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鶴見と和狸  作者: きじとら
第1章 目指せ楽隠居
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第二十話 呼び出し


 昨夜の飯は普通だった。

 裏を返せば良くも悪くもない。

 これであの番所の男が「うまい」と言うんだから、これが標準なんだろう。


 今朝も変わらず。

 パンも同じ。

 一人二つずつ。

 

「腹は膨れたな」

「そうだね。お腹は一杯になった」

「おいしかったですね」


 リョウ。

 お前に美味いもんを食わせてやりたいよ。

 今は言わんけどな。

 

「さて、今日はどうするんだ?」

「呼び出しが来るまで待つか、街を見て回るか」

「見て回るならボクが案内しますよ?」


 昭和屋の商品を売りたいがなあ。

 あまり目を付けられたくない。

 

「ん?」

「どうした?」

「誰か来る」


 こいつ耳いいよな。

 俺の方が獣化持ってるのに。

 変身しないと強化されないのか?

 

「お客さん、番所から人が来てますよ」

「わかった。今降りる」


「とりあえず一つ予定が処理できそうだね」

「簡単に済めばいいけどな」


 宿を出て、再び番所へ。

 呼び出しは昨日の下っ端。

 

「兵士長さん、お連れしやした」

「ご苦労。下がって良いぞ」


 兵士長か。

 代官の部下なんだろうな。

 

「お前たちがツルミとワタヌキか?」

「そうです」

「代官より感状と褒美を預かってきた。受け取れ」

「ありがたく頂戴します」

「で、髭の方がワタヌキか?」

「そうだが」


 俺に用があるんかい。

 

「感状はお前たちに対してだが、お前には代官より別に誘ってこいと言われている」

「過分な評価だと思う。その言葉だけ受け取らせてもらう」

「なぜだ? 私の部下になれるぞ?」

「おそらくそれは光栄な事なんだろう。だが、俺はこの方の従者でな。旅が終わるまで付き添わねばならない」


 いつ終わるかわからんけどな。


「ふむ。坊主。この地で教会を開くか? 多少の便宜は図れるぞ?」

「お心遣いありがとうございます。しかしながら、苦労せず腰を落ち着けては道は開けません故」

「そうか。まあ、他の教会もうるさいからな」


 絶対俺を勧誘しろっていうわけじゃなさそうだな。

 それならやりようもある。

 

「兵士長、あんたは俺を熱心に勧誘してくれた。だが、俺も仕事がある。あんたは本当に職務に忠実だった」


 そう言いながら、こっそり兵士長の手を握る。

 兵士長。ニヤリとするってことはわかってもらえたな。

 

「そうだな。私は職務に忠実であった。だが仕方ない。事情は曲げられんな。いや残念だ」


 物わかりのいい男は嫌いじゃないぜ。

 小金貨一枚は勿体ないけどな。


「では、無事に旅を続けるがよい。ああ本当に残念だ」


 * * *

 

「すごいね。ヌタさん。いつのまに用意してたの?」

「昨日の下っ端の態度覚えてるか? あれでこの手が使えるかと思ってな」

「なるほどね。さて、これで代官の件は終了した。二日も宿をとらなくてもよかったね?」


 まあ、ここまでの移動の疲れもある。

 本当はお風呂ぐらい入りたいんだけど……

 

「一旦宿に戻ろう。んで、感状の文字、褒美とご対面だ」

「そうだね。他に急ぎの予定もない。リョウ、行こう」


 道すがら街の様子を見る。

 流石というべきか、小売りよりも卸のような店が目立つね。

 

 ヌタさんの昭和屋がうまく使えるといいんだけど。

 

「リョウ」

「なんですか?」

「日持ちする食料だと何がある?」

「うーん、そうですねえ。普通の人は自分達で乾燥肉を作ったり、かったいパンを用意すると思います」


 そうか。商人などでもない限り、人はあまり移動しないのか。

 そうなると専門の店もあるかどうか……

 

「道中の飯か?」

「うん。本来なら最初の街からここまで一週間だろう? ということはそれだけ用意しなきゃいけなかったはずだよね」

「そうだな。うまく馬車を捕まえられたからいいが、そうか、移動の足も必要だな」

「馬車もあると助かるけど、やはり食事は大事だよ」


 馬車なんてそう簡単には売ってないだろうし。

 所持金で買えるかどうか。

 

「食事か。米、食いてえな」

「言わないでよ。食べたくなってきた」

「なあリョウ」

「なんだい? ワタヌキ」

「お前、米って見たことあるか?」


 これまでの主食はすべてパンだった。

 期待できないだろうなあ。


「米? あるよ。それこそ教会ではパンよりも米が多いんじゃないかな」

「まじか! そりゃあいいことを聞いた」

「米なんておいしくないじゃないか」

「どうして? いや、こっちではどうやって食うんだ?」

「形が無くなるまで煮るんだよ。味はしないし、お腹がふくれるだけだよ。病人や体が弱っている人、老人や赤ん坊の食べ物だよ?」


 炊くわけじゃないんだな。

 まあ、食糧事情が悪ければ、米を炊くよりはお粥さんの方がいいのかも知れないけど。

 

「それなら、米も欲しいね。また一つ買うものが増えた。お金大丈夫かな?」

「どうだろうな。優先順位をつけなけりゃならんし、どれくらい旅をするかにもよるだろう」

「そうだねえ。リョウ、ここから行ける街や国ってどこがあるかい?」


「集落はいくつかあります。でも街はともかく、国はおおざっぱにしか……」

「構わないよ。詳しい情報は調べればいい」

「まあ、それなら。北は山があって、それを越えると違う国があるみたいです」


 僕たちがここに来た森の方かな?

 というか方角も確認してなかった。


「南は領主様の街、西は荒れ地、東は湿地です。それぞれひと月ぐらい馬車で行くと違う国の関所があるって聞いたことがあります」

「元の街は?」

「北の山に向かう途中です」


 そうか。交易の街って言うぐらいだ。

 ここがハブになっている可能性もあるね。

 

「ヌタさん。少し調べてみようか。米の値段もあるし、馬車が買えるかどうか」

「そうだな。いずれにしても、手持ちでは何も出来ない。少し腰を据えるか」


 情報がないからね。

 僕たちとリョウでは人手が足りないかな?

 現地人を増やす?

 でもなあ。

 

「まずは宿に戻って、三人で話をしよう。店に入ってもいいがあまり聞かれたい話じゃないだろ?」

「うん、そうしようか。出来れば米だけでも買って帰りたいけど、今じゃなくてもいいね」

「ああ、宿屋に聞けばいい」


 * * *

 

 結局、宿に着くまでめぼしいものは見つからなかった。


「さてと、まず議題を出せ」

「そうだね。どっちへ行くか。移動の足をどうするか。お金、食料、その他旅に必要なもの」

「それと人手だな」

「ボクだけじゃ足りませんか?」


 そんな顔をしなさんな。

 お前を捨てたりはしないさ。

 

「約束しただろ? お前は連れて行く。だが、三人では手分けするのも目も手も足りない」

「本当に?」

「大丈夫だ。心配すんな」

「そんなに大勢は連れてはいけないさ。一人、二人でいい。できるなら御者が出来る人か料理が出来る人なら最高だね」


 そうだな。俺たち、リョウを含めて三人とも、料理すらできん。

 いや、リョウにはやらせてないから、わからんか。


「うぐ。料理は……」


 よし、期待できないな。

 

「僕があまり戦えないからね」

「あまり? 全然だろう?」

「そうだね。全然戦えない。となると強すぎる人は厳しいかな」


 うーん。戦闘職が俺一人ってのもな。

 二人を守りながら戦うのも難しい。

 常に先制できると思えんからな。


「だが、夜営するにしても多少は心得があるやつじゃないとな」

「そっか。条件が厳しくなるね」

「まあ、素人でも多少は御者っぽいことをしたんだ。慣れれば御者は何とかなるだろ?」

「となると料理だね。女性かなあ」


 別に料理ができるなら女じゃなくてもいいんだが。

 寝首をかかれるよりはマシだ。

 

「となると、また口入屋か」


 リョウの顔がゆがむ。

 頭を強めになでる。

 

「お前はハゲ司祭と一緒にいろ。俺が行ってくるから」

「だいじょうぶだよ。ワタヌキ。ボクは大丈夫」


 一丁前に強がりやがって。

 

「いいんだ。任せておけ。お前は鶴見がフラフラどこか行かないように見張っててくれ」

「ツルミ様は方向音痴?」

「失礼だなあ。僕だって多少はわかる、と思うよ?」


 あっちでの移動手段がタクシーとかのくせに?

 まあ、リョウとセットにしときゃあいいな。

 

「んじゃ、とりあえずは宿の夫婦に聞いて、市場調査をしようじゃないか」

「わかった」

「わかりました」



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