、強そうだね……夜には会いたくないね」


 ヌタさんがちょっと落ち込んでる。

 

「そうか……まあ、そんなわけで俺は近距離なら強い」

「近距離だけになるんだね。となると大人数や遠距離の相手は難しいんだね」

「そうなるな。脚は速そうだから、瞬殺すればいけるかも知れんが、やってみないとわからん」

「長距離欲しいね」

「そんな都合よくは攻撃手段なんて手に入らんだろう。盗賊も斧や幅広の刀みたいなのだったしな」


 文明の差かねえ。


「まあ、すくなくとも無力じゃないだけありがたいよ。僕が役に立たなくて申し訳ない」

「お前は祝福して笑顔を振りまいてくれ。適材適所だ」

「だけどそれも場面が限られるからね」

「そうだな。まあ、あとはなんとかしようじゃないか。昭和屋もあるんだ。そう悲観的に考えるな」


 ヌタさんは、なんだかんだ言って優しいよね。

 リョウも、サスケも保護する気満々だし。

 二人を守るという意思表示だったんだろうしね。

 今の獣化を見せたのも。

 

 お金か。

 どうしようかなあ。

 

 * * *

 

「あのさ……」

「どうしたカスミ?」

「ウチ、パチンコって言ったじゃない?」

「それがどうした? 年齢的にはまだギャンブルするには早いぞ?」


 カスミが話し始める。

 この人もツルミ様たちと同じ国の人なんだよね。

 

「実はさ、ギャンブルのパチンコじゃないんだ」

「どういうことだい?」

「しょぼいからあまり言いたくなかったんだけど、これ見て」


 そう言って何もないところから、変な棒を取り出した。

 二股になっている棒だ。

 

「そっちのパチンコか。スリングショットって言えばいいのに」

「スリングショット? そういうものなの?」

「英語では確かそんな名前だったはずだよ」

「そっか、そっちの方がカッコいいね。ここじゃあ全部は見せられないんだけどさ」

「うん?」


 そう言って、棒をワタヌキの方に向ける。

 

「エアショット」

「いて! 何すんだよお前」

「空気しかあたってないでしょ?」

「ん? ああほんとだ傷はないな。服も大丈夫だ。弾は空気だけか?」


 お腹をさすりながらカスミに聞いてる。

 

「いや、火とか水とか、あとは雷とか? そんなのも撃てる。だけどしょぼいよ?」

「まじか。ハゲリン、お前の上位互換が現れたな。お前は完全にスマイル要員になったぞ」


 ツルミ様をハゲリンとか言って欲しくないんだけど……

 

「僕は荒事には向かないからいいんだよ。それとカスミ、それを鍛えた方がいいと思うよ」

「鍛える? どうして?」

「僕はジョブのスキルだと思ってるんだけど、使えば使うほどレベルアップするっぽいんだ」

「そうなの? じゃあ、これも?」


 そう言って今度も見えない空間に手を入れていた。

 見えない?

 

「ほら」

「なんだそれ?」

「こっちは四次元ポシェットって言うっぽい」

「思いっきりパクリのニオイがするな」

「そうね。単にポシェットって呼ぶね」


 一体、何の話をしてるの?

 何なの? 四次元って。

 

 


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