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鶴見と和狸  作者: きじとら
第1章 目指せ楽隠居
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第二十一話 馬車と御者


「リョウ」

「はい」

「馬車とは乗り合い以外に何があるんだい?」

「交易と旅、後は貸し切りですかね」


 宿屋の奥さんに教わった、馬屋と言っていたが、そこに向かう道すがら、基礎知識をつけていく。

 

「交易はわかるが、旅と貸し切りはどう違うんだい?」

「旅は基本的に街までしか行きません。行く先のある馬車ですね」

「行く先のないのが貸し切り?」

「そうですね。仕入れなどが多いと思いますが、一定期間借りて荷物を運ぶのが主です」


 そんなの御者次第だと思うのだが。

 そうそう、御者は自営業者だと教わった。

 元締めがいて手配するわけじゃないそうだ。

 

 まあ馬車屋は情報交換や依頼のとりまとめで手数料を稼ぐらしい。

 あとは御者用の宿泊などだそうだ。

 

「私たちの場合は旅と貸し切り、どちらがいいのかな?」

「どうでしょう。最終的には街が目的地じゃないんですよね?」

「そうだね。どこが目的地かもわからないからね」

「でしたら、貸し切りか雇った方がいいんじゃないですか?」

「雇う?」


 コストで考えるのかな?

 馬車の持ち主は御者か、馬車ごと雇ってこっちで面倒を見るかの違いかな?

 

「何にしても、御者を説得しなきゃいけないのは変わらないんだね?」

「そうですね。御者さん次第では金額も期間も希望通りにはならないでしょうから」


 こっちをヌタさんに任せた方が良かったかな?

 だが、口入屋にリョウを連れて行くのは抵抗があるからなあ。

 

「まあ、今日すぐに決める必要はないからね」

「そうですね。良い人がいればいいですね」


 そういって、馬屋に着いた。

 

「すみません。ご主人いますか?」


 リョウが声をかける。

 

「はいよお。坊主お使いか?」

「いえ、お坊様をお連れしました」

「坊さん?」

「ご主人、忙しいところすみませんね。馬車のあてを探しています」


 僕の磨き抜かれた(何もしていないけど)頭部を見て目が見開かれる。

 

「これは、失礼しました。高名なお坊様とお見受けいたします」

「いいえ、ただの旅の者です。どうか普通の方と同じように接してくださいね」

「そんなわけにはまいりません。で、どういった馬車をお探しで?」


 切り替えが早いな。

 商売人という感じがする。

 

「事情があって、一年ほど旅をすることになりました。ここまでは徒歩でしたが、連れが馬車を勧めるので相談にきたんですよ」

「そうでしたか。まあ、条件を聞きましょうか。何人で、どこまで? 運ぶものは?」

「今のところ私を含めて三人ですが、この街で護衛を雇おうと思っています。ですので多くても五人ですね」


「ふむ」

「目的地は修行によりますので、今のところ具体的な街などはありません。導きによってですね」

「ふむふむ」

「運ぶものは旅の道具類だけです」

「わかりました。そうなると中型よりも大きくないといけませんね。馬も二頭引きになります」


 馬のエサや水だけでもすごいコストになりそうだなあ。

 

「一頭では難しいですか?」

「無理ではないですよ? 加護のついた水差しなどがあれば、馬の水もそんなにいらないでしょうし。エサだけはある程度積んでいかないとダメですけどね」

「どれくらい見ればいいですか?」

「御者次第ですが、一年でしょう? ほとんど言い値になると思いますよ」


 その言い値ってやつがわからないんだよな。

 

「お金の工面をしなきゃなりません。大体でも目安を出せますか?」

「そうですねえ。お坊様の場合でしたら旅や貸し切りよりも、雇うのが早いでしょう。目的地が決まらないと皆嫌がりますからね」

「それはそうですね」

「根無し草ならいいんですが、所帯のあるやつは受けないでしょうから」


 そうか。雇うのか。

 月給ってわけにもいかないんだろうな。

 ある程度見せ金が必要になりそう。


「ただ、今のところ条件に合うのは見当たらないですねえ。時期も悪い。皆、地方へ出てます」

「そうでしたか」


 さて、困ったなあ。

 なんて思っていたところに、一人の男性が店に入ってくる。

 

「すまん主人、また頼む」

「おう、いらっしゃい。今回は何日ぐらいだい?」

「そうだな。三日は休みたい」

「するってえと五日前後ってとこかな?」

「それぐらいだな」


 随分と渋い人だな。

 年季が入っている。

 

「ん? お前リョウか?」


 年季の入った男がリョウに声をかける?

 

「すみません、どちらさまでしょうか?」

「ああ、そうだな。俺はお前の親父さんの知り合いで何度か家にも行ったことがある」

「お父さんの知り合い?」

「まだ小さかったから覚えてないか?」


 リョウが一生懸命に思い出そうとしてる。


「すみません。覚えてなくて……」

「いやいや構わん。どうしたお前、こんなところで」

「サスケさん、一応俺の店なんだが」

「おう、そうだな。すまなかった。リョウちょっと河岸を変えよう」

「ツルミ様、いいですか?」


 さて、良い方向に行きそうな気がするから、スマイルスマイル。

 

「構わないよ。そこの茶屋にでもいきましょうか」

「ん? お坊様のお手伝いか? 偉いな、リョウ。お坊様、済まない。少しだけ時間をいただきたい」

「いいんですよ。馬屋さん、また後で顔を出しますね」

「へい。こっちでも探しておきますんで」


 * * *

 

 誰だろう? お父さんの知り合いって言ってたけど。

 御者さんの知り合いは聞いたことがない。


 * * *

 

「リョウ、好きな物を頼め。ここは俺が持つ。お坊様もよろしければお付き合いください。一杯ぐらいはおごらせてくださいな」

「ありがたく頂戴しますね」

 

 そう言って、リョウには果実水が、我々大人は果実酒が出される。

 

「で、リョウどうしたんだ? お父さんたちは元気か?」

「それが……」

「済みません、サスケさんでよろしいですか?」

「ああ、名乗らずに済みません。今は御者をやってますサスケです」

「リョウのお父さんのお知り合いで?」

「あの夫妻を若い時から見てました。幼なじみみたいなもんです」


 果実酒。薄いなあ。

 

「そうでしたか。その両親のことなんですが……」


 リョウには可哀そうだが、二人のこと、その後の顛末を話す。

 

「なんてこった。済まねえな。助けてやれなくて」

「いいんです。仕方なかったから」

「そうか。で、今はこちらのお坊様のお世話になってるのか?」

「はい、ツルミ様と一緒に旅に出ることにしました」


 リョウの言葉にサスケ氏の顔が鋭くなる。

 

「ツルミ様、こんな子どもを連れて旅なんて、厳しいんじゃないですか?」

「厳しいかもしれませんね。ですが、リョウが決めたことですから。私が無理やり連れて行くわけではないですよ?」

「リョウ、本当か?」

「はい、ツルミ様は誰も助けてくれなかったあの街の人たちとは違います。ボクの将来の手伝いを約束してくれました」


 サスケ氏の顔は、まだ厳しいまま。

 

「リョウ、後から出てきてこんなことを言うのもなんだが、お前の父さんは俺の弟みたいなもんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだ。ほとんど会えなかったが、お前のこともずっと考えていた。幸せに暮らしているもんだと思ってた」

「……」

「だから、無理にとは言わんが、お前が許してくれるなら、俺がお前を育てたいと思っている」


 そりゃあ難しいんじゃないかなあ。

 知らないおじさんだと思うよ? リョウにとっては。

 

「急に言われても」

「そうだよなあ。ツルミ様、リョウの口入にいくらかかったんだかわからんが、俺が払う。どうか、リョウを俺に渡してくれないか?」

「お金は構いませんよ。リョウが決めることですから」

「ツルミ様?」


 だって、ここで無理を言ったら、サスケ氏は暴れそうだよ?

 リョウは強引にでも私たちと一緒に行く方が嬉しいんだろうけど。

 

「私からも一つお聞きしてもいいですか?」

「なんでしょう? なんでもお答えします」

「あなたが、年端も行かない子どもだったとして、記憶にない大人がいきなり来て、お父さんの兄みたいな者だ、今日から俺と暮らせと言われて納得しますか?」

「そう……ですね。言われてみりゃあ無体なことを言ってますね」


 まあ、我々と暮らすよりも、現地の人の方が常識的には良いとは思うんだけどね。

 

「サスケさん、あなたはリョウを引き取ってどうしたいのですか?」

「詳しくは話せませんが、リョウの親父と私にしか、リョウに伝えられないことがあります。それを教えていきたいと思いました」

「なるほど。確かにリョウも来年大人になったらお父さんから教わると言ってたね」

「はい、まだほとんど教わってません」


 ふふふ。僕だって役に立つんだよ? ヌタさん。

 

「では、こういうのはどうでしょう。サスケさんも一緒に旅に出ませんか?」

「俺も一緒に? 旅に?」



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