第十九話 交易の街
「ふう。やっと着いたな」
「すみません、結局最後まで手綱握らせてしまいました」
「御者さん、気にしなくていいよ。さて、この大量の首はどうすればいいんだい?」
「その先に番所があります。そこで見てもらいましょう」
襲撃?
野盗は来たが、獣化ですぐに終わった。
うん、何の苦労もなかった。
光っている相方もエアガンをバンバン撃ってたみたいだけどな。
誰一人倒せなかったらしい。
「すいません。野盗の首を改めてもらえますかね」
「野盗? また出たのか。ここのところ多いな。ん? そっちのお坊さんは?」
「旅の者です。客として乗ってましたが、御者さんが怪我をされたんで、私たちで連れてきました」
「そうか、まあ話だけは聞かせてくれ。んで、これは誰がやった?」
「俺だ。なんか問題あるかい?」
首だけで助かった。
体まで必要となると、人に見せられたもんじゃなかったからな。
首というか顔はできるだけ傷つけないようにしたが、恐怖におびえた顔のままになったな。
「これだけの数をお前一人で? 得物は?」
「これぐらいなら素手で十分だ。従者だからな。それぐらいできんと同行は許されんさ」
「すげえな。ちょいと待ってろ、手分けして調べる。おい、誰か手伝え」
番所にいた役人なのか? 兵士なのかわからんが、人を呼びに行かせた。
二十人はさすがに多すぎたか?
「おい、これ見ろ」
「ん? こいつは野盗の首領じゃねえか。逃げ足が速くて手が出せなかった奴だな」
「こりゃあお手柄だぞ? 代官にも話をしなきゃならん」
風向きが悪いな。
あまり大事にしたくはない。
「いや、そんな大したことはしてない。出来れば早めにこの街を出て旅を続けたいんだが?」
「そりゃあ無理だ。こいつらにどれだけやられてきたか。良かったな、褒賞もでるぞきっと」
金かどうかはわからんが、欲しいは欲しい。
だが、あまり現地に痕跡を残すのもよろしくない気がしてならん。
「ヌタ。お勤めの邪魔をしては申し訳ない。それに御者さんだって早く休みたいだろう」
「そうですね。では、数日は滞在することにしましょう」
「お役人でよろしいですか?」
「まあ、そんなようなもんです。話が早くて助かります」
ツルリンに考えがあるんだろう。
任せてみるか。
「急ぐ旅ではありませんが、修行の身、いつまでも一所にいるわけにもいきません」
「はあ、まあ、そうでしょうな」
「贅沢は言いません、手ごろな宿屋を紹介いただけないか。子ども一人入れて三人で泊まれるところが良いのですが」
「ああ、それなら熊の屋がいいでしょう。あそこの夫婦なら子どもの相手もできます。料理も悪くない。多少値は張りますがボラれることもないでしょう」
熊か。
猫目だった気がする。まあ、仲間だな。
「場所は?」
「すぐそこですぜ。若いのに案内させます。うちの紹介って言えば多少は気を利かせてくれるでしょう」
「それはありがたい。では頼みます」
宿屋が決まった。
「御者さんはどうされます?」
「私はこっちの街が本家なんで、帰って休ませてもらいます」
「そうですか。ではここで別れましょう。大事にしてください」
さて、交易の街。
どうなるかね。
* * *
「こちらです。奥さん、客だよ」
「はいはい、あらいい男」
「おいおい、こちらはお坊様だぞ。気をつけろよ。罰が当たっちまう」
「そうでしたか。失礼しました。すみませんね。で、お泊りですか?」
下っ端の彼はもういいだろう。
「ここまで案内ありがとう。これ、少ないけど」
銅貨を手渡す。
「どうもすいやせん。奥さん、ちゃんと気い効かせてくれよ」
「はいよ。番所の紹介じゃあ仕方ないね」
さて、今回は私が交渉しますかね。
「色々あって数日この街に滞在します。大人二人と子ども一人。一部屋でお願いしたいのですが」
「生憎三人部屋はないんだよ。二人部屋か四人部屋、一人もあるけど高くつくからね」
「じゃあ四人部屋で。食事はどうなります?」
「朝晩食事は出しますよ。四人部屋で200Dですがいいですか?」
ふむ。さすがに高いね。
というか、あの街の主人が安くしてくれていたんだろうからね。
「結構です。湯は?」
「ああ、それなら番所の紹介なんで、夜に桶一杯分サービスしますよ」
「助かります。ではとりあえず二日分を先に払いますね。ヌタ」
「はい。これでいいか?」
資金が減ってくね。
まあ、まだ慌てる時間じゃない。
「あら、こちらの旦那もよく見りゃいい男だ。ウチの人に似てるね」
「そりゃあ光栄だな。ついでですまんが、後で水か果物水をもらえないか?」
「いいですよ。今日は歓迎ってことで、一杯ずつ用意します。それ以上は10Dですからね」
いい商売だね。
果物水が一杯千円かい。
まあ、試して美味しかったら食事時にでもまた飲むことにしよう。
「ヌタ、リョウ。足を洗ったら部屋で休みましょう」
「はい」
さてさて、平穏な数日にしたいんだが。
叶いますかねえ。
* * *
大きい部屋だ。
交易の街には一度来たことがある。
引っ越しの時、一泊だけしたから。
「良い部屋ですねえ」
「そうなのかい?」
「ツルミ様の国ではこれぐらいは普通ですか?」
「どうだろうね。こういう趣のある部屋もなくはないが……」
そうか。全く違うんだ。
見てみたいな。
そんな国。
「とりあえずどうするんだ?」
「どうするも、番所からの連絡を待つしかないでしょう?」
「そりゃあそうだが、代官だかが出てくると面倒になるぞ?」
代官様なんて見たこともない。
ワタヌキが強すぎるからいけないんだよ。
「まあ、何かしらくれるっていうんだから、貰えるものは貰わないとね?」
「貰って、はい、さよならで済むならいいがな」
「ワタヌキは代官様の配下にされるかも知れないよ?」
どこの偉い人も強い人を欲しがっているって父さんが言ってた。
父さんだって強いのに。
「それは願い下げだな。だからあまり目立つのは避けたいんだが」
「まあ、スマイルと祝福でなんとかしてみるよ」
「余計に気に入られないか?」
祝福はわかるんだけど、スマイルってなんだろう。
二人の会話の中で、ずっと気になってた。
「ただ、次は領主の街は避けようと思うんだけど、どう思う?」
「そうだな。代官はともかく領主相手は面倒だな」
「領主様は裕福だから召し抱えられれば家だって貰えるかもしれないよ?」
「リョウ、俺たちはここに住むつもりはないんだよ」
そうか。
でも、最終的にどうしたいんだろう?
「お二人は結局どうなるのが一番なんですか?」
「俺は旅をしてみたい。だが、こうも常識が違うとそれも迷うな」
「私は静かに暮らしたいね。あっちみたいな暮らしは無理でも、食事ぐらいはまともにしたい」
旅か永住なのかな。
どちらも面白そうだけど、二人ともずっと一緒じゃないんだ。
「お二人はいつかは別々に暮らすんですか?」
「男同士で暮らすのは避けたいな。だが、近くに住むのは構わん。話が出来るのはこいつしかいないからな」
「同感だね。私一人ではきっと何もできない。ヌタさんなしじゃ多分野垂れ死ぬ自信がある」
ワタヌキは何でもできそうだからね。
ツルミ様は……
お手伝いしなきゃね。
「考えはあるんだが、いかんせんこの地域の状況がわからないんだ」
「ほう?」
「再現は無理でも近づけたいと思ってる。ご飯とトイレね」
「どうやる?」
「うーん、誰もいない土地を切り開くかねえ。そんな土地があればだけどね」
「まずここが、あっちと同じ地図なのか、まったく違う形なのか。それにもよるな」
「そうだね。僕は違うと思ってるけどね」
「なぜ?」
「人々の肌、耳の形、顔の雰囲気。欧州じゃないね。アジアでもない。僕たちが知る人種とは微妙に違う気がする」
肌の色? みな同じじゃないの?
オウシュウ? アジア?
それがツルミ様たちの国なのかな?
「それに時代もわからない。なら空いてる土地はありそうだと思う」
「それでも、裕福な土地に変えれば狙われるんじゃないのか?」
「まあ、そうなんだよねえ」
さっぱりわからない。
国を作るの?
二人で?
「最終的には楽隠居がいいね」
「悪くないな。俺もそれにするか」
ラクインキョ?
なんだろう?




