第二十二話 四人目?
さて、番所に来たが……
「邪魔するよ」
「お、あんたは。まだ何か用かい? まさか首持って来たんじゃないよな?」
「大丈夫、ほら手ぶらだ」
「そうか。しばらく首はいいわ」
そりゃあ、あれだけの首を処理したんだろうからな。
済まないねえ。
「で? 今度はなんだ?」
「ああ、口入屋で罪人の身請けのこと聞いてきたんだ。旅の世話係が必要になってな」
「なるほど? だが金はあるのかい? 罪状によって身請け金が違うぜ?」
「そんなに違うのか?」
聞いてないんだが?
「まあ、ここじゃあわからんからな。代官のところに行ってみるといい。あんたなら感状を見せれば、中には入れてもらえるだろ?」
「門はくぐれそうだな。そうだな。行ってみる。身請けは代官様の屋敷で受けてるのかい?」
「うーん、どうだっけな。判所だった気もする」
そう言って、判所と代官の屋敷の場所を教えてもらった。
まずは判所だ。
「すまん。用があって来たんだが」
用もないのに来るわけはないんだが、何て言っていいかわからんからな。
とりあえず門越しに声をかける。
「誰だい? 見ない顔だな」
「ああ、首狩りって言えばわかるかな?」
「首狩り? 本当か? 感状か下賜の物を見せてみろ」
「これだろ?」
そういって、両方見せる。
「お前はワタヌキの方か?」
「そうだ」
「首狩りか」
「そうだ」
「何の用だ?」
事情を説明する。
「お前の場合、代官様の方が話は早いと思うが、普通はこっちで受けるからな。まあ中に入れ」
そういって判所の中に入れてもらう。
「で? 旅の供というが、男か女か? 何か希望の職はあるのか? 言っとくが罪人だからまともな奴は期待するなよ?」
「男でも女でもいい。ちなみにだが、身請けしたら給金はどうなる?」
「変なことを聞くやつだな? 身請けしたらお前たちの者だ。給金などいらんだろう。飯ぐらいは食わせてやれよ?」
奴隷みたいなもんじゃねえか。
でも、まあそんなもんか。
「希望の職は、飯が作れればいい。あとは夜の番を務められる奴だな」
「夜の番をやらせるのか? まあ旅なら仕方ないか」
「いるかい?」
「飯はわからんが、コソ泥でもない限りほとんど野盗崩れだからな。夜ぐらいはできるだろ」
うーん、むさい男に持ち逃げされると腹立たしいんだがな。
「まあ、牢に案内する。声かけても構わん。好きに見てみろ」
「話が早いね」
ここでも袖の下が生きてくる。
直前に渡しておいてよかった。
* * *
「リョウの面倒は見たいですが、旅ですか……」
「給料も出しますよ?」
「給金は馬が食える分と、私の食い扶持さえありゃあいいんですが」
「それなら、リョウが大人になってからも、リョウさえ望めば一緒に居られますよ? 望めばね」
子どもにべったりな親は嫌われるからね。
「ふむ。一日考えてもいいですか?」
「私たちは構いません。どのみち御者さんと馬車は必要だったので、あなたが同行しなくても違う方にお願いするだけなので」
「そいつは困るな。今どちらにお泊りで?」
宿の説明をする。
「わかりました。なるべく今夜中には答えを出します。明日の朝までは御者を決めないでもらえますか?」
「いいですよ。今日の夜も、明日の朝も大して違わないでしょうし。ゆっくり考えてください」
サスケ氏とはそこで別れた。
「リョウ、まだ何か飲むかい? それとも何か食べてみる?」
「飲み物はもう十分です。食べ物は……」
育ち盛りだからね。
「好きな物を頼むといいよ。行儀は悪いが、私にも一口味見させてね」
「いいんですか? 味見は勿論です!」
何やら給仕に注文している。
どうやら甘い物のようだ。
「これです。先に食べてみてください」
「いいのかい? じゃあ遠慮なく。ふむ、はちみつか」
「よくわかりますね?」
「まあ、あっちでも食べていたり、紅茶に入れていたからね」
リョウが驚いている。
そんなに甘味が高価なのか?
ん? そんなに高価なものを強請ったのか?
まあ、いいか。子どもだもんね。
「あとは全部食べていいよ」
「え、そんな、悪いです」
「いいから、いいから」
そう言って、一口一口を噛みしめながら味わっている。
よかったね。リョウ。
食べ終わるのを待って話しかける。
「サスケさんって本当に知らないのかい?」
「うーん、小さい時、五つぐらいですかね? 会ったような気はするんですが……」
「五つかあ、それじゃあ覚えてなくても無理はないね」
「でも、ボクはツルミ様と一緒に旅に出ますから」
「そうかい? ありがとうね」
笑う顔もかわいいね。
さて、サスケ氏か。
御者という条件は合うが、馬車のサイズも聞いてなかった。
おそらく独り身なんだろうとは思う。
それに腕に覚えもありそうだね。
馬車次第かあ。
* * *
「おい、あんた! それってスウェットだよな? 今着てるのって」
「そうだな。スウェットだな。よく知ってるな?」
牢の中には薄汚い恰好をした女、本当に女か?
「あんた、日本って知ってるよな?」
「知ってたらどうする?」
「頼む、ウチをここから出してくれ。なんでもする!」
女の子?が何でもするなんて言うもんじゃないぞ?
「お前何をして、ここに入ってる?」
「ま、万引きだよ」
「いや、そいつは食い逃げだな」
「そうか、無銭飲食はいかんなあ。皿洗いでは駄目って言われたのか?」
「やっぱり! お願いだから、ウチをここから出してください!」
ふむ。どうするかね。
「こいつの身請けはいくらかかる?」
「うーん、ちょっとまて」
そういって何やら書きつけを見ている。
しまった、感状の文字を確認するのを忘れてた。
「金貨一枚だな」
「高えなあ。いらんいらん」
「なあ、おい、頼むよ! 金貨1枚ぐらいすぐウチが稼ぐから!」
「こいつってあとどれぐらい入ってるの?」
「半年かねえ」
「やだよ! こんなところに半年も入れられるなんて!」
そりゃそうだろうな。
トイレも丸見えだ。
まあ可哀そうではあるな。
「お前、飯作れるか?」
「当たり前だよ! 得意料理は目玉焼きとおにぎりだ!」
「それは料理とは言わねえよ」
しゃあねえな。
用途とは合わんが、どうやら同郷のようだ。
連れ出すしかあるまい。
「金貨一枚でいいんだよな? 少し色をつけるんで手間賃としてとってくれ」
「お、悪いな。んじゃこのまま連れてっていいぜ?」
「わかった。ほれ、受け取ってくれ」
というわけで、この女の子?を連れ出すことにした。
「で? お前名前は?」
「神宮寺だ。お願いがある」
「神宮寺? 随分大層な名前だな。で、これ以上まだ願いを言うと。言ってみな」
「飯を食わせてください」
「はあ、わかった。とりあえず俺たちが泊まっている宿屋に行こう」
そう言うと、急に神宮寺の足が止まる。
「変な事はするなよ?」
「変な事? お前飯食うんだろ?」
「飯しか食わないからな?」
「え? 飯しか食わないの? 役立たず? 何でもするって言ったよな? 牢に戻るか」
やべ、神宮寺の目じりに涙があふれてきた。
「ウチ、まだ十六歳なんだよ。頼むよ……」
「十六? マジか」
「マジ……」
そりゃあ、何もできませんな。
ハゲ司祭に任せよう。
俺はお断りだ。
* * *
運が悪かっただけだ。
気が付いたら森の中にいた。
道が見つかったので適当に歩いたら街に出た。
とにかくお腹が空いていた。
お金どころか所持品もなかった。
でも限界だった。
店先の果物らしきもの。
それを盗んで逃げた。
うまかった。
甘くはなかったが二日ぶりに口にした食べ物はうまかった。
ようやく落ち着いたら、腹が騒ぐ。
もっと寄越せって。
ニオイにつられて飯屋っぽいところに入った。
注文を聞かれて何て言えばいいかわからなかったから、近くの客を指さし、同じものを頼んだ。
お金は働いて返せばいいと思った。
だけど兵士に連れて行かれた。
取り調べみたいなのを受けたが適当に誤魔化した。
日本なんて言っても通用しなかったし、JKも知らなかった。
そしたら牢屋に入れられた。
一週間ぐらい経った。
兵士が変なおっさんを連れて牢を見て回っている。
あれは間違いなくスウェットだと思った。
たまらず声をかける。
日本もスウェットも通じる。
良かった。仲間がいた。
ようやくこれでウチもここを出られる。
メシが食える。




